エスコート//裏切者
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──エスコート//裏切者
グリゴリ戦線の兵士たちの自殺に等しい無謀な突撃は続いていた。
「もうこれ以上死なせる気はないですよ。突っ込みます!」
ファティマは赤いエネルギーシールドとクラウンシールドを展開し、117式強化外骨格の人工筋肉の出力に物を言わせて、グリゴリ戦線の兵士たちを追い抜くと敵の歩兵に突入した。
「やります!」
「こいつ……!」
ファティマは十本の赤いエネルギーブレード“赤竜”と装備していたMTAR-89自動小銃を使って敵歩兵を強襲。
「があっ!」
「軍曹! このおっ!」
味方を“赤竜”で八つ裂きにされた敵歩兵が敵討ちとばかりにファティマを狙う。
「無駄です!」
しかし、その攻撃はクラウンシールドと赤いエネルギーシールドによって完全に防がれ、銃弾も爆薬もファティマに達しない。
「なんだ、あのエネルギーシールド!?」
「空中炸裂弾を食らうといいですよ!」
狼狽える敵の歩兵にファティマがMTAR-89自動小銃から空中炸裂弾を連射して叩き込んだ。
「ああ──っ!」
「クソ、クソ! こいつだけ違うぞ! グリゴリ戦線の雑魚じゃない!」
敵歩兵たちはすぐさまエネルギーシールドを展開しながら遮蔽物へと飛び込む。
「追撃あるのみです。一掃します」
ファティマは隠れる敵歩兵を“赤竜”で攻撃し、エネルギーシールドとクラウンシールドで防御しながら前進し、さらに銃撃を加える。
「流石に口径7.62ミリ弾ではエネルギーシールドは抜けませんね。これを使いましょう。出し惜しみは禁止です」
敵の展開したエネルギーシールドに銃弾が防がれるのを見てファティマはキャニスター手榴弾を投擲。電子励起爆薬で起爆した手榴弾から放たれた無数の鉄球がエネルギーシールドを砕き、敵を殺傷する。
「我が方の被害甚大です!」
「数はこっちが上だ! 奴に射撃を集中し、撃破せよ!」
敵歩兵はグリゴリ戦線を放置してファティマに狙いを集中させた。無数の銃弾と爆薬がファティマの赤いエネルギーシールドとクラウンシールドに向けて叩き込まれる。
「さあて。纏めていきますよ!」
敵の隊列に飛び込んだ状態のファティマが周囲に展開する敵歩兵に対してエネルギーシールドにクラウンシールドを密着させ、凝集させ、エネルギーを高めていく。
そして──。
「シールドインパクト!」
赤い殺戮の嵐が吹き荒れた。
「なんと……」
イズラエルたちグリゴリ戦線の兵士たちが目を見開いて目の前の虐殺を見た。敵の歩兵が膨大なエネルギーによって焼かれ、溶かされ、粉砕され、原子単位に分解された末に消えていくのを。
「クリア」
ファティマは敵が全滅したのを確認してそう宣言。
「片付きましたよ。敵は撃退しました。護衛の仕事は成功ということでいいでしょうか、イズラエルさん?」
「ああ。ご苦労だった。しかし、この連中はジェリコではないな」
撃破されたヘカトンケイル強襲重装殻をイズラエルが調べる。同時にソドムの構成員たちもイズラエルと一緒に残骸を検分した。
「ラザロのロゴだ。こいつらラザロ・エグゼクティブか。狙いはあんたらじゃなくて俺たちだったのかもしれないな。ラザロは俺たちを狙っているから」
「どちらから情報が漏れたか。ソドムの保安体制は問題ないのではないか?」
「十分に気を付けてはいるが。そちらは?」
「確認しよう」
ソドムの構成員の言葉にイズラエルが部下を集める。
「今回の取引の情報について知っていたのは私とお前たちだけだ。それからここで死んだものたち。情報漏洩について心当たりのあるものはいないか?」
部下を見渡してイズラエルが尋ねるが誰も発言せず困惑していた。
「潜入工作員がいるなら早期に片づけるべきですね。リスクになります」
「分かっている。いずれ洗い出すが──」
ファティマがやってきて意見するのにイズラエルが唸った時だ。
廃倉庫に数台のタイパン四輪駆動車が走り込んできて停車。
そのタイパン四輪駆動車は茶色をメインにしたデザートパターンのデジタル迷彩に塗装されており、無人銃座にはHMG-50重機関銃がマウントされていた。
