エスコート//奇襲
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──エスコート//奇襲
「荷物を確認したい。そちらを信頼していないわけではない。信頼しているからだ」
「分かっている。確認してくれ」
イズラエルが申し出るのにソドムの構成員が頷き、大型軍用トラックにイズラエルたちグリゴリ戦線の兵士を案内した。
「CR-47自動小銃と銃弾、と」
グリゴリ戦線は今回は主に小火器を大量に購入していた。重火器の類は少数だ。
「そっちを確認してくれ」
「了解」
イズラエルが指示を出し、全ての荷物が確認された。
「確かに注文しただけの数があることを確認した。代金を支払うので端末を頼む」
「このIDに送金してくれ」
「では、送金する」
イズラエルがソドムの構成員の端末に指定された金額を振り込んだ。
「オーケー。支払いを受け付けた。荷物を運ぼう。どこに運べばいい?」
「そちらの端末に情報を送った。その位置に頼む」
ソドムの構成員がグリゴリ戦線から代金を受け取って取引が終わった、その時だ。
「お姉さん! 軍用機が近づいている! 味方じゃない!」
「警戒してください! 敵の航空部隊です!」
サマエルの報告にすぐにファティマが警告を発し、クラウンシールドを展開。
「クソ。何だと……」
「ホワイトさん! パワード・リフト輸送機が接近中です! あれは──」
外で報告の声を上げたグリゴリ戦線の兵士が吹き飛んだ。
「爆撃だ! 伏せろ、伏せろ!」
「無人攻撃機がいるぞ! 誰かMANPADSを持ってこい!」
攻撃を行ったのはファントム無人攻撃機で搭載していた誘導抗航空爆弾で廃倉庫の周りにいるグリゴリ戦線の陣地やテクニカルを爆撃していく。
「畜生、畜生! 落ちろお!」
「やめろ! テクニカルから離れろ! 爆撃されるぞ!」
「だけど、あのクソ野郎を──」
爆発。爆撃によってテクニカルがHMG-50重機関銃で無人攻撃機を狙っていた射手ごと吹き飛ぶ。人間だったものが散らばり、炎に焼かれる。
『イーグレット・ゼロ・ワンより各機。敵の対空火器は全て沈黙。予定通り部隊を展開させろ。降下開始だ』
『了解』
そして、無人攻撃機が作った隙を縫ってハミングバード汎用輸送機が廃倉庫付近に降下し、ヘカトンケイル強襲重装殻10体を含む空中機動部隊を展開させた。
「我々の武器を守れ!」
「了解!」
イズラエルが指示を出し、グリゴリ戦線の兵士たちが展開した所属不明の部隊に向けて突撃を開始する。武器はCR-47自動小銃と手榴弾程度で強化外骨格はおろか
ボディアーマーすら付けていない。
ただ数だけはいるグリゴリ戦線の兵士たち──若い女性も年老いた男性も様々な人種で構成されたそれが腰だめでCR-47自動小銃を乱射しながら突撃する。
『ポニー・ゼロ・ワンより各員。交戦規定は射撃自由、生存者ゼロだ。皆殺しにしろ。やれ』
『了解、ポニー・ゼロ・ワン。射撃開始、射撃開始!』
突撃してきたグリゴリ戦線の兵士たちを展開した敵のアーマードスーツが口径40ミリ機関砲や口径12.7ミリ重機関銃で薙ぎ倒した。
兵士たちが一瞬でミンチに成り果てる。
「進め! 怯むな!」
「我らが自由と尊厳のために!」
だが、それでもグリゴリ戦線の兵士たちは次々に敵に向けて突撃し続けた。
「正気ですか!? まともな対戦車兵器もなしに突撃して何の意味が……」
「我々が我々であるためだ」
ファティマが目の前の狂気を前に目を見開くのにイズラエルが静かにそう返す。
「見てられません。私が撃破します。そちらの部隊は退いてください!」
「ダメだ。我々は戦わねばならぬ。退くわけにはいかないのだ。君も戦うのであれば彼らとともに戦いたまえ。我々は犠牲は厭わぬ」
「そうですか。では、勝手にやりますよ! サマエルちゃん、援護をお願いします! “赤竜”展開!」
