エデン内戦//大量破壊兵器
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──エデン内戦//大量破壊兵器
国家保安委員会隷下のライオンハート特殊任務旅団とデモン・レギオン隷下のヴリトラ・ガーディアンズはエデン統合軍の核施設を襲撃しようとしていた。
「偵察妖精を展開」
投影型熱光学迷彩を使用しているライオンハート特殊任務旅団の兵士が上空に戦術級偵察妖精を展開させる。
ライオンハート特殊任務旅団はこの作戦において戦略級の核弾頭の確保を担当し、ヴリトラ・ガーディアンズは戦術級の核弾頭の確保を請け負っていた。
「旅団長閣下。警備のエデン統合軍部隊の規模は想定通りです。そして、事前の情報通り核弾頭は全て使用可能な状況には配置されていません」
「悪くない知らせだ。核のコントロールを喪失したドミトリー側が核の使用に踏み切ることが一番恐れられていたからな」
ライオンハート特殊任務旅団旅団長のミーケル少将が部下の報告に頷く。
「しかし、本当にあの民間軍事会社の連中を信用なさるのですか?」
「シー議長の決定だ。どうこういうことはできない。もっとも確かに油断のならない連中であることは認めるが」
ミーケル少将たちライオンハート特殊任務旅団はヴリトラ・ガーディアンズのことを不審に思っていた。
「できればこの核施設を防衛しているエデン統合軍の部隊と潰し合ってもらいたいが」
「ええ。この作戦における最大の不安定要素は友軍です」
ミーケル少将たちが言う中でヴリトラ・ガーディアンズも配置に就きつつあった。
「少佐。全部隊配置に就きました。敵は情報通りです」
「結構。あそこに核兵器があるわけだ」
カイラたちも戦術級偵察妖精を展開して核施設を防衛しているエデン統合軍部隊を確認していた。
1個機械化歩兵大隊を基幹とする部隊で戦車中隊などが配置されている他、上空援護機にオウル攻撃機が4機ほど飛行している。
そのオウル攻撃機は人狩り機仕様のもので赤外線センサーを始めとする対人センサーを豊富に搭載し、さらにはフレシェット弾頭のロケット弾などの対人兵装を大量に搭載している。
「予定通りに襲撃する。投影型熱光学迷彩で接近し、隠密を維持。派手にやるのは核のボタンを握ってからだ」
一度核兵器を手に入れれば敵は迂闊にカイラたちを攻撃できない。核弾頭がミサイルなどによる運用状態にないとしてもその場で炸裂させることはできるのだ。
「では、仕事を始めるとしよう。デカい花火をいただくぞ」
「了解!」
そして、ヴリトラ・ガーディアンズが動いた。
エデン統合軍から不名誉除隊した軍隊の部隊と言えど練度は低くない。投影型熱光学迷彩で確実に隠密を維持しつつ、核施設に接近。
核施設周囲の厳重な鉄製の壁をエネルギーブレードで引き裂いて切り開き、カイラたちが侵入した。
「警戒。振動感知センサーです」
「無力化して進め」
敵も侵入してくる敵が投影型熱光学迷彩を使用することを想定している。設置されているのは足音などの音響に反応する振動感知センサーだ。
「無力化する」
指向性電磁パルスガンでセンサーを破壊。無力化した。
「すぐにエラーが探知される。急ぐぞ」
カイラが前線で指揮を執り、核施設内を進んでいく。
「前方に警備部隊を確認。TYPE300装甲兵員輸送を装備する機械化歩兵小隊。ヘカトンケイル強襲重装殻もいます」
「迂回突破だ。交戦はしない」
「了解」
カイラの指示でヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちは敵の警備部隊を隠密によって迂回してすり抜けた。
「そろそろ戦術核の貯蔵施設に到着。しかし、やはり警備部隊です」
「ここまで来たら強行突破だ。隠密は終わり。やるぞ」
投影型熱光学迷彩で姿を隠していたカイラたちが攻撃位置に向かい、TYPE300装甲兵員輸送車に向けてSRAT-140携行対戦車ロケットを始めとする武器を向ける。
