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加速する混沌//我は死なり、世界の破壊者なり

……………………


 ──加速する混沌//我は死なり、世界の破壊者なり



 レナトが提案したエデン内戦の停戦交渉に応じた陣営の代表者がアセンションセクター・ツーに集まった。


 ドミトリーがエデン統合軍の残余戦力に守られ、アデルが国家保安委員会の特殊作戦部隊に守られてアセンションセクター・ツーに集う。


「警備の監督は頼むよ、オフィーリア最高経営責任者(CEO)


「お任せください、閣下」


 レナトは自分こそが戦争を終わらせるのだと浮かれており、オフィーリアはやや冷ややかに彼の様子を見ていた。


 ジェリコとジェリコに併合されたMAGの部隊がアセンションセクター・ツーを防衛する中でついにエデン内戦の講和会議が開始される。


「まず主張したいのは我々はこれまでのエデンにおける貴族化した層を完全に排除すべきだということです。彼らの存在は腐敗と貧富の格差を生み出し、常に我々に不利益な影響を与えてきました」


 アデルがそう主張する。


「その貴族化した層というのは我々も含まれるのか?」


「当然です。エデン社会主義党の党幹部は高度医療処置によって本来より遥かに長い寿命を手に入れ、それによってずっとその地位を守ってきた。その上、自分の親類にコネを使っていい地位を与えてきたのです」


 ドミトリーが苦々しく尋ねるのにアデルがそう返す。


「しかし、それは早急すぎないだろうか? 我々が長くこの地位にいたのはそれだけの実力があるからこそだ。それを無視して貴族化だとかいうのは少しばかり」


「いいえ。断固として変革が必要です。これが受け入れられなければ我々は一切の交渉に応じるつもりはありません」


「ふむ……」


 頑ななアデルの様子にレナトたちが呻く。


「では、段階的に進めようではないか。本当に必要な地位にいる党幹部が皆無だというわけではないし、今の体制を全て排除したのちのことはまだ考えていないのだろう?」


「既にヴィジョンはできています。新しい憲法の施行と民主的な選挙の実施。エデン社会主義党は廃止し、新しい民主的な体制を作るのです」


 レナトが言い、アデルは否定する。


「話にならない。憲法は誰がどういう権限で施行するというのだ?」


「まず定めるのは暫定的な選挙に関する憲法であり、民主的な政権の樹立後に正式な憲法を施行します。そもそも今の憲法にしたところで明確に正統性のある人間が作ったものとは言えないです」


 今のエデンの憲法は旧世界の崩壊とともに作られたものだ。


「それで結構。約束してほしいことがある。エデン社会主義党を廃止するにしても、かつての関係者たちを処罰するようなことはしないでほしい。そうでなければ我々は協力するつもりはない」


「いいえ。エデン内戦における戦犯の処罰は行うべきです。そうでなければゲヘナの住民たちも納得しな──」


 そこで全てが消滅した。


 そう、消滅した。


 アセンションセクター・ツーを襲ったのは出力5メガトンの戦略核の爆発。それがアセンションセクター・ツーを焼き払い、全てを消滅させた。


 アデル、レナト、ドミトリーといった内戦の指導者たちは全滅。さらにジェリコの最高経営責任者(CEO)オフィーリアやエデン統合軍の司令官たちも死亡。


 内戦は突如として指導者がいなくなるという事態に陥ったのだ。


「お姉ちゃん。無事に吹っ飛ばしたよ」


『ご苦労様です、デフネさん』


 核を使ったのはデフネだった。


 カイラのヴリトラ・ガーディアンズから奪還した核兵器をファティマたちはエデン社会主義党の分裂した指導者たちに向けて使用したのだ。


 これによってエデン内戦は一気に混沌へと転がり落ちた。


 エデン民主共和党も、国家非常事態委員会も、ジェリコも指導者を突如として失い、どうしていいのか分からないまま立ち尽くす。


 一部の過激な勢力が攻撃を独断で行っては戦闘が泥縄式に広がり、戦力の逐次投入と無計画な戦線拡大が行われてしまう。


「全軍前進です。エデンを征服しましょう!」


 さらにデモン・レギオンが攻勢を開始。エデンの勢力を排除し始める。


 その排除される勢力の中には国家保安委員会も含まれていた。


「シー議長! 我々はデモン・レギオンの攻撃を受けています!」


 国家保安委員会が臨時の本部を設置していたビルにデモン・レギオンの兵士たちが押し寄せ、国家保安委員会の将兵が応戦している。


「やはりデモン・レギオンなど信頼すべきではなかったのだ。アセンションセクター・ツーの核爆発も恐らくは連中が……」


「どうなさるのですか、シー議長!?」


 シーが唸るのに部下がそう問いかける。


「軍事救国評議会に合流する。デモン・レギオンの情報が手土産だ。もはやエデン民主共和党も、国家非常事態委員会も、ジェリコも存在しない。エデンの人間として生き残るには軍事救国評議会に合流するしかない」


「了解しました。すぐにパワード・リフト輸送機を準備します」


 シーはデモン・レギオンの情報を手に軍事救国評議会の支配するセクターを目指した。同時に軍事救国評議会のクリスティーナに連絡を取る。


『どうした、シー議長? 飼い犬に手を噛まれたか?』


「御託はいい。取引がしたい」


『内容は?』


「デモン・レギオンの情報を渡す。その代わりそちらで保護してくれ」


 シー議長はクリスティーナにそう提案した。


『いいだろう。提案を受け入れる。こちらには合流できそうか?』


「可能であれば護衛(エスコート)を寄越してくれ」


『分かった。そちらに護衛(エスコート)を寄越す』


 シー議長が乗ったパワード・リフト輸送機を軍事救国評議会のバルチャー攻撃機が迎えに来て護衛(エスコート)を務めた。


 こうして突如としてエデン内戦のバランスは崩壊。


 いよいよデモン・レギオンが彼らの目標であるエデン征服に向けて動き出し、最後に残った軍事救国評議会も戦力を集結させつつある。


「軍事救国評議会はアーセナルセクターを始めとする軍事関係施設に拠点を設置しています。ジェリコとMAGの残党、そして国家保安委員会の残党も合流したと」


 デモン・レギオンが司令部を設置した商業ビルの中でファティマがそう説明。


「正面突破しかなさそうだが」


「しかし、それでは被害が無視できなくなります。運よくエデン民主共和党、国家非常事態委員会、ジェリコの首を刎ねたのです。この混乱を利用したいですね」


 ガーゴイルが指摘するのにファティマがそう言って首をひねる。


「核兵器はまだまだあるよ」


「それは最後の手段です。ですが、核兵器には使い道がありますね」


 ファティマはデフネに頷き、地図を眺めた。


「核施設から戦術核を数発、この空軍基地に輸送しましょう。それからその情報を敢えて敵に漏らします。シーが置いていった国家保安委員会の潜入捜査官を利用することにしましょう」


「そんなことをしてどうするんだ?」


 ファティマが説明した内容にジェーンが怪訝そうな顔をする。


「敵に二正面作戦を強いるのですよ」


 そう言ってファティマはにやりと笑った。


……………………

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