ファティマが“赤竜”を展開すると同時にサマエルが電子戦を開始。
「お姉さん。敵の無人攻撃機を乗っ取れるけどどうしたらいいの?」
「グッジョブです、サマエルちゃん。では、敵のパワード・リフト輸送機を撃墜させてください。兵装を使用しても体当たりでも構いません!」
「分かったよ」
上空を飛行していた3機のファントム無人攻撃機の制御権限が上書きされ、サマエルに乗っ取られる。
そして、そのまま武装していた小型のミサイルであるファルシオン対戦車ミサイルをホバリングしているハミングバード汎用輸送機に叩き込んだ。
『クソ! 友軍機が攻撃を受けているぞ! それも友軍の無人攻撃機からだ! あいつら何をやってる!?』
『本部、本部! 飛行中の無人攻撃機が友軍を攻撃している! 対処されたし! どうぞ!』
地上に展開した空中機動部隊に混乱が広がる。
「今だ! 敵を殺せ!」
「殺せ、殺せ!」
グリゴリ戦線の兵士たちは老若男女問わず次々に味方の無残な死体を乗り越え、敵に向けて突撃を続けていた。
『イカれた連中め。ミンチになりやがれ』
アーマードスーツが無慈悲に迎撃し、肉と臓物と血が撒き散らされる。
「喰らえっ!」
『畜生! 近接しやがった! 今、迎撃──』
アーマードスーツの1体に肉薄したグリゴリ戦線の兵士が身に着けていた自爆ベストで自爆し、アーマードスーツが爆発に巻き込まれた。アーマードスーツが操作不能になり、緊急脱出を実行。パイロットが吐き出される。
「殺せ! あいつを殺せ!」
「仲間の仇だ! 死ね!」
外に出たパイロットが一斉に銃弾を浴びて蜂の巣にされた。
『この……っ! 皆殺しにしろ!』
それでもグリゴリ戦線の勝利は束の間。すぐに他のアーマードスーツに反撃され、また大量の犠牲者が出てしまう。
「アーマードスーツを1体倒すのに何十人も死んでるじゃないですか……」
これまでフォー・ホースメンのバーゲスト・アサルトやソドムのイニェチェリ大隊という精鋭部隊の戦いを見てきたファティマは、文字通り何の訓練も受けていないだろうグリゴリ戦線の兵士たちの犠牲を前提とした戦いに呻く。
「これ以上は死なせることはできませんよ。貫いてください、“赤竜”!」
ファティマは突撃しては肉塊と化すグリゴリ戦線の兵士たちの背後から“赤竜”をアーマードスーツに向けて放った。
『なんだ、あれは!? クソ、アクティブ防護システム作動を確認──』
ヘカトンケイル強襲重装殻のアクティブ防護システムである高出力レーザーが“赤竜”を迎撃しようとするも何の効果もなく、“赤竜”の刃はアーマードスーツのパイロットシートを貫く。
「よし。まずはアーマードスーツを撃破です。次は歩兵!」
アーマードスーツ部隊は一瞬で壊滅。
「やったぞ! 進め、進め! 敵を殺せ!」
「我々を搾取するエデンの犬を殺せえ!」
しかし、ファティマが歩兵の攻撃に入るよりも早くグリゴリ戦線の兵士たちがまた無謀な突撃を開始し、T-4201強化外骨格を装備し、MTAR-89自動小銃で武装した空中機動部隊の歩兵たちと交戦する。
『クソ! 面倒な連中だ。数だけは多い』
『空中炸裂弾かグレネード弾を使用しろ!』
『了解!』
敵の歩兵たちは空中炸裂弾やMTAR-89自動小銃のアンダーバレルに装備した口径40ミリアドオン式グレネードランチャーから放ったサーモバリック弾頭のグレネード弾でグリゴリ戦線を攻撃。
「あがっ!」
「怯えるな! 進めば救われる!」
士気が落ちることのないグリゴリ戦線の兵士たちは進む。
まるで肉挽き器に飛び込むような行為だと言うのに。まるで怯えることもなく。
「狂ってますよ……」
ファティマは思わずそう呟いた。
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