表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/171

レヴェルズ//前線基地襲撃計画

……………………


 ──レヴェルズ//前線基地襲撃計画



「その傷は……」


「今も僅かに痛みがありますが、傷そのものはナノマシンでケアしています。もっとも失った生殖機能はどうしようもありませんが」


「……そうですか。その、何て言っていいのか分からなくて、すみません」


 ファティマは自分が子供を授かりたいと思ったことはない。


 エデンの人口はファティマの生まれである優生学出生施設によって保たれている。多くのエリートは結婚もせず、自分の肉体を使って妊娠もしない。そのような行為は野蛮で、リスクがあり、旧世界的であるとすら思われている節があった。


 だが、子供を望む人間がその機会を完全に奪われるというのは残酷に思われた。


「あなたは傭兵だと言うのに優しいですね。いいんです。私自身は父の後を継いでグリゴリ戦線の大義を果たすことだけが重要で、子供など気にしてないですから。ただ家族と同胞たちの復讐は果たします。必ずや」


 シシーリアは静かにそう語った。感情を殺している。


「さて、具体的な仕事(ビズ)の話をしましょう」


 パンと手を叩いてシシーリアが告げた。


「前線基地を建設しているのはジェリコの工兵部隊です。工兵とその作業を防衛する戦闘部隊が展開しています。これを叩き、これ以上クレイモア空中突撃旅団が我々の支配地域に進出することを阻止します」


「ふむ。具体的な作戦及び敵についての情報をいただけますか?」


「それについてはイズラエルから。間もなく来ます」


 シシーリアがそう言うと執務室の扉がノックされた。


「シシーリア。彼女は仕事(ビズ)を受けると?」


「ええ。作戦と作戦に関する情報を求めています。よろしくお願いします」


「分かりました。その前に先ほどの仕事(ビズ)の報酬を。50万クレジットです」


 イズラエルがファティマの端末に報酬を振り込んだ。


「確かにいただきました。では、説明をお願いします」


「まず前線基地を建設中のジェリコの工兵部隊は1個大隊。多数の重機で既に基地の基盤を作っています。それを護衛する戦闘部隊は戦車1個中隊と機械化歩兵1個大隊を中核とする諸兵科連合部隊」


 ファティマの求めにイズラエルが説明を始める。


「これを叩くのは流石に少数の部隊では不可能です。ファティマ、君の戦闘能力を見せてもらったが、それでも君だけでは無理だ。よって、我々の戦力を大規模に投入することを進言します」


「我々は死は恐れません。ですが、投入する戦力に予想される被害と得られる結果についてはどうなのでしょうか?」


 イズラエルの説明にシシーリアが尋ねた。


「クレイモア空中突撃旅団がもしこの前線基地に進出した場合、大規模な損害が出ます。それに比べればこの前線基地建設を阻止するために投入する部隊に生じる被害は少ないものでしょう。やる価値はあります」


「そうですか。では、やりましょう。投入可能な戦力を集めてください。それから移動するための車両も。余裕はありますか?」


「あります。かなりの数の車両が動員可能です」


 シシーリアの問いにイズラエルが頷く。


「私とサマエルちゃんはどのように動けば?」


「攻撃部隊に参加を。友軍の人的犠牲を抑えてもらう。君の活躍は先の仕事(ビズ)で我々の犠牲を抑えた。その力を頼りにさせてもらう」


「了解」


「しかし、そちらのサマエルという少女は何をしたのだろうか? 無人攻撃機が怪しい動きをしたのは知っているが、具体的にどのような力を?」


 イズラエルが慎重にそう尋ねて来た。


「私にも分かりませんがサマエルちゃんは高度軍用通信をジャックできるみたいなのです。民間軍事会社(PMSC)の使っているような高度軍用通信でも傍受や妨害が行えるし、無人機の制御も上書き(オーバーライド)できます」


 そのファティマの説明にイズラエルはもちろんシシーリアも険しい表情を浮かべる。


「あなたが嘘をついているとは思いませんが、何か勘違いしているという可能性はないですか? 本当に高度軍用通信をジャックできるのですか?」


「もう何度もサマエルちゃんはそれを証明していますから勘違いではありません」


「そうですか。そうであるならば頼りにさせていただきます」


 ファティマが自信を持って返すのにシシーリアがサマエルに微笑んだ。


「イズラエル。動員する部隊をリストアップしてください。具体的な作戦立案も任せます。しかし、現地での指揮は私が執ります」


「シシーリア。それはダメです。私に任せてください」


「いいえ。私はグリゴリ戦線の指導者としてその役割を果たさねばなりません。私の父がそうであったように」


「シシーリア……」


 イズラエルがシシーリアを見る表情は危うい我が子を見ているような、そんな親の顔であった。彼だけはシシーリアに宗教染みたカリスマを感じていない。ただのひとりの少女として見ている。そうファティマは気づいた。


「イズラエルさん。私とサマエルちゃんに任せてください。仕事(ビズ)は絶対に成功させますし、シシーリアさんも必ず無事に帰しますから」


「お願いする、ファティマ。必ず守ってやってくれ」


「ええ」


 イズラエルの望みにファティマが力強く頷いた。


「いつまでも子供扱いなのですね」


「私にとってあなたはまだあの人の子供です。変わりなく」


「ですが、もう子供であることは許されないのです。もう何も知らない無垢な子供でいることはできない」


 シシーリアは不満げに首を横に振り、椅子に座ると黙り込んだ。


「では、作戦立案を」


 イズラエルがそう言って動員する部隊をリストアップしたものをシシーリアの端末に送信し、簡易な作戦計画を添える。


「動員規模は2個連隊規模ですか。そして、作戦は……なるほど」


「よろしいですか?」


「把握しました。部隊の動員を開始してください。時間的猶予はあまりありません。クレイモア空中突撃旅団が緩衝地帯に拠点を作ればいよいよ我々の支配地域に影響が及びます。何としても排除を」


「了解。動員を命じます」


 シシーリアの承諾と命令を受け、イズラエルがグリゴリ戦線の部隊を動員し始めた。


「私たちも準備しましょう。ファティマさんは銃はお持ちの様ですが、銃弾が必要なのではないですか?」


「あればありがたいのですが、どうにかなりますか?」


「ええ。グリゴリ戦線はCR-47自動小銃でほぼ統一しているもののMTAR-89自動小銃用の弾薬も少数ですが確保してあります。銃のスペック上の性能としてはMTAR-89自動小銃が優れていますから」


「助かります」


「では、行きましょう」


 シシーリアは椅子から立ち上がり、ファティマとサマエルを連れて執務室を出る。


「シシーリア様。ゲヘナ軍政府に対し攻撃に出ると聞きました。どうか私も」


「クラウディア」


 シシーリアの執務室の外では先にラザロに内通していたグリゴリ戦線の兵士を連行してきた長身の女性クラウディアが待っており、シシーリアにそう訴えて来た。


「ダメです。あなたたちインナーサークルには内通者の粛清とグリゴリ戦線の内紛を防止するという任務(タスク)があります。戦場に連れて行くことはできません」


「しかし、我々インナーサークルの役割はあなたを守ること!」


 シシーリアが首を横に振るがクラウディアが食い下がる。


「あなたの忠誠には感謝します。ですが、私をグリゴリ戦線の指導者として認めるならば命令には従ってください。いいですね?」


「……分かりました」


 命令としてシシーリアが告げるのにクラウディアが頷いて去った。


「インナーサークル?」


「グリゴリ戦線はかつては全ての構成員を等しく扱いました。ですが、それでは軍隊として脆弱であると分かったのです。指導者であった父の死によって」


 ファティマが知らない単語に首を傾げるのにシシーリアが語る。


「そこで質より量の一般兵とは別に精鋭部隊を創設したのです。それがインナーサークル。彼らはただゲヘナ軍政府やエデン社会主義党と戦うだけでなく、グリゴリ戦線という組織を維持することも役割としています」


 そう言いながらシシーリアは弾薬庫へと向かう。


「シシーリア様!」


 すると、また子供たちが駆け寄ってくる。大勢の子供たちだ。


「シシーリア様、どこに行くんですか?」


「人々を助けに行くのです。ところで、みんなの中で一番勇敢な子は誰ですか? 大人と同じくらい勇敢な子はいますか?」


 子供たちが尋ねるのにシシーリアが笑みを浮かべてそう尋ねた。


 その様子をサマエルだけは不安そうな顔で見ている。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人生リトライな悪役魔術師による黒魔術のススメ」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