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レヴェルズ//地下を抜けて

……………………


 ──レヴェルズ//地下を抜けて



「そろそろ目的地です。降車準備!」


 シシーリアが拠点から離れた地点でそう指示を出す。


 場所は緩衝地帯となっている都市の廃墟だ。爆撃や砲撃の痕跡が生々しい。


「ここからは徒歩ということですか? 偵察妖精、ドローン、衛星対策といったところでしょうか?」


「そうです。ここからは部隊を分けて前進します。我々には数があり、それは上手く機動させれば何倍もの戦力となります」


 ファティマが尋ねるのにシシーリアがそう答えた。


「シシーリア様。降車完了しました。指示を願います!」


「それぞれの端末に送信しましたが、いつものようにこれが絶対ではありません。状況に応じて前線指揮官が判断を下してください」


「了解!」


 シシーリアがそれぞれの指揮官の端末に作戦計画を送信した上でそう指示する。


 前線指揮官による委任戦術が行われているということはちゃんとした士官教育が行われているようだとファティマは考えた。どうやらインナーサークル以外にも市民を訓練した人材の層は存在するようだ。


「私はあなたについていきますね、シシーリアさん」


「ええ。お願いします、ファティマさん。頼りにしてますから」


 ファティマはイズラエルにシシーリアを守ると約束している。それにシシーリアに死なれればシンプルにグリゴリ戦線との関係が悪化するだろう。


「私に続いてください! 進軍です!」


「シシーリア様に続け!」


 シシーリアはドラクロワが描いた『民衆を導く自由の女神』のようにグリゴリ戦線の兵士たちを導いた。ファティマとサマエルはその最前線でシシーリアを警護する。


「我々の進軍ルートは地下です。旧地下構造物を通じて目的地に迫ります」


「緩衝地帯にも民間軍事会社(PMSC)はパトロールなどを設置していますが、それに対する対策はどうなっているのですか?」


「テクニカルの車両部隊が陽動を実行します。それでパトロールなどの戦力を誘引し、その隙に大規模な歩兵戦力を敵の前線基地建設地点に投入するのです」


「了解。最大限援護し、犠牲を抑えます」


 ここでファティマはあることが疑問だったが尋ねていない。


 子供たちがまだ付いてきていることだ。武装している様子のない幼い子供たちがボロボロのスニーカーで廃墟を一生懸命歩いているが、何の意味があるのかとファティマはずっと思っていた。


「さあ、ここが入り口です。妖精やドローンに捕捉される前に入ってください」


 崩壊前の世界における地下開発技術の発展により建造された地下都市。


 今はインフラも機能しておらず、有毒ガスやテリオン粒子が蓄積された箇所もある危険な場所だがそこをファティマたちは通過してジェリコが建設中の前線基地に向かう。


 地下鉄の入り口を思わせる階段を降りて、地下都市に入った。


 電気が消えているために真っ暗だ。


「ライトを」


「了解」


 軍用のZEUSかタクティカルゴーグルを持っていれば暗視装置が使えるが、グリゴリ戦線の貧弱な装備しか有さない兵士たちは昔ながらのフラッシュライトで進むしかない。


 弱弱しいフラッシュライトの明かりが地下に広がる複雑な迷宮の断片を照らす。


「気を付けて進んでください。ブービートラップや監視センサーの類がある可能性はあります。皆さん、私の後ろから進んでください」


「了解」


 シシーリアはケミカルライトも使用し、自分の位置を他の兵士たちに示し、地下を進み始めた。しかし、このフラッシュライトの光源の弱さではブービートラップや監視センサーに気づけるとは思えない。


「シシーリアさん。私が暗視装置を使います。何かあれば伝えますので」


「お願いします、ファティマさん」


 そこでファティマが脳にインプラントしている軍用ZEUSの機能を使って暗視装置を起動させる。真っ暗だった周囲が熱線映像装置による白黒ながらはっきりとした映像で見えるようになった。


