エスコート//リトルガール
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──エスコート//リトルガール
「デフネさん? いや、そうですよね。ここはソドムの拠点だからあなたがいてもおかしくはないですよね」
「そうそう。ようこそ、あたしたちの拠点のひとつへ!」
ソドムの拠点は巨大な倉庫だ。
かつてネット通販を手掛ける多国籍企業が所有していたもので、ここからドローンを使って商品が各地に運ばれていた。
今もドローンはあり、ソドムの商品がある。
銃火器。違法薬物。アルコール。爆発物。その他通常の方法では手に入らないもの。
「お姉ちゃんがグリゴリ戦線から仕事を受けたって聞いて来ちゃった! 案内するから付いておいでよ!」
「あっ! ちょっとそんな無理やりには……」
デフネは思わぬ腕力でファティマの腕を掴んで引き摺って行こうとし、ファティマが慌てながらそれによって無理やりサマエルと引き離された。
「あ……。お姉さん……!」
「その子は客室に案内しておいて。あたしはお姉ちゃんにちょっとここを案内して回るからね。よろしくっ!」
サマエルがよろよろとファティマを追いかけようとするのにデフネがソドムの武装した構成員に向けてそう告げた。
「こっちだ。来い」
「え……。ま、待って!」
ソドムの構成員がサマエルを連れて行き、サマエルが無理やりファティマから離されてしまった。ソドムの構成員はサマエルを拠点内にある客室へと連れて行く。
「あ! サマエルちゃん!」
「お姉ちゃん。今はあたしとデートなの。あの子は今はいいでしょ」
「けど……」
「あーあ。あたしがグリゴリ戦線に紹介してあげたのにー?」
デフネが不満そうに唇を尖らせる。
「はあ。では、少しだけ付き合います。それでいいですか?」
「オーケー!」
ファティマがため息をついて応じるのにデフネが満足そうに微笑んだ。
「まずね。ここを見て! 凄いでしょ、この品揃え!」
「おー。確かに凄いですね」
ハニー・バジャー強襲重装殻のようなアーマードスーツからそのようなアーマードスーツが携行可能な口径12.7ミリのガトリングガン、SRAT-140携行対戦車ロケットのような重火器がずらり。
そのほかにもCR-47自動小銃やMTAR-89自動小銃といった小火器が山のように。手榴弾やグレネード弾も安全な状態で保管されていた。
フォー・ホースメンの武器庫より膨大な武器だ。
「うちの商品だよ。何でもある! 何でもだよ! お姉ちゃんは欲しいものない? プレゼントしてあげる! 1個だけだけど!」
「そうですね。欲しいものはいろいろとあるのですが、本当に何でもいいのですか?」
「うん! いいよ! アーマードスーツ、貰っちゃう?」
「いえ。流石にそれは持て余しますので。代わりにインプラントはありませんか? 117式強化外骨格用のスローモーデバイスがフォー・ホースメンの市場にもなくて」
「スローモーデバイスならあるよ。117式強化外骨格用のもね。なかなかお高い品をねだるんだね、お姉ちゃん? でも、いいよ! プレゼントしてあげる!」
ファティマの求めにデフネが頷くと部下を呼んだ。
「117式強化外骨格用のスローモーデバイスを準備して」
「了解、デフネお嬢様」
デフネが命じるとソドムの倉庫番がインプラントを保存している場所から、117式強化外骨格のためのスローモーデバイスを運んできた。
「あたしからのプレゼント! どうぞ!」
「ありがとうございます」
117式強化外骨格用のスローモーデバイスは強化外骨格を装着する際のリーンフォースデバイスに装着するオプションのひとつだ。
強化外骨格のリーンフォースデバイスは基幹システムであり、その基幹システムにオプションとして様々なデバイスを付け加えることができる。流石にいくらでも付けられるものではないが。
「スローモーデバイスってことはお姉ちゃんは正面突撃好み?」
「不正規遭遇戦のためでもありますし、いつもやるわけではないですがこの手の加速装置があると便利ですので」
スローモーデバイスは加速装置とも言われるインプラントだ。
体感時間を遅延させ、周囲が止まったように見える中で戦闘が可能になる。
いわゆる映画のSFXのひとつであるバレットタイムが現実で行えるようになるのだ。
「それ、エデン統合軍も使ってる高度軍用グレードの品だよ。大井重工製クロノス・スーパーMK18」
「普通に買えば2000万クレジットを超えますね……」
「けど、お姉ちゃんには特別価格でご提供! ただです!」
高度軍用グレードのインプラントはエデンでもエデン統合軍特殊作戦コマンドに対して僅かに支給されるのみであり、その価値は極めて高い。
「本当にいいんですか? 後で請求されたりすると困るのですが」
「しない、しない。これぐらいはオーケーだよ。どうせ高すぎて売れないしさ。高度軍用グレードのインプラントなんてフォー・ホースメンのバーゲスト・アサルトが少し買ってくれるぐらい」
ファティマが確認するのにデフネが肩をすくめてそう返す。
「さあ、次の場所に案内するよ、お姉ちゃん!」
デフネはうきうきした様子でファティマの案内を続ける。
「ここはドローンの離発着場! ここからいろいろなところに荷物を配送するよ」
「ウォーホース無人輸送機もいますね」
かつて宅配ドローンが離着陸していたヘリポートには軍用の無人輸送機であるウォーホース無人輸送機が配備されていた。
ウォーホース無人輸送機はハミングバード汎用輸送機に比べればかなり小型で武装も有していない。だが、アーマードスーツ1体ぐらいなら前線に運ぶことができる。そのため兵站用のドローンとして利用されているものだ。
「そういえばグリゴリ戦線のイズラエルさんがリトルガールと言っていましたけど」
「それはあたしの通り名だよ。リトルガールってゲヘナでは知られている。いずれはビッグレディになりたいところだけど!」
「通り名とかあるんですね」
「フォー・ホースメンのバーロウ大佐はローニンでバーゲスト・アサルトの少佐さんはナイトストーカーって呼ばれている。いろいろいるよ。ゲヘナ軍政府側とかにもね」
「なるほど。そういう情報も大事なのでしょう」
「知ってるとちょっとお得ってところだね」
通り名が知られるということはそれだけ知名度があり、影響力があるということになる。そのような人物との関係は有益になるだろう。
「デフネさんはグリゴリ戦線との取引に参加されるのですか?」
「いんや。しないよ。止めろってパパに言われてるから」
「……それはどういうことでしょうね?」
「まあ、気を付けてとだけ言っておくよ。けど、ソドムがお姉ちゃんたちを裏切ることはないから安心して」
「ならばいいのですが。気を付けてはおきます」
ファティマはグリゴリ戦線のイズラエルが懸念したような、ゲヘナ軍政府による攻撃について、ソドムが情報を握っているようだと判断した。
「そろそろ戻りませんか?」
「ダメ。まだまだ紹介したところがあるしー? 一緒に行こうね!」
「はあ……」
ファティマはデフネに連れられて、ソドムの商品を収めた倉庫を巡る。
その頃サマエルは──。
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