解放への道//アガレス作戦
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──解放への道//アガレス作戦
ゲヘナ軍政府の計画していた反転攻勢アガレス作戦が発動された。
「敵戦車視認」
「弾種、装弾筒付翼安定徹甲弾! 装填!」
「装填、完了!」
フォー・ホースメンが展開させているARM74主力戦車を主力とする戦車部隊が、迫りくるゲヘナ軍政府の戦車部隊を狙う。
「目標を照準。いつでも撃てます」
「待機だ。照準は続けろ」
各車両は攻撃命令を待つ。
戦車だけでなく、対戦車ミサイルや対戦車地雷などを含めたキルゾーン。敵を確実なそのキルゾーンに誘い込んでから一斉に攻撃を浴びせるのだ。
『大隊指揮車より各車。攻撃開始、攻撃開始』
「撃て!」
敵装甲部隊がキルゾーンに入ったと同時に一斉に攻撃が開始される。
ARM74主力戦車の主砲が一斉に火を噴き、対戦車ミサイル、対戦車ロケット弾が一斉に発射された。
それらはアクティブ防護システムに迎撃されながらもアクティブ防護システムの対応を飽和させることによって、敵戦車を確実に屠った。
「まだ来るぞ。照準、急げ!」
しかし、ゲヘナ軍政府は大量の装甲部隊を動員しており、敵は次から次に現れる。
前線部隊はそれにより押され始め、さらには迂回突破を許し始めた。
「バーロウ大佐。前線部隊が押され始めています。予備戦力を投入すべきです」
「ああ。だが、予備戦力は現在敵の空中機動部隊に拘束されている。全戦力は投入できないぞ。まずは敵の空中機動部隊をどうにかしないとな」
隷下部隊の指揮官が進言するのにバーロウ大佐がそう応じる。
「全く、模範的な縦深攻撃作戦だな。砲爆撃と空中機動部隊によるこちらの予備戦力の拘束と装甲部隊による前線突破。さあて、どうしたものかね」
ソ連が冷戦時代に西側への攻撃手段として構想していた縦深作戦。それに近い作戦をゲヘナ軍政府は実行していた。
フォー・ホースメンがそれに対応する間、デモン・レギオンの指導部も動いていた。
「このまま正面から戦い続ければ負けます。依然として正面戦力においてはゲヘナ軍政府及びエデン統合軍が我々より優位ですから」
ファティマがそう言う。
「そこで犠牲は覚悟の上でこちらも敵の縦深を狙いましょう」
「どのようにして?」
そのファティマの提案にグレースが尋ねた。
「現在こちらのゲリラ戦部隊が後方で広く活動しています。その戦力を集結させて、敵後方の物資集積基地や砲兵陣地を襲撃。敵を攪乱します」
デモン・レギオンは戦列に加わった大勢の市民をゲヘナ軍政府支配地域に展開させており、それらは1個分隊程度の規模で行動している。
ファティマはそれを集結させて、ゲヘナ軍政府のハードターゲットに対する人海戦術を実施させるつもりなのだ。
「犠牲は出るでしょうがこのまま敗北してもそれは同じです。どうでしょうか?」
「ファティマさんが決められたことならば異論ありません。準備させましょう」
「助かります、シシーリアさん」
シシーリアが作戦に同意。
「ふうむ。それはそれでいいかもしれないが、ちょっとばかり暇をしている連中を動かさないかい、大将?」
「と言いますと、カイラさん?」
そこで声を上げたのヴリトラ・ガーディアンズの最高経営責任者であり、今はデモン・レギオンに加わったカイラだった。
「うちの連中が暇をしている。後方の司令部や物資集積基地を襲撃するくらいなら付き合うぞ。ここで勝利すればエデン社会主義党と交渉する余地も生まれるしな」
「では、私も向かいましょう。せっかくですのでそちらの腕前を拝見、と」
「オーケー。準備させよう」
「襲撃目標ですが」
ファティマがZEUSに表示されている地図を睨む。
「そうですね。航空基地にしましょう。このユニフォーム・シックス空軍基地は敵の兵站ドローンが集結している物資集積基地でもあります。これを叩き、敵の空中補給を寸断。敵空中機動部隊を干上がらせましょう」
