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内戦の序章//終焉の獣

……………………


 ──内戦の序章//終焉の獣



「ようこそ、ファティマさん」


 アヴァロン・リカバリーにてレガソフ博士にファティマは迎えられた。


「これからの戦闘に専念できるように念のため検査をお願いします」


「ええ。喜んで」


 ファティマはレガソフ博士に従って研究所内に入り、検査を受ける。


 検査結果は1時間程度に出た。


「やはり体組織のテリオン粒子への置換が進んでいます。当初の予想のままです」


「そうですか。間違いでないのですね……」


 レガソフ博士の説明にファティマが暗い表情を浮かべる。


「ファティマさん」


「カーター先生?」


 そこでミアが現れてファティマに話しかけて来た。


「これからエデンに侵攻するのだろう? それについて話しておきたいことがある」


「なんでしょう?」


「私たちはエデンとエリュシオンが戦場となることで貴重な技術や知識が失われることを恐れている。戦争というものではそういうことがこれまで何度もあったからね」


「なるほど。それは確かに懸念すべきことですね」


 ミアが恐れていたのはこれからエデンで起きる戦争によってこれまで積み重ねられてきた知識が失われることであった。


「知識が失われるということは君が助かる可能性も低くなる。だから、私はそのようなことを防ぐためにレガソフ博士たちとある計画を立てた。それはアレクサンドリア計画というものだ」


「どのようなものなのですか?」


「エデンとエリュシオンの貴重な資源を守るための計画だ。図書館や大学といった教育機関、そして民間企業などの知識の蓄積された場所を戦火から保護し、また高度な教育を受けた人材を保護する計画だ」


 ミアはそう言って計画の詳細をファティマのZEUSに送信した。


「なるほど。分かりました。しかし、護衛が必要ですね。この計画だと科学者を確保するチームも前線に出ることになります。それに対する警護は必要でしょう」


「それを手配してもらえると助かるのだが」


「では、手配しましょう。ちょっと待ってください」


 ファティマはそう言ってZEUSである人物に連絡。


 その人物がアヴァロン・リカバリーを訪れる。


「ファティマ。話は聞いた。ミア達の護衛をすればいいのか?」


 それはマムルークだ。


「そうです、マムルークさん。カーター先生たちもエデンに向かいます。知識の保護のために。なのでその護衛をお願いしたいのです」


「危険だ。エデンは戦場になる。ミアたちは戦争が終わるまで待つべきだ」


 しかし、マムルークは首を縦には振らない。


「必要なことなんだ、マムルーク。私たちはエデンにおける技術を失うわけにはいかない。そんなことをすれば人類は大きく後退してしまい、助けられる人間も助けられなくなってしまう」


「だが、他の人間に任せてもいいだろう? 別にお前が行かなくとも……!」


「私はテリオン粒子研究においてそれなりの実績がある。私がいかなければならないんだ。守ってはくれないのか、マムルーク?」


「守りたい。守りたいに決まっている。守りたいから危険な場所に向かってほしくないんだ。私はお前のことを……」


「私のことを?」


 マムルークが口走るのにミアが首を傾げる。


「私はお前が好きなんだ。だから、危険な場所に行ってほしくない……」


 マムルークは俯いたままそう呟いた。


「それは……。そうだったのか。そのことは嬉しく思うよ、マムルーク」


「なら、分かってくれるな?」


「ダメだ。私たちの行為で人類の文明を後退させてしまうわけにはいかないんだ。絶対に守り抜かなければならない。だから、君にも手を貸してほしい」


「言っても聞いてはくれないか」


「この戦争が終わったら一緒に暮らそう。私も君のことが好きだよ、マムルーク」


「ミア……」


 ミアがそう言い、マムルークがじっとミアを見つめた。


 その様子をサマエルも見ていた。そして、彼女はある決断をする。


「あの!」


「どうかしたかい、サマエルさん?」


「お姉さんと同じようにボクのことも調べてほしいんです」


「君を?」


 サマエルの意外な申し出にミアが首を傾げる。


「お願いします」


「分かった。行おう」


 何かあると思ったのかミアはサマエルの体を検査した。


「これは……」


 その結果、驚くべきことが判明した。


「検査結果はどうだったのですか?」


「……サマエルさんの体はその全てがテリオン粒子によって構成されている。徐々に置換が進んでいる君とは違って完全にテリオン粒子に置き換わっているんだ」


「それは……どういう……」


「テリオン粒子による生命体、というべきだろう。考えたこともなかったが。テリオン粒子がそのような振舞いをするなどとは……」


 ファティマもミアも、そしてレガソフ博士も動揺している。


「サマエルちゃん。あなたは一体……」


「ボクはかつて終焉の獣と言われていた存在。そう、旧世界を崩壊させ、今にまで至るテリオン粒子による汚染を引き起こした存在だよ」


 ファティマが尋ねるのにサマエルがそう答えた。


「旧世界を崩壊させ、テリオン粒子による汚染を引き起こした存在? しかし、どうしてそれが人の姿を……?」


「ボクはある並行宇宙から呼び出された。最初は姿かたちを持たない単なるテリオン粒子の集まりだった。だけど、ある人間と接触したことでこの形を得たんだ。それがボクという存在」


 レガソフ博士が尋ね、サマエルがそう答える。


「ボクはこの形を取った能力をあることに使った。そう、お姉さんを助けるために使ったんだ。結果として助けることには繋がらなかったけれど」


「どういうことですか?」


「お姉さんはゲヘナに来て最初の仕事(ビズ)でMAGと交戦した。その際にお姉さんは致命傷を負ったんだ。ボクはお姉さんを死なせたくなくて、それで、お姉さんの損傷した体をテリオン粒子で修復したんだ」


 ファティマが動揺するのにサマエルがそう答えた。


「それでファティマさんの体にはテリオン粒子が蓄積されており、それによる影響を受けていたわけですか。しかし、テリオン粒子をそのように使用可能だとは。にわかに信じがたい」


「しかし、レガソフ博士。実際に私たちはテリオン粒子によって構成されたサマエルさんという存在を目の前にしている。否定することはできない」


「そうだが……」


 ミアが言い、レガソフ博士が呻く。


「ボクはお姉さんを助けたかったけど、助けられなかった。逆にお姉さんを苦しめる形になってしまった。ごめんなさい。本当にごめんなさい……!」


 サマエルが泣きながらファティマに謝罪する。


「謝る必要なんてありませんよ、サマエルちゃん」


 しかし、ファティマはそのようなことを全く気にせずそう言った。


「サマエルちゃんが助けてくれなければもっと早く私は死んでいたんです。それが避けられただけでもうれしいですよ。感謝しています」


 ファティマがすすり泣くサマエルを抱きしめてそう語る。


「それにエリュシオンにいけば問題は解決するかもしれないんです。まだまだ希望を捨てるには早いですよ。もっと一緒に頑張っていきましょう!」


「うん……。うん……! 頑張ろう!」


 ファティマの笑みにサマエルも微笑んだのだった。


……………………

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