マンハント//フィナーレ
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──マンハント//フィナーレ
『目標、未確認のマギテク兵器を使用している脅威。全兵装使用自由。撃て!』
『射撃開始、射撃開始!』
上空で攻撃態勢に入ったハミングバード汎用輸送機が口径20ミリガトリングガンでファティマへ砲弾を叩き込み始めた。
『迎撃!』
クラウンシールドが機関砲を迎撃し、空中で爆発が生じる。
『エネルギーシールド……!? 機関砲弾を迎撃できるって言うのか!?』
『クソ。再攻撃だ。ガンナーは照準を継続し──』
狼狽えるガンナーにパイロットが指示を出そうとしたとき、その眼前に赤いエネルギーブレードが現れた。
パイロットたちが驚愕する暇もなく赤いエネルギーブレードが操縦席をめった刺しにし、鮮血がハミングバード汎用輸送機の窓に飛び散る。
『落ちてください』
さらに2基の反重力エンジンを赤いエネルギーブレード──“赤竜”が貫き、爆発を起こして動力を失ったハミングバード汎用輸送機が廃墟に向けて墜落した。
『何が……!?』
生け捕りを試みるガーゴイルと交戦中の情報部隊が自分たちを迎えに来た友軍機の墜落に衝撃を受ける。
『よそ見してるとは余裕みたいだな』
そこにガーゴイルが情報部隊の指揮官の顔に強烈なパンチを叩き込みノックアウト。続いて指揮官の部下たちにPDW-90個人防衛火器から銃弾を浴びせる。
『掃討戦です』
続いて“赤竜”がアーマードスーツを狙う。
敵のアーマードスーツ──ヘカトンケイル強襲重装殻は固定兵装の口径40ミリ機関砲の他に口径70ミリ19連装ロケットポッドを肩に装備し、さらに4本のマニュピレーターアームに口径7.62ミリのGPMG-99汎用機関銃2丁を装備していた。
それらが周囲を旋回する“赤竜”を迎撃しようと弾幕を展開する。
『壊せ!』
3体のアーマードスーツの展開した弾幕も虚しく十本の“赤竜”が一斉に襲い掛かり、次々とアーマードスーツの表層の電磁装甲や主力戦車級の複合装甲を貫き、アーマードスーツが爆発炎上していった。
『クリア!』
そして、パワード・リフト輸送機もアーマードスーツも撃破されたナショナル・ヴィクトリー・タワーのヘリポートでファティマがそう宣言する。
『グッジョブ、ファティマ。これから友軍のパワード・リフト輸送機を要請する。ガーゴイル、仕留めた獲物を連れてきて』
『了解、少佐』
ガーゴイルはグレースの指示で生け捕りにした情報部隊の指揮官を結束バンドで後ろ手に縛り上げ連行してきた。
『こちらリマ本部。ナショナル・ヴィクトリー・タワーに展開中のバーゲスト・アサルトへ連絡。ナショナル・ヴィクトリー・タワーにて爆発が確認されたが、そちらが関与してるのか? 報告せよ』
『こちらバーゲスト・アサルト指揮官ナイトストーカー。敵は撃退した。作戦終了を宣言。そちらの判断で警戒を継続するかどうか決定されたし。こちらは撤退する』
『リマ本部、了解』
リバティ空軍基地の司令部がファティマたちの戦闘が終わったことを確認し、暫く混乱を防止するためにパトロール部隊を強化することを指示した。
その間、ファティマたちは戦場となったナショナル・ヴィクトリー・タワーのヘリポートで待機していた。
ガーゴイルが捕虜にした情報部隊の指揮官は未だに気を失っており、ガーゴイルがPDW-90個人防衛火器の銃口を向けたまま警戒している。グレースはZEUSで友軍パワード・リフト輸送機との合流時間を確認している。
ファティマとサマエルは高く空に聳えるナショナル・ヴィクトリー・タワーからの景色をふたりで眺めていた。
「あれはエデンへの道……?」
「ええ。エデンへの道ですね。エデンに続く軌道エレベーターです。さらには衛星軌道上に存在するエリュシオンに続いています」
サマエルが指さすのは空中に浮かぶエデンに繋がる軌道エレベーターだ。
