情報マネジメント//侵入
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──情報マネジメント//侵入
デフネが久しぶりにファティマの前に現れた。
「や、お姉ちゃん! 新しい組織の調子はどう?」
「ええ。無事に反エデン・エリュシオンの闘争を始める準備が進んでいますよ」
「へえ。やるじゃん」
ファティマが自慢げに語るのにデフネが感心する。
「それはそうと仕事があるんだけど、受ける?」
「そうですね。組織を立ち上げたものの、まだ事業が軌道に乗ったとは言えないのでお金が必要です。受けますよ」
「オーケー。エルダーお兄ちゃんからの仕事だから案内するよ」
ファティマとサマエルはデフネに連れられてソドム支配地域にある拠点に向かった。
「やあ、ファティマさん」
「こんにちは、エルダーさん」
拠点ではエルダーがマムルークとともにファティマを出迎える。
「仕事があるとのことでしたが」
「ええ。仕事がありますよ。ちょっとした問題が起きていましてね。ご説明しましょう」
ファティマが尋ねるのにエルダーが説明を始めた。
「まず我々が仕事のひとつとして情報を商品として扱っています。ゲヘナ軍政府内にも資産が存在します。ですが、今それが危機に晒されているのです」
エルダーはそう語る。
「ゲヘナ軍政府憲兵監部とラザロが取り締まりを始めたのです。彼らは二重スパイ狩りを始めました。それによって我々の資産のひとりが危機に晒されています。これを失うのは損害です」
「では、それをどうにかすると」
「そういうことです。方法については考えてあります」
ファティマが頷きエルダーが続けた。
「疑いを別の無関係な将校に逸らします。憲兵とラザロの捜査を攪乱し、こちらの資産を守るというわけです。そのことについて仕事を受けていただきたい」
「詳細をお願いできますか」
「ええ。二重スパイの濡れ衣を着せる将校はマイク・ワン基地にいます。この将校の端末に我々と内通していたという証拠になるデータをダウンロードさせ、その後こちらの資産を通じて憲兵に通報します」
「なるほど。了解しましたが、潜入となるとハードですね」
「さらには憲兵とラザロから疑いをかけられないようにこちらの資産を潜入のために使うことはできません」
「ふうむ」
ファティマはエルダーからマイク・ワン基地についての情報を手に入れた。基地の位置はゲヘナ軍政府支配地域深部であり、そう簡単に潜入できる場所ではない。
「この仕事はファティマさん個人に依頼するというよりデモン・レギオンという組織に依頼したいと思っています。それがどういうことかは理解していただけますね。これから仕事を共にするなら能力を示していただきたい」
「了解。ちょっと待ってください。手配します」
エルダーはソドムの資産を使うのではなく、デモン・レギオンの資産を使って侵入を行ってくれと言っているのだ。
「ジェーンさん。仕事の件で話が」
『何だ? どういう仕事だ?』
「ゲヘナ軍政府支配地域にある基地への侵入です。アリスさんを頼れませんか? 問題の基地の情報を送りました。確認してください」
『確認した。アリスに聞いてみる。それからキャスパリーグにも』
