解放への道//勝利
……………………
──解放への道//勝利
ファティマたちデモン・レギオンが発動したレヴィアタン作戦は瞬く間にゲヘナ軍政府を追い詰めていった。
「敵は新しい防衛線を構築しました。シナイ・フォートレス市外周に展開する防衛線です。撤退によって戦線が整理されたことでゲヘナ軍政府は戦力を集中させています」
ファティマがそう説明した。
ゲヘナ軍政府は中央基地や軌道エレベーターがあるシナイ・フォートレス市防衛のための防衛線を展開している。
戦線が撤退によって縮小し、そのことでゲヘナ軍政府は戦力を集中させていた。
「これを突破するのはなかなかに困難です。そして、今はこちらも損耗や部隊編成の混乱が生じています。補充と補給、再編成を終わらせてから次の攻撃を」
「了解です」
ファティマの指示にシシーリアたちが頷く。
そして、攻勢限界を迎えたデモン・レギオンの部隊に補充と再編成が行われる。
ウォーホース無人輸送機も行きかい、前線部隊に補給が行われ、指導部の指示で再編成が行われていく。
同時にその頃ゲヘナ軍政府の大敗はエデンに届いていた。
「敗北した、だと!?」
目を見開いて叫ぶのはエデン社会主義党書記長のドミトリー・アンドロポフだ。
今日はトロイカ体制を構築するドミトリー、レナト、アデルが揃って出席している会議があり、そこで国防大臣のゼレール元帥が報告を行っていた。
「その通りです。ゲヘナ軍政府は敗北しました。全軍がシナイ・フォートレス市まで撤退し、そこで再編成を行っています」
「何故そのようなことに」
「誰の責任だ!」
エデン社会主義党の党幹部たちがそれぞれ困惑や批難の声を上げる。
「静かに! 軍としてはこれからどのような対応を?」
ドミトリーがそうゼレール元帥に尋ねた。
「動員可能な全ての戦力を投入し、ゲヘナにおける反政府勢力を叩き潰すべきです。エデンにはまだまだ投入可能な戦力があります。エデン統合軍にも民間軍事会社にもです」
「では、ここでMAGとジェリコの最高経営責任者から話を聞きたい」
ドミトリーがそう言い、MAGとジェリコの最高経営責任者であるソロモン・アンドロポフとオフィーリア・ナイトが呼ばれた。
「両名に尋ねる。投入可能な戦力で現在のゲヘナにおける反政府勢力の暴動を鎮圧することは可能か?」
「適切な契約が結ばれれば可能です。我々は多数のコントラクターと契約可能ですが、適切な契約がなければこれらを動員することはできません」
「よろしい。適切な契約を提示しよう。無制限の契約だ。我々はそちらが求める限りの報酬を支払う代わりに、そちらにも全ての契約を締結してもらう」
「分かりました」
ソロモンの言葉にドミトリーが頷く。
そして、納得した空気が流れる中声が上がった。
「反対です! 既にMAGもジェリコも敗れています!」
声を上げたのはアデルだった。
「彼らに何が期待できるというのでしょうか? 彼らは既にその実力がないことを明確に示しているのです。ジェリコもMAGもです。無制限の契約など論外!」
「だが、彼ら以外に誰を頼れるというのだ! エデン統合軍も敗れているのだぞ!」
「これ以上弾圧と戦争を続けることをやめるべきです」
党幹部がヤジを飛ばすのにアデルがそう言った。
「戦いを止めるとはどういうことだ?」
「ゲヘナにおける反政府勢力と交渉するという手もあります。我々には確かに戦力がある。そうであるからこそ、交渉するべきなのです。こちらに戦う力がなくなってからでは講和はできません」
ドミトリーが尋ねるのにアデルがそう答える。
「交渉だと? 我々を骨の髄まで恨み、捕虜すら取らない連中と?」
「彼らを批判する前に我々が彼らにしたことを思い出してください。MAGやジェリコといった民間軍事会社が自分たちの契約のためにどれほどのゲヘナの民間人を犠牲にしたのかを」
アデルはそうMAGとジェリコの最高経営責任者たちを睨む。
「我々は契約に則って動いているだけです」
「我々がゲヘナの住民を虐殺しろと命じたとでも? 我々はそのような指示を出していません。あなたたち民間軍事会社は契約内容を拡大解釈して好き勝手に動いてきたのです」
オフィーリアがそう述べるのにアデルがそう言い放つ。
「ゲヘナにおける反政府勢力と交渉し、停戦する。それが重要です。それができない、従えない民間軍事会社は解散させるべきでしょう」
「何を馬鹿なことを! 交渉などできるはずがない!」
解散という単語が出るのに曾孫がその民間軍事会社の最高経営責任者であるドミトリーが猛反発する。
「解散というのは極端では? もはやエデン統合軍だけでは戦えないのだ。それよりもゲヘナにいるエデン統合軍と民間軍事会社の戦力をエデンに帰還させて、エデンの守りを固めるべきだと思う」
「ゲヘナを放棄すれば我々は生活必需品から何までが欠乏し、社会が大混乱を起こしますがそれでいいのですか?」
「それは、その……」
レナトがアデルに指摘されてたじろぐ。
「ゲヘナにおいて我々は敗北しました。そのことを念頭において今の体制を見直さなければなりません。このまま敗北した状態を続けるのか。それとも新しい体制へと改革を進めるのか」
アデルは党員たちにそう呼びかけて着席した。
「では、採択を取りますか?」
「必要ない。今は戦時であり、国防大臣であるゼレール元帥の意見が最優先される。民間軍事会社への無制限の契約は決定事項だ」
レナトが恐る恐る尋ねるのにドミトリーがそう言い放った。
「民間軍事会社のリソースを最大限活用してゲヘナの反政府勢力を叩く。以上だ。それぞれが党のために義務を果たすように」
ドミトリーは強引にそう結論を出して会議を終わらせる。
「ゼレール元帥。一緒に来てくれ」
それからドミトリーはゼレール元帥を誘い、リムジンに乗り込んだ。
「ゼレール元帥。最悪の場合に備えておきたい」
「と言うと?」
「ゲヘナにおける制御を完全に喪失した場合だ。私は核攻撃を選択肢に入れるべきだと考えている」
ゼレール元帥にドミトリーがそう告げた。
「エデン統合軍としては今も核戦力を保有していると認識しているが」
「確かに保有している。純粋水爆を一定数。しかし、ゲヘナを核攻撃する計画はない」
「ならば計画を立案してくれ。ゲヘナの反政府勢力を焼き払い、反乱を制圧する。それが必要になる可能性も捨てきれない」
「分かった。準備させよう。しかし、テリオン粒子に汚染されている地上がさらに汚染されることも受け入れなければならないぞ」
「放射線は除染技術があるから問題ない。ゲヘナの人間が少し減ったならば、エデンから不要な人間を追放すればいい。核攻撃をしようと何をしようと問題はない」
「では、計画を立案させておこう」
ドミトリーの求めにゼレール元帥は頷いたのだった。
……………………