ファティマが攻撃目標に選んだのはウォーホース無人輸送機が大量に配備されていることが確認されているユニフォーム・シックス空軍基地。
ここから兵站ドローンが無人運用され、空中機動部隊などに物資を輸送している。
ここを叩かれればゲヘナ軍政府の兵站計画は狂うことだろう。
「まずは我々も後方に浸透する必要があります。流石にこの状況ではキャスパリーグさんの密輸ネットワークも使えないでしょうし、どうしたものか」
「いや、密輸のための地下通路が使えると思うっすよ。かつての地下鉄や地下街の廃墟を利用したルートがあるっす。それを使えば敵に気づかれずに後方に浸透できるはず」
「それはナイスです。それで行きましょう」
キャスパリーグの言葉にファティマが頷く。
「では、それぞれを準備を。ゲヘナ軍政府による攻撃を止め、反撃に転じる必要があります。それによって我々に勝利を!」
「おお!」
そして、ファティマたちが作戦準備を開始。
後方に浸透するのはファティマとカイラのヴリトラ・ガーディアンズ。
「なかなかな重装備ですね」
ヴリトラ・ガーディアンズは最新のヘカトンケイル強襲重装殻も装備しており、質という面においてはフォー・ホースメンすらも上回っていた。
「ただし、うちのコントラクターは全員がエデン統合軍を不名誉除隊した連中だ。あまりモラルの面での期待はしないでくれ」
「了解。それは後から考えることにしましょう」
カイラが肩をすくめてそう言い、ファティマたちは作戦開始地点であるキャスパリーグたちが利用している地下通路を目指す。
「ここっすよ」
「道案内をお願いしますね」
「了解」
キャスパリーグに案内されてファティマたちは真っ暗な地下通路に足を踏み入れた。
「敵はこの通路を把握しているのか?」
「いいや。ゲヘナ軍政府の連中に見つかったことはないよ」
「そいつは何より」
カイラが確認し、キャスパリーグが先頭に立って地下通路を進む。
地下通路には本当に敵はいないようでブービートラップすらなく、ファティマたちはゲヘナ軍政府支配地域へと浸透していった。
「そろそろ出口っす」
キャスパリーグがそう言い、ファティマたちは地下鉄から上がる階段を昇る。
そして、ゲヘナ軍政府支配地域へと進入した。
「ここからは私が案内します。現地で私たちに協力してくれる部隊が待機していますので彼らと合流しましょう」
「了解」
現地では後方でテロやゲリラ戦などを実行している部隊が待っている。彼らと合流してユニフォーム・シックス空軍基地を目指すことになっていた。
ファティマたちは慎重にゲヘナ軍政府支配地域を目的地に向かう。
「戒厳令状態ですね。かなりの戦力が後方に展開されているようです」
「あんたのお友達が後方でテロをやりまくったせいだろう」
「そのようです」
カイラが言うのにファティマが頷く。
デモン・レギオンのテロとゲリラ戦によってゲヘナ軍政府の戦力を後方に拘置するという作戦の意図は果たされたようだ。ゲヘナ軍政府は後方に戦力を配置したままである。
「こっちですよ」
そしてファティマたちはひとつの小さなビルに入った。
「止まれ!」
「撃たないで。味方です!」
すぐさま声が響くのにファティマたちが手を上げてそう言う。
「もしや、あなたはファティマ様ですか?」
ビル内の暗がりから複数の武装した男女が姿を見せた。
「そうです。生体認証を」
「了解」
ファティマと武装した男女は互いを生体認証する。
「確認しました、ファティマ様。我々がユニフォーム・シックス空軍基地を襲撃するお手伝いをするのですよね?」
「ええ。協力をお願いします」
そうファティマは告げた。
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