解放への道//民衆の力
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──解放への道//民衆の力
ヤンキー・ゼロ航空基地の陥落はゲヘナの住民たちに希望をもたらした。
「ゲヘナ軍政府はもうお終いだ!」
「ああ。連中はゲヘナから出ていく!」
ゲヘナ軍政府は敗北し、ゲヘナの住民たちが勝利した。
そう信じる住民たちは次々にデモン・レギオンに加わった。
「調子はどうですか、シシーリアさん?」
ファティマは新兵の訓練を任せているシシーリアの下へ向かった。
「順調ですよ。少し前なら考えられなかったぐらいには」
「それは何より」
志願兵たちはシシーリアのグリゴリ戦線で訓練されていた。一応教官はフォー・ホースメンからも派遣されてきている。
「新兵の中には軍歴があるものいるそうですが」
「そういう人材はフォー・ホースメンに取られています。こっちに来るのは全くの素人だけですよ」
「ふむ。運用方法としてはどのように?」
「一部は正面戦力に。一部は敵地で活動する浸透戦力に。このふたつの方法で運用しようと考えています」
「なるほど。では、そのようにお願いします」
ファティマはシシーリアの言葉に頷く。
それからデモン・レギオンによる大規模な攻勢が急がれた。何せ指導者のファティマは余命が半年しかないのだ。ゆっくりはしてられない。
「攻撃命令です!」
デモン・レギオンは一斉に攻撃に出る。
軌道エレベーターがあるアルファ・ゼロ基地と中央基地の制圧が最終的な目標だが、それまでに勝利を積み重ねていく必要がある。
ファティマたちは戦い、戦い、戦い、ゲヘナ軍政府を押していく。
ゲヘナ軍政府の部隊や民間軍事会社の部隊は正面から津波のように押し寄せる軍勢と後方で破壊活動を行う部隊によって分断されてしまい、包囲殲滅されて行く。
ゲヘナ軍政府支配地域は失われて行き、フリードリヒは大規模な撤退を指示した。
「勝てるはずがない。現有戦力で勝利を望むのは不可能だ!」
フリードリヒがゲヘナ軍政府中央基地でヒステリックに叫ぶ。
「ゲヘナの住民のほとんどが今やデモン・レギオンに加わっているのだぞ! 数において何倍差だというのだ! 現有戦力では勝てない!」
「では、増援を」
「要請しているがエデン最高会議幹部会議長レナト・ファリナッチとエデン閣僚会議議長アデル・ダルランが認めようとしない。連中は我々を見捨てるつもりだぞ。連中の政治のためにな!」
そう、増援の要請はレナトとアデルによって妨害されていた。
レナトとアデルはそれぞれの目的から国防大臣ギャスパー・ゼレール元帥の失脚を狙っており、彼が大きな失態を犯すように仕向けていたのである。
本来ゲヘナ軍政府に送られるはずだった増援はその派遣を政治的に妨害され続け、今もエデンに留まっていた。
フリードリヒが指揮するゲヘナ軍政府は増援がないままにゲヘナの全住民を敵に回し、ゆっくりとなぶり殺しにされていた。
デモン・レギオンは前進に前進を続け、かつてゲヘナ軍政府が支配していた場所を制圧しては住民を解放し、その住民を隊列に組み込み、装備を鹵獲し、どこまでも巨大な存在になりつつあった。
「ゲヘナの征服を完了させる必要があります」
ファティマはデモン・レギオンのジェーン、キャスパリーグ、そしてグレース、デフネ、シシーリアを前にそう宣言した。
アリスはゲヘナ軍政府の高官とともにおり情報を送信してくれている。
「ゲヘナ軍政府は現在完全な守勢に立っています。それも大規模な撤退のおまけつきです。我々は戦わずしてゲヘナ軍政府支配地域の多くを支配しました」
「いいことっすね」
ファティマの報告にキャスパリーグがそう言う。
「ですが、重要なのは軌道エレベーターがあるアルファ・ゼロ基地と指揮系統が集中している中央基地の制圧です。このふたつは未だに遠い目標となっていますが、そろそろ現実感のある計画を立てたいですね」
「ゲヘナ軍政府と民間軍事会社は航空戦力のほとんどを喪失している。中央基地ならバーゲスト・アサルトとイェニチェリ大隊を動員して空中機動部隊による攻撃を行えば叩ける」
ファティマが言うのにグレースがそう言った。
「それも手のひとつです。ですが、敵の防空コンプレックスの存在やエデンから派遣される航空戦力の存在を考えるとそう簡単には決断できません」
「もっと兵力が必要だね。それも訓練された戦力。あたしに心当たりがあるよ」
「訓練された戦力にですか?」
「そ。民間軍事会社の一社が反乱を起こしてる」
「民間軍事会社が反乱?」
デフネの妙な発言にファティマが首を傾げる。
「ヴリトラ・ガーディアンズって会社が反乱を起こした。元はゲヘナ軍政府と契約してたんだけど待遇改善を訴えて反乱。今はゲヘナ軍政府やMAG、ジェリコを攻撃してる」
「それは向こうの要求にもよりますが仲間になってくれそうですね」
「ただこの民間軍事会社はゲヘナ軍政府支配地域で生物化学兵器を使ってる。そういうことをやる危ない連中だってのも認識しておいて。あたしはそんなの別に構わないけどさ」
「危なそうな人たちですね。しかし、今は味方が欲しいです。特に訓練された味方が」
いくら兵がいてもそれが訓練されていない素人ならただの烏合の衆だ。
その兵を指揮し、勇気を奮わせる指揮官が必要になる。それは訓練された人間でなければ果たすことができない役割だ。
「ヴリトラ・ガーディアンズと接触したいですが、どのようにすればいいでしょうか」
「私が連絡を取ってみよう。ゲヘナ軍政府と契約していた民間軍事会社ならば連絡先は把握できる。任せておいてくれ」
「では、お願いします、ジェーンさん」
そしてジェーンが問題のヴリトラ・ガーディアンズとの接触を試みる。
接触を試みてから数日後、ジェーンがヴリトラ・ガーディアンズとの接触に成功。
「向こうの最高経営責任者が会談の場を持つことに同意した」
「どんな人です?」
「カイラ・クマールという元エデン陸軍の将校だ。軍規違反で不名誉除隊になったが親がエデン社会主義党の地方幹部でそのコネを使って民間軍事会社を設立したという人間だよ」
「なんともな経歴ですが、それならゲヘナ軍政府に反乱を起こしたのも納得です」
ジェーンの説明にファティマが納得する。
「会談の場はどこですか?」
「今はデモン・レギオン、ゲヘナ軍政府、フォー・ホースメン、ソドム、グリゴリ戦線のいずれにも所属していない中立地帯を指定している。どうする?」
「行きましょう。会ってきます」
「では、具体的な場所を決める」
それからジェーンが先方と相談し、会談の具体的な場を決めた。
「決まった。場所はエンパイアキャッスル・ホテルって廃墟だ。誰を連れて行く?」
「サマエルちゃんとデフネさんを。それだけで十分です」
ジェーンが尋ねるのにファティマはそう返した。
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