「お姉さん。監視センサーがあれば分かるから妨害するね」


「頼みますよ、サマエルちゃん」


 さらに厄介な監視センサーをサマエルが無力化。


 これで地下を進む準備は出来た。


「進みましょう。時間は迫っています」


 シシーリアとファティマが先頭に立って地下を歩き始める。


 テリオン粒子によって劣化したせいで崩落した天井。放置された白骨死体。自動販売機だった機械の残骸。そういうものが無数に広がっている。


「ここは既に先遣隊が事前に地形を把握しています。迷うことはありません」


 シシーリアの言葉通り、複雑な地下でも迷うことなく進めた。


「待ってください。ブービートラップです。解除しますので止まってください」


 ファティマが指向性地雷の存在に気づき、解体する。レーザーではなくワイヤーを使っているのはテリオン粒子がレーザーに干渉するからだろう。


「解除しました。ですが、慎重に進んでください」


 ファティマはこの地下通路をジェリコがちゃんと捕捉していることを掴んだ。これから無数のブービートラップの相手をすることになるだろう。


 だが、センサーはサマエルが妨害し、ファティマが冷静にトラップを解除していくので、今のところ友軍の被害はない。


「クリアです。前進してください」


「皆さん。進んでください!」


 ファティマとシシーリアがグリゴリ戦線の兵士たちを導く。


「そろそろ出口です、準備を」


 シシーリアがZEUSで位置を把握して命じる。


 遠くに夕日の光が差し込んでくる出口が見えた。もっとも崩壊した天井が出口となっているのであり、正式な階段などがあるわけではない。グリゴリ戦線が先行させていた部隊が足場を作って昇れるようにしてあるのみだ。


「さあ、行きましょう!」


 シシーリアが先頭に立って出口に向けて昇って行き、ファティマがすぐ後から続いて出口から外の様子を見る。


「あれでしょうか?」


「あれですね。ジェリコの工兵が見えます」


 ジェリコの工兵部隊が重機を使って大型土嚢を組み立て、プレハブ式の兵舎がトラックで運び込まれている。さらには滑走路の建造も始まっていた。


「偵察妖精を展開してもいいですか?」


「お願いします。私たちの中には魔術を使えるものはほとんどいませんので」


「では」


 シシーリアの許可を得てファティマが戦術級偵察妖精を展開。


 上空からジェリコの部隊を見渡した。


「報告通りで間違いなさそうです。ARM74主力戦車を装備する戦車中隊とTYPE300装甲兵員輸送車で機械化された機械化歩兵大隊を確認。そちらに情報を転送します」


「受け取りました」


 ファティマが偵察妖精で把握した情報をシシーリアたちが受け取る。


 ARM74主力戦車は旧式の51口径105ミリ砲の戦車砲弾を改良して貫通力を強化し、砲塔を無人化することで軽量化したものだ。


 滅多に戦車同士の戦いが起きなくなった今の世界において火力や装甲を犠牲にしても機動力に優れることは利点である。交通インフラがテリオン粒子による劣化で脆弱になっているのに重量のある装備は展開できないのだから。


「ふむ。このまま車両部隊が突入するのは些か危険ですね。敵の装甲部隊に事前に撃破され有効な打撃が与えられません。少しばかり陽動を行わなければ」


「こちらから仕掛けますか?」


「ええ。ですが、まともに仕掛けても意味がありません。我々は可能な限り正面から戦うことを避けなければならないのです」


 シシーリアはファティマにそう言うと端末で将校に指示を出した。


 その指示でグリゴリ戦線の下士官と武装していない幼い子供たちがやってくる。子供たちはまるで不思議の国に冒険に来たようにワクワクしているのが、サマエル以外の子供とはあまり接したことのないファティマにも分かるほどだ。


「よく来てくれました、勇敢な子供たち。あなたたちに任せたい重要な任務(タスク)があります。やってくれますか?」


「はい! シシーリア様!」


……………………

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