空から蜘蛛の糸でも垂らしたかの様に細い線が地上に向けて伸びている。
「あそこを通じてゲヘナ軍政府が生産した工業製品がエデンへと運ばれるのです」
「お姉さんもいつかあの道を通ってエデンに戻るんだよね……?」
「もちろんです! 絶対に戻りますよ」
ファティマは胸を張ってサマエルにそう返した。
「そうだね。それでお姉さんが幸せになれるならそうなるべきなんだよ……」
サマエルはそう呟き、テリオン粒子という名の悪魔の汚染によって地上から逃げたものたちの世界に繋がる糸を見つめる。
その時、遠方から反重力エンジンの音が聞こえて来た。
『迎えが来た』
グレースがZEUSを通じてファティマとガーゴイルに知らせる。
『ハーピーよりナイトストーカー。お迎えに来たよ』
『ナイトストーカー、了解。ヘリポートは確保してある。そのまま乗り付けて』
『了解』
飛来したバーゲスト・アサルトのエンブレムが垂直尾翼に描かれたハミングバード汎用輸送機がナショナル・ヴィクトリー・タワーのヘリポートに着陸。後部ランプが降ろされ、兵員室が開かれる。
『少佐、ガーゴイル! それから新入り連中! 仕事は成功だって?』
兵員室ではガスマスクと099式強化外骨格を身に着けた大柄な身長190センチほどの男がファティマたちを出迎えた。
『ああ。こいつを持って行ってくれ、トロル』
『あいよ。また尋問だな』
気絶したままの情報部隊の指揮官をガーゴイルがトロルに渡し、トロルは座席にその指揮官を固定する。ガーゴイルはそれを確認するとグレースの方を向いた。
『少佐。まだやることはありそうだ。行こう。新入りもな。まあ、よくやった』
『ありがとうございます』
ガーゴイルが軽く礼を述べ、ファティマたちがハミングバード汎用輸送機に乗り込んだ。ハミングバード汎用輸送機は反重力エンジンを響かせてイーグル基地へと戻る。
『到着だよ、少佐。尋問チームが待ってる』
『オーケー。丁度、目標が意識を取り戻した』
グレースの前で情報部隊の指揮官が目を覚まし、青ざめた表情で周囲を見ていた。ガーゴイルはそれに油断なくHW57自動拳銃の銃口を向けている。
「お疲れ様だな」
「大佐。お使いは出来た。こいつを尋問して。リバティ空軍基地を覗き見してた。公安も情報を集めているとは思うけど彼らは自分たちの情報源を守るためになかなか私たちに情報を伝えようとしないから」
イーグル基地のパワード・リフト輸送機の離発着場ではバーロウ大佐とフォー・ホースメンの尋問チームが待機していた。4名の尋問チームは全員が報復防止のために黒い目出し帽を被って顔を隠している。
「分かってる。すぐに尋問させる。そいつを連れて行け」
「了解」
尋問チームは情報部隊の指揮官の腕を2名で押さえ、他の2名はいつでも射殺できるようにCQB使用のCR-47自動小銃の銃口を向けて指揮官をイーグル基地地下にある尋問室へと連行していった。
「しかし、リバティ空軍基地か。嫌な予感がする」
「ええ。間違いなく近いうちにろくでもないことになる。恐らくはMAG絡みね」
「ジェリコが台頭してMAGの契約数が減少してるってのはマジらしいな」
グレースとバーロウ大佐がそう言いながらイーグル基地をバーロウ大佐の執務室に向けて進んでいく。
「そう言えば、ガーゴイル。お前は新入りと実際に組むのは初めてだっただろう。どうだった? 使えそうか?」
「そうだな。ソドムやグリゴリ戦線にくれてやるのは勿体ない。そんなところだ」
「お前にしては高い評価だな」
ガーゴイルが肩をすくめるのにバーロウ大佐がにやりと笑う。
「さて、報酬はもちろん払うが、すぐに次の仕事になる。もっとハードな奴になるぞ、新入り。どうする?」
バーロウ大佐がそうファティマに尋ねた。
「やりますよ、もちろん!」
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