オンザジョブトレーニング//グレース・ヴァレンシア
本日2回目の更新です。
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──オンザジョブトレーニング//グレース・ヴァレンシア
ファティマとサマエルは明確にエデンとエリュシオンへの下克上を決意し、そのためにフォー・ホースメンの信頼を得ることになった。
「では、バーロウ大佐に会いましょう」
「うん」
ファティマたちはバーロウ大佐の端末にメッセージを送り、アポイントメントを取るとイーグル基地に向かう。
ゲートで歩哨の生体認証を受けて確認を受けた後、ファティマたちはフォー・ホースメンの兵士にイーグル基地内にあるバーロウ大佐の執務室に案内された。
「よう、ファティマ。仕事が受けたいらしいな?」
バーロウ大佐の執務室には葉巻を吹かしているバーロウ大佐の他に以前会ったフォー・ホースメンの女兵士グレースがいた。
「ええ。仕事はあれば受けたいです。大きな買い物をしたので」
「強化外骨格だろ。ミアから聞いてるぞ。確かにデカい買い物だな」
バーロウ大佐はファティマが既に117式強化外骨格を購入したことも把握していた。流石はこのフォー・ホースメン支配地域のボスらしい。
「仕事はあるにはある。その前にグレースを改めて紹介しておこう。こいつはグレース・ヴァレンシア少佐。フォー・ホースメンの精鋭特殊作戦部隊バーゲスト・アサルトの指揮官だ」
「また会ったね、ファティマさん。グレースよ。バーロウ大佐の説明通りバーゲスト・アサルトという部隊の指揮官をやってる」
以前ファティマが会ったグレースをバーロウ大佐が紹介し、紹介されたグレースが眠そうな半開きの目のまま少し笑みを浮かべてファティマに手を振った。
「グレースがお前さんに興味を示してる。お前が大層優秀らしいってことでな。で、仕事をグレースと一緒にやって、グレースがお前を正式に使えると認めたらバーゲスト・アサルトに加えてもいい」
そうバーロウ大佐はファティマに提案した。
「それは私をフォー・ホースメンの正式なメンバーにするということですか?」
「そうなるな。それもただのメンバーじゃない。幹部クラスの待遇になる。この俺たちの縄張りでなら威張り散らして、どれほど身勝手な我がままを言おうが誰も文句は言わないくらいのな」
「そうですか。申し出はありがたく思うのですが、お断りさせていただきます」
「ほう」
ファティマが頭を下げて辞退するのをバーロウ大佐が目を細めて見る。
「理由は? 地位も権力も金もいらないというわけじゃないだろう?」
「私はこれからソドムやグリゴリ戦線にも伝手を作り、あなた方フォー・ホースメンにも力を貸していただき、まずゲヘナ軍政府を打倒したいと思っています。そして、その次はエデン、エリュシオンを」
そう語るファティマを見てバーロウ大佐が一瞬呆気にとられたような顔をしたが、すぐにその表情が口角を歪めた笑みに変わる。しかし、その目は全く笑っていない。
「本気で言ってるのか? 俺たちにもゲヘナ軍政府を潰すのを手伝えって?」
「そうです。ここでいくら地位を得てもお山の大将です。汚染された地上にいる限り、明るい未来なんてないし、私は満足しません。私は私を追放したエデンに報復し、その頂点に立ちたいです」
バーロウ大佐が感情を窺わせない声色で尋ねるとファティマが平然とそう返す。
「大佐。この子、かなり面白いね」
「ああ。全くだな。笑いが止まらんよ」
話を聞いていたグレースは小さな笑い声を漏らしてそう言い、バーロウ大佐はお手上げというように肩をすくめた。
「それで仕事は斡旋していただけるのでしょうか?」
「そうだな。お前さんの世界征服欲求を満たしてやれるかは分からないが、仕事はある。今回の仕事はグレースと一緒にやってもらう。グレースが評価すれば、待遇をVIPのそれにしてやるよ」
「分かりました。頑張ります。仕事の内容は?」
