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ファミリービジネス//誰かの記憶

……………………


 ──ファミリービジネス//誰かの記憶



 その白衣の男性は失意の中にあった。


『──全域にDNAの破損が見られ、重度の放射線障害に近い症状が生じ──』


 女の子は生命維持装置に繋がれ、心電図が弱弱しい心臓の鼓動を示している。


『この子が何をしたんだ? 何故こんなことをしたんだ? この子はお前の──』


 白い化学防護服を着た兵士たちが通りを封鎖していた。


『──すでに周辺の動植物にも深刻な影響が現れています。汚染は深刻で──』


 テレビが絶望の表情を浮かべたアナウンサーの女性を映す。


『──の会見でメティス・マギテクノロジーのスポークスマンは全ての対抗手段が失敗に終わったことを発表しました。これにより事実上人類は──』


 男性がじっとこちらを見ている。怒りの表情で。


『お前のせいだ。全てお前のせいだ。この化け物め』


 大勢がこちらを見ている。敵意の表情で。


『人殺し』


『忌々しい怪物』


『呪われた獣』


『この化け物さえいなければ』


『化け物』


『化け物』『化け物』


『化け物』『化け物』『化け物』


『化け物』『化け物』『化け物』『化け物』


 女の子が棺の中で眠っている。


『……お前が殺した。この化け物め……』


 ────────。


「サマエルちゃん……? 大丈夫ですか……?」


 ファティマが突然動かなくなったサマエルを心配そうに覗き込んできた。


「あ、ああ。あ、ボクは違う……。でも、ボクのせいで……。なんで、なんで……」


「サマエルちゃん! な、泣いてるんですか? どこか怪我でもしましたか?」


 ボロボロとサマエルの赤い瞳から涙が流れるのにファティマが慌ててサマエルがけがをしているのかと調べようと手を伸ばした。


「ダメ!」


 しかし、その手をサマエルが見たこともない表情で払いのける。


「触っちゃダメ! 近づかないで! 死んじゃう! みんな死んじゃう! やだ!」


「どうしたんですか、サマエルちゃん!? 誰も死んでなんてないですから落ち着いてください! 怪我をしてるなら手当てを!」


 発狂したかのように泣き叫ぶサマエルをファティマが落ち着かせようと必死に手を取ろうとするが、サマエルはその手を振り払い、逃げようとする。


「大隊長。何の騒ぎです?」


「さあ? なんかクスリでもやってるんじゃない?」


 サマエルが暴れるのを見て車を運転しているイェニチェリ大隊の兵士が尋ねるのに、デフネがどうでもよさそうにそう返した。


「落ち着いてください、サマエルちゃん。大丈夫です。怖いことは何もありません」


「うわあ、ああ……」


 ついにファティマが軍隊格闘の要領で取り押さえるようにサマエルを押さえ、自分の胸に抱きしめた。サマエルはファティマを引き剥がそうと暴れたものの非力なサマエルではどうにもならず抵抗は弱弱しくなり、ついにはなくなった。


「私がついていますから。怖いことを思い出したのなら一緒にいてあげます。あなたが怖くなくなるまで。だから、落ち着いてください」


「おねえ、さん……。ごめんなさい、ごめんなさい……」


 サマエルはそのままファティマに抱きしめられているとやがて疲れ果てたかのように眠ってしまった。ファティマはとりあえずサマエルが落ち着いたことに安堵する。


「お姉ちゃん。そろそろ到着だよ。パパから報酬を貰わないとね」


「ええ。しかし、サマエルちゃんが眠ってしまいましたからどうしましょうか?」


「部屋を貸してあげる。そこに寝かせておけばいいでしょ。本当に面倒な陰キャ」


 ファティマの言葉にデフネが呆れたように肩をすくめ、デフネがソドム本拠地の建物中にある賓客用の部屋に案内した。


「サマエルちゃん。後で迎えにきますからね」


 ファティマはそう言って涙で目の赤くなったサマエルをソファーに寝かせるとデフネとアヤズの執務室に向かう。


「ご苦労だった、ファティマ君。既にデフネから報告は受けている。申し分ない仕事ぶりだった、と」


「ありがとうございます」


 アヤズは相変わらずのビジネスマンとしての顔でファティマに接する。


「君が求めているものを我々が提供できるとは保証できないが、ソドムとしては君を評価することにしよう。君には能力があり、それは我々の利益になるものであると。フォー・ホースメンが君を認めたように我々も認める」


 アヤズはそう言って端末を操作した。


「報酬の300万クレジットだ。これからも仕事(ビズ)で縁があればよろしく頼むよ」


「こちらこそ」


 これでアヤズからの仕事(ビズ)は終了し、ファティマが執務室を出る。


「お姉ちゃん! これから食事を一緒にどう?」


「でも、サマエルちゃんが……」


「寝てるんだからいいじゃん、ほっとけば。行こ、ね?」


 デフネが体を密着させてファティマを誘う。


「様子が変でしたから心配なんです」


「……お姉ちゃんのこれからのことに関する話を食事のときにするとしても?」


 ファティマは断ろうとするがデフネがファティマに耳にそう囁いた。


「欲しいんでしょ、グリゴリ戦線とのコネも。ジェーンから聞いたよ」


「あなたにはそれを紹介できる伝手があると?」


「もちろん。それでも本当に断っちゃっていいのかなー?」


 悪戯気に笑いながらファティマの前にデフネが立ってファティマの顔を見上げる。


「ですが、どうしてアヤズさんではなく、あなたがグリゴリ戦線との伝手を? ソドムが組織としてグリゴリ戦線を支援している可能性があることが私もジェーンさんから聞いています。ですが、それにあなたが単独で関与を?」


 ソドムやフォー・ホースメンが避雷針代わりにグリゴリ戦線を支援していることはファティマもジェーンから聞かされていたのでソドムの幹部であるデフネがそれを知っていることそのものはおかしくない。


 だが、組織としてファティマにその繋がりを紹介するならボスであるアヤズの許可がいるはずだ。いくらデフネでも勝手にやっていいとは思えない。


「特別サービスって奴。お姉ちゃんのこと気に入ってるんだよ? 背は高いし、胸は大きいし、顔は凛としているし、さ。それで文句なしに強いんだもん。なんだか泣いてるところが見たくなるくらいに好き!」


 デフネの笑みはサディストの笑みだ。


「ソドムとはようやく関係が始まったばかりです。この関係を損ねるようなことにならないと約束してくれるなら受けましょう。どうですか?」


「約束するよ。絶対にね。さ、来て!」


 ファティマはサマエルを置いていくことに罪悪感を覚えたものの、ある意味では今はひとりにしておいてあげた方がいいのかもしれないとも思った。


 あのサマエルの様子はおかしかった。


「おいしいオムライスを出す店があるんだよ。オムライス好き?」


「嫌いじゃないです」


「本当に? 絶対子供っぽいって思ったでしょ? でも、あたしオムライス大好きだから。とろとろの卵の奴でケチャップじゃなくてデミグラスソースのね!」


 ファティマがあまり乗り気でない様子なのを見てデフネが笑いかける。


「楽しんでくれないとやだよ? デート、デート! デートは楽しまないと、ね?」


「ええ。努力します。楽しめるように」


「そう」


 ファティマが明らかに別のことに意識を向けているのを見て、デフネはため息のようにそう呟いた。


 ファティマはやはりサマエルの変貌ぶりが心配だった。


……………………

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[一言] メティス・マギテクノロジー? まさか異世界帰りの未来…?
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