解放への道//レヴィアタン作戦
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──解放への道//レヴィアタン作戦
ゲヘナ軍政府の反転攻勢アガレス作戦は頓挫しつつある。
だが、一部の部隊はデモン・レギオンを半包囲していたり、突出していたりなどして、未だに安心できない状況だ。
「これより我々は反撃を実施します」
ファティマがそう宣言する。
「作戦目標はゲヘナ軍政府部隊への打撃と可能な限りの前進です。この戦いでゲヘナ軍政府を打倒する勢いで攻撃を仕掛けましょう」
「作戦の詳細について説明する」
ファティマの言葉をグレースが引き継ぐ。
「まず、後方に浸透している部隊によってさらなる物資集積基地への攻撃と後方連絡線の攪乱を実施。これによって敵戦力への補給を削ぎ、継戦能力を低下させる。同時に敵戦力の後方への拘置も実施」
まずデモン・レギオンのアドバンテージである数の優位を生かすために、後方に浸透させている戦力を敵の脆弱な後方連絡線にぶつける。
それによって敵前線部隊と後方を切り離し、撃破を容易にする。
「それから敵正面に対して人海戦術を実施。敵は砲兵などの戦力を欠きつつある。人海戦術は極めて有効に働く」
「フォー・ホースメンとソドムからも支援はあります。彼らが敵の砲兵や航空戦力に対応する予定です」
フォー・ホースメンとソドムからは自走榴弾砲と対砲迫レーダーという対砲兵戦力が前線に進出し、さらには自走対空砲や地対空ミサイルを組み合わせた防空コンプレックスも構築されていた。
「しかし、こちらは訓練されていない兵士が大勢いるだけ。武装も貧弱。だから、奇襲が重要になる。部隊の慎重な戦略機動が必要になる」
「それについてはグリゴリ戦線がそのノウハウを発揮してくれます。彼らの指揮に従って動いてください」
グリゴリ戦線はこれまでデモン・レギオンのそれに似た戦略を取っていた。質より量の部隊による大規模な人海戦術は彼らの得意とすることだ。
「皆でお互いを助けて戦いましょう。では、この攻撃計画はレヴィアタン作戦と呼称。作戦目標を達成するまで攻撃は続けます」
「了解」
そして、ゲヘナ軍政府に対する大規模な攻撃のための準備が進められた。
トラックがでたらめに行き来して上空にある偵察衛星などの目をごまかす。その間主力部隊の戦略機動は地下を通って行われる。
さらに双方の無人攻撃機が上空を行きかう中で航空戦が始まる。
『敵機を視認。撃墜する』
最新のファントム無人攻撃機を使用するゲヘナ軍政府に対してフォー・ホースメンは旧式のフサリア無人攻撃機が混じっている。そのため特殊な方法で戦っていた。
まず囮としてフサリア無人攻撃機がゲヘナ軍政府の航空戦力を釣りだし、撃墜を狙わせる形で誘い込む。
『クソ! 地対空ミサイルだ! ロックオンされている!』
そして、自軍の防空コンプレックスの有効射程内にまで引きずり込み、大量の地対空ミサイルによって撃墜するのだ。
防空コンプレックスは極めて巧妙に偽装されており、普段は電波輻射管制も行っているのでゲヘナ軍政府はこれを叩きたくとも叩けない。
ゲヘナ軍政府の航空戦力は損耗していき、その活動も低調化した。
そして、上空援護に当たる航空戦力の減少によって空中機動作戦も困難になる。既に空中機動で展開した敵の部隊は孤立し始めた。
「全ての部隊が配置につきました」
「いよいよですね」
シシーリアが報告し、ファティマが頷く。
「攻撃開始の号令を皆が待っている。ファティマ、始める?」
「ええ。始めましょう。レヴィアタン作戦発動です」
ファティマが作戦開始を宣言。
『レヴィアタン作戦発動、レヴィアタン作戦発動』
まず動き始めたのはフォー・ホースメンのバーゲスト・アサルト。
既に浸透していた彼らがさらに後方に浸透して敵の砲兵陣地や防空コンプレックスの位置を司令部に通達する。
『カエサル・ゼロ・ワンより各車。砲撃開始、砲撃開始』
そして、取得した座標に向けてフォー・ホースメン所属の自走榴弾砲が砲撃を開始した。ゲヘナ軍政府の砲兵陣地が叩かれ、爆発炎上する。
「敵です! 凄まじい数の敵が迫っています!」
「クソ! 砲兵の支援は!?」
「砲兵は支援できないとのこと!」
砲兵が叩かれたところにデモン・レギオンが人海戦術を展開し、兵士の津波が前線のゲヘナ軍政府部隊を襲う。
「進め! 進め!」
「ゲヘナ軍政府の犬どもを殺せ!」
デモン・レギオンは膨大な戦力を投入している。その上、数だけでなくこれまで温存されてきたフォー・ホースメンの砲兵と航空戦力もある。
既に弾薬が尽きかけていたゲヘナ軍政府部隊は次々に撃破されていき、あるいは包囲されて孤立していく。
「ウェストモーランド少将閣下。もはやアガレス作戦は完全な失敗です。隷下部隊は既に交戦能力を喪失し、追い詰められています。撤退の許可を!」
「やむを得ん。撤退を許可する。シナイ・フォートレス市まで撤退し、防衛線を構築させろ。アガレス作戦は中止だ。クソッタレ」
ゲヘナ軍政府部隊にルーカスから撤退命令が下され、撤退が始まる。
「撤退だ! 撤退するぞ!」
「敵が追撃してきます!」
しかし、撤退戦というものは激しい損耗が生じる厳しい戦いだ。
デモン・レギオン側としては新しい防衛線を構築される前に敵に打撃を与えて、防衛戦闘を困難にさせることが必要。故に猛烈な追撃戦が実施された。
「撤退する敵を全戦線で追撃している。敵は既にこれまでの戦闘で車両を喪失しているから、こちらの車両部隊を使えば打撃を与えられる」
「では、容赦なくやってください。新しい防衛線を展開される前に」
「了解」
ファティマの指示にグレースが頷く。
テクニカルを主力とする車両部隊が逃げるゲヘナ軍政府部隊を追撃。
「我々は殿だ! 友軍の撤退を支援するぞ!」
「了解!」
ゲヘナ軍政府部隊はまだ戦意のある一部の部隊が殿を務めて、デモン・レギオンによる追撃を阻止しようとする。
しかし、既に車両のほとんどを喪失し、航空優勢も危うくなったゲヘナ軍政府部隊の撤退は遅々として進まない。
「敵は総崩れだな。まさかゲヘナ軍政府がこうなるとは」
バーロウ大佐はフォー・ホースメンの司令部で状況を聞きながらそう言う。
「ええ。ここまで来ればエデンに侵攻することも」
「可能かもしれないな」
参謀が言うのにバーロウ大佐が肩をすくめる。
「しかし、問題はいくつもある。エデンに侵攻するためには軌道エレベーターを使用しなければならない。これを確保できるかが怪しい。最悪、エデンの連中は軌道エレベーターを爆破する可能性もある」
空中都市エデンに向かうには軌道エレベーターを使う必要がある。
「それはエデンがゲヘナの労働力と資源を失うことを意味します」
「だが、俺たちに殺されるぐらいなら連中は飢え死にを選ぶだろう」
参謀が指摘するのにバーロウ大佐はそう返した。
「まあ、勝利できることを祈るとしよう」
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