「後でグレースが説明する。ブリーフィングルームで待ってろ。部下に案内させる」
「はい。では、失礼します」
バーロウ大佐が部下を呼んでファティマとサマエルとブリーフィングルームへと案内させ、自分の執務室から退室させた。
「全く、とんでもない女だな。使えるとは思うが、従順な兵士になりそうにはない。あくまで外部の契約で動く傭兵ってところか」
「けど、使えると思う。MAGの機械化歩兵小隊と空中機動歩兵小隊の両方を単独で皆殺しにしたんでしょう? 装備すら与えられずに」
「そう。間違いない。ソドム経由で情報を手に入れて確認した。MAGはそれらの部隊を喪失した。生存者ゼロだ。しかし、どうして今になってMAGが俺たちにちょっかい出して来たと思う?」
バーロウ大佐がそうグレースに尋ねる。
「さあ? 実績作り?」
「それもある。だが、原因はMAGに次ぐ民間軍事会社ジェリコ・オペレーションズだ。このMAGのライバル企業が最近ゲヘナ軍政府から多くの契約を獲得して、MAGの契約を奪いつつある」
「MAGには政治的に大きなバックがあると思っていたけれど。MAGの最高経営責任者はエデン社会主義党書記長の曾孫でしょう?」
「ジェリコもその手の政治的地位がある後援者を手に入れたってことだ。エデン社会主義党の権力争いはずっと続いているからな」
ジェリコ・オペレーションズ。エデンにおける最大の民間軍事会社MAGに次ぐ規模の巨大な民間軍事会社だ。
「なるほど。そして、あなたは行方不明になった兵士がMAGに接触したのを知っていた。そういうことなのでしょう」
「ああ。知ってた」
「なのに、あの子を向かわせた。死なせる気だったの?」
バーロウ大佐が葉巻を灰皿において言うのに、グレースが半開きの目をさらに細めて、理解できないというようにそう尋ねて来た。
「なに、ジェーンの奴が最近フィクサー気取りで調子に乗ってやがったからな。伸びた鼻を叩き折ってやろうと思っただけだ。それだけだよ。予想外の結果にはなったが」
「そう、酷い人」
再び葉巻を咥えたバーロウ大佐にグレースはため息を吐く。
「けど、本当にそれだけ? 未来が約束された期待のエリート。それがゲヘナに落ちた。誰かさんにそっくりな気がするのだけれど」
「馬鹿を言うな。俺はそんなことじゃ動かん」
少しばかり皮肉気な口調でグレースが言うとバーロウ大佐は彼女を睨んだ。
「しかし、気に入らないことがひとつある。あのガキだ。薄気味悪いトカゲみたいな瞳をした奴。どうも気に入らない」
「どこが? 可愛い子だと思うけど? あなたが子供が嫌いなだけじゃない?」
「確かにガキは嫌いだ。だが、それが理由じゃない。俺の軍隊時代の勘があれがドアに仕掛けてある手榴弾の類というブービートラップみたいな感触を感じてるんだよ」
「ふうん」
忌々し気にバーロウ大佐が語るのにグレースは同意も否定もしなかった。
「それに、だ。あの新卒が本当に優秀だったとしても本当にひとりでMAG2個歩兵小隊を武器もなしに殲滅で来たと思うか? お前は訓練された特殊作戦部隊の作戦要員だ。その視点で考えてみろ」
「まあ、不意を打ったとしても適切な武器がなければ空中機動歩兵に随伴していた上空援護機は叩けない。どんな秘策を使ったのか私も知りたい。だから、あの子を私が評価するのでしょう?」
「そうだ。しっかり見極めてきてくれ。素性が分からない上に何をするか分からないような奴は俺たちの縄張りに置いておきたくない」
「了解。評価しておく」
バーロウ大佐が命じ、グレースが頷いた。
「少しばかりハードな仕事で、ね」
グレースの唇が僅かに笑みを浮かべる。
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本日の更新はこれで終了です。
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