「投影型熱光学迷彩解除。エネルギーシールド展開。交戦開始!」
号令をカイラが発し、一斉に攻撃が始まった。
無数の対戦車ロケット弾とグレネード弾が飛来してアクティブ防護システムを飽和させると装甲兵員輸送車とアーマードスーツを撃破。
「敵襲、敵襲!」
「応戦しろ! 戦え、クソッタレ!」
エデン統合軍部隊はMTAR-89自動小銃で、ヴリトラ・ガーディアンズは特殊作戦仕様のCR-47自動小銃でそれぞれ応戦。
銃弾が飛び交い、銃声と爆音が響く。
「制圧を急げ。他から増援が来るぞ。ライオンハート特殊任務旅団の連中が敵を引き付けておいてくれるとは限らない」
「了解」
ヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちは素早くエデン統合軍の警備を始末すると戦術核が備蓄されている巨大な倉庫の前に立った。
「爆破しろ」
「ブリーチングチャージ、セット! 3カウント!」
倉庫の入り口にブリーチングチャージがセットされて3秒のカウント。
「爆破!」
そして入り口が爆破され、すぐにスタングレネードが放り込まれる。
「ゴー、ゴー!」
ヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちが一斉に突入していき、クリアリングを実施した。内部にエデン統合軍の警備はいない。
「よし。制圧できたな。核兵器の有無を迅速に確認しろ」
「了解」
カイラの指示でコントラクターたちが核施設内で作戦目標である戦術核を捜索する。端末をハッキングしたり、ガイガーカウンターを使うなどして、確保すべき核を探し、そして──。
「発見しました! 作戦目標です!」
「よろしい」
威力が1キロトンから10キロトンまで調整可能な戦術核をカイラたちヴリトラ・ガーディアンズは確保した。その数は50発以上だ。
核弾頭はミサイルに搭載することを前提に設計されていた。
「少佐。ライオンハート特殊任務旅団も目標の戦略核を確保したとのこと」
「オーケー。仕事は達成だ。だが、まだやるべきことは残っている」
「ええ。予定通りにやりましょう」
カイラがにやりと笑うのに部下たちも笑う。
その頃、ライオンハート特殊任務旅団はドミトリーの指示で使用されるはずだった戦略核を全て確保し、弾頭をすぐには使えないようにしようとしているところであった。
「少将閣下。ヴリトラ・ガーディアンズより戦術核を確保とのこと」
「いい知らせだ。こちらも核兵器の無力化作業を急ぐぞ」
「了か──」
そこでライオンハート特殊任務旅団の兵士たちの頭が撃ち抜かれる。
「伏せろ、伏せろ!」
「どこから撃って来た!?」
ライオンハート特殊任務旅団の将兵が突然の奇襲に混乱する。
「敵は投影型熱光学迷彩を使用している模様!」
「応戦しろ!」
サプレッサーで抑制された銃声が何度も響く中でライオンハート特殊任務旅団の将兵が応戦を始めた。
「弾幕を展開しろ! 全ての火力を発揮して敵を近づけるな!」
「了解!」
GPMG-99汎用機関銃が火を噴き、グレネード弾や軽迫撃砲弾が炸裂するが、敵からの銃撃は未だに止まる様子もない。
「エデン統合軍が核兵器の奪還に来た可能性が高い。すぐに核兵器の無力化を!」
「了解です、旅団長閣下」
ミーケル少将の指示で技術将校たちが戦略核の無力化を図る。
しかし、敵は素早かった。
「ああ!」
無力化作業を行っていたライオンハート特殊任務旅団の技術将校が射殺され、さらにはミーケル少将も銃弾を浴びた。
「どこの部隊が──!?」
負傷した中、ミーケル少将が最後に見たのは自分たちを銃撃するヴリトラ・ガーディアンズのコントラクターたちだった。
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