情報マネジメント//拘束の理由
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──情報マネジメント//拘束の理由
ラザロの車列に迫るイェニチェリ大隊のナイトゥジャー汎用輸送機。
『シザー・ゼロ・ワンより本部。上空援護機を派遣したか?』
『派遣していない』
『じゃあ、あれは何だ?』
そこでラザロがナイトゥジャー汎用輸送機に気づいた。低空を飛行し自分たちを追ってきているパワード・リフト輸送機には誰だって警戒するものだろう。
「敵に気づかれているよ」
「デフネさん。どうしますか?」
無線を傍受しているサマエルが報告し、ファティマが尋ねる。
「この先にある高架道路をふっ飛ばして足を止めさせる。それから降下して目標を奪還するよ。いい、お姉ちゃん?」
「了解です」
デフネが指示を出し、ナイトゥジャー汎用輸送機は車列を追い越すと一気に進行方向にある高架道路を目指す。
『攻撃開始、攻撃開始』
高架道路に向けてドラゴンスレイヤー対戦車ミサイルが叩き込まれる。高架道路が爆発して崩壊。ラザロの車列の進路は遮断された。
『クソ。道路が爆破された! あれは敵だ!』
『撃ち落せ!』
車列の護衛についていたタイパン四輪駆動車がHMG-50重機関銃でファティマたちが乗っているナイトゥジャー汎用輸送機を攻撃してくる。
「降下するよ! 高度を落として!」
『了解!』
ナイトゥジャー汎用輸送機が高度を落とし、デフネたちが降下準備を整えた。
「降下、降下!」
強化外骨格の頑丈さにものを言わせた自由落下による降下を行い、デフネたちイェニチェリ大隊とファティマたちが展開。
「目標を奪還する。行くぞ。続け!」
「了解!」
デフネが先頭に立ちファティマたちが続く。
「敵が来るぞ! 応戦しろ!」
ラザロの側にはタイパン四輪駆動車の他にハウンドドッグ装輪装甲車がいる。いずれも無人銃座にHMG-50重機関銃がマウントされていた。
「サマエルちゃん。敵の兵装をジャックできませんか? 下手に破壊すると目標を死亡させる可能性があります」
「やってみるよ」
サマエルがファティマの要請を受けてラザロの兵装に介入し制御権限を上書きする。
「奪った」
「オーケーです。やりましょう!」
ファティマが制御権限をサマエルから受け取りラザロへの攻撃を開始。
「友軍を誤射しているぞ! やめろ!」
『兵装がハックされている! 止められない!』
無人銃座はラザロを銃撃し、ラザロの部隊が混乱。
「叩きのめせ!」
「やれ!」
そこにデフネ率いるイェニチェリ大隊が襲い掛かり、瞬く間に殲滅した。
「目標を確認」
「やあ、ヴェルトフ中佐。迎えに来たよ」
無事にヴェルトフ中佐が確保された。彼は手錠で拘束されていたがすぐにデフネたちによって解放される。
「ソドムだな? 助かったよ」
「はいはい。ヘマしちゃったね。いくよ」
ヴェルトフ中佐が礼を述べデフネが彼をナイトゥジャー汎用輸送機に乗せる。
「脱出だ。急げ!」
ナイトゥジャー汎用輸送機はすぐさま離陸し、ゲヘナ軍政府支配地域の空域から脱出してそのままソドム支配地域へと帰還した。
「やあ。無事に連れて来れたようですね」
「ええ。この通りです」
エルダーが出迎え、ファティマがヴェルトフ中佐を示す。
「ヴェルトフ中佐。ようこそ。あなたの亡命を歓迎する。その上で尋ねるがどういう経緯でラザロに捕捉されたのです?」
「私を追っていたのはラザロではない。国家保安委員会だ。連中の捜査官があらゆる場所に入り込んでいる」
「こちらで詳しい話を」
「ああ」
ヴェルトフ中佐はエルダーとともに別室に去った。
「さて。これで仕事は完了ですかね」
「一応ね。でも、まだ終わってない感じだよ」
「みたいです。暫くこの近くで待ってますね」
ファティマとサマエルは一度席を外してエルダーからの連絡を待つ。
それからしばらくしてエルダーから連絡があった。
「行きましょう、サマエルちゃん」
「うん」
ファティマたちは再びソドムの拠点へ。
「ファティマさん。先ほどの仕事はご苦労でした。こちらへ」
エルダーに案内されて会議室に入るとアヤズやデフネ、そしてジェーンがいた。
「仕事の話の前に今の状況を説明しましょう」
エルダーがそう切り出した。
「まず今になってどうしてMAGやジェリコ、そして他の民間軍事会社が動きを活発化させているかについてです」
「説明してくれ」
「全てはエデン社会主義党内の権力争いです。エデン社会主義党は今に至るまで数十年間トロイカ体制という支配体制を敷いています。3人の権力者による共同統治」
「ドミトリー・アンドロポフ。レナト・ファリナッチ。アデル・ダルラン。だな」
「そうです。ドミトリーは保守。レナトは中立。アデルは改革。それぞれこうも分かれています。そして、今アデルがこれまでのエデン社会主義党の在り方を猛烈に攻撃しているようなのです」
アヤズが言うのにエルダーがそう説明する。
「アデルはエデン統合軍と民間軍事会社の癒着を猛烈に批判し、このせいでゲヘナ軍政府に汚職が蔓延していると批判。ドミトリーと国防大臣のギャスパー・ゼレール元帥を攻撃しています」
「アデルの背後は国家保安委員会のシー・ヤン議長でしたね」
「そう。そして、今回の防諜作戦にも国家保安委員会が関与していました。いよいよエデン社会主義党内で大規模な争いが勃発するのかもしれません」
「レナトがジェリコの後ろ盾になったのも」
「そのため、というわけかもしれません」
MAGのライバルであるジェリコが勢力を伸ばしたのはレナトがバックについたからだ。
「このようなエデン社会主義党の動きは通常はゲヘナには無関係なものなのですが、今回は話が違うようです。そこで状況を把握するために国家保安委員会が忍び込ませた捜査官を拘束し、尋問したいと思います」
「可能なのですか?」
「汚職軍人の近くに捜査官ありです。ヴェルトフ中佐の証言で捜査官をひとり特定しました。マルクス・グロスマン少佐。この人物を拉致します」
拡張現実に国家保安委員会の捜査官であるマルクス・グロスマン少佐の映像が生じされた。
「我々はこの仕事をファティマさんにお願いしたいと思っていますが、どうでしょうか?」
「引き受けましょう。詳細な情報をお願いします」
「ええ。そちらに送ります」
ファティマがエルダーがから詳細な情報を受けとる。
「仕事は私たちだけで?」
「デフネをお貸しします。生け捕りでお願いしますよ」
エルダーは生け捕りを念押ししてそう言ったのだった。
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