そのタイパン四輪駆動車から降りて来たのは同じデジタル迷彩の戦闘服を纏い、茶色の山岳帽と装甲が装着された099式強化外骨格、ホルスター付きのタクティカルベストという出で立ち。
そして武器としてCQB仕様のCR-47自動小銃を握った兵士たち。
「あのエンブレムは……」
それら兵士の肩の部隊章と思しきエンブレムは赤い王冠を交差したCR-47自動小銃が守るかのように描かれているものだった。
「ご苦労でした、イズラエル」
そして、最後に車から降りて来たのは他の兵士たちとは違って装甲のない099式強化外骨格とオリーブドラブのタンクトップ、そして古いアメリカ海兵隊の戦闘服姿の少女だ。ホルスターにはコンパクトモデルのSP-45X自動拳銃。
年齢は17歳ほど。身長はそう高くなく150センチ程度だが女性的な体つきをしている。そのブルネットの髪は三つ編みにして肩に流しており、やや童顔な顔立ちには鮮やかな青の色の瞳。
その少女が微笑んでイズラエルに告げた。
「どういうことです、シシーリア?」
「すぐに終わります。クラウディア、あの男をここに」
イズラエルが怪訝そうに目を細めて尋ねるのにシシーリアと呼ばれたその少女が山岳帽の部下に命じた。
「了解」
クラウディアと呼ばれたのは身長190センチ近くある大型な女性で黒髪をショートボブにしている。そのブラウンの瞳がイズラエルが問いただしていた生き残りのグリゴリ戦線の兵士たちを見渡し、そのうちひとりを捕まえた。
「ま、待ってくれ! 俺は違います!」
「裏切りはその命を以て償わなければなりません」
捕えられた男はシシーリアと呼ばれた少女の前に跪かされる。そして、シシーリアはホルスターからSP-45X自動拳銃を抜き、何の躊躇いもなく男の頭に45口径の銃弾を叩き込み、脳漿を飛び散らさせた。
「シシーリア。知っていたのですか?」
「内偵が進んでいました。インナーサークルの指揮下で。今回の取引はリトマス試験紙のようなものでしたが当たりでしたね。既にインナーサークルが粛清を始めています。もう内通者を心配する必要はありません」
「できればそのことを伝えておいてほしかったですね。今回の戦いでも大勢が我々の大義を守るために死にましたから」
「残念に思いますが情報とは慎重に扱わなければならないのです。そして、私たちは死を恐れない。そうでしょう?」
イズラエルが険しい表情で述べるのにシシーリアという少女はそう返す。
「さて、あなたがファティマ・アルハザードさんですね?」
「ええ。そうです。失礼ですがあなたは?」
少女が笑みを浮かべてファティマを見るのにファティマが首を傾げる。
「私はシシーリア・ティンダル。グリゴリ戦線の最高指導者です。どうぞよろしくお願いします」
「あなたがグリゴリ戦線の指導者、ですか?」
デフネも知らなかったグリゴリ戦線の指導者。
その正体であるシシーリアがファティマの前にいる。
「あなたのことは既にイズラエルから聞いています。喜ばしいことです! エデンとエリュシオンを打倒しなければゲヘナに未来がないということを理解してくれている人がいるというのはとても喜ばしいことです!」
シシーリアはそう言い満面の笑みを浮かべてファティマの手を握った。
「それはどうもです。話は伝わっているようなのでお分かりかもしれませんが、これからもそちらから仕事を回していただければ、私とサマエルちゃんが傭兵として受けますのでよろしくお願いします」
「はい。では、早速ですが仕事をいいですか?」
「ええ。どのようなものでしょう?」
「詳細はここではお話しできませんので拠点に来ていただけますか? 歓迎させていただきますよ。ぜひ!」
「では、そうしましょう」
最初はテストだったフォー・ホースメンやデフネの気まぐれに付き合わされたソドムと違ってグリゴリ戦線はフレンドリーだなとファティマは思った。
「イズラエル。武器の方は拠点に運んでください。我々が護衛します」
「了解」
そして、グリゴリ戦線の部隊は拠点を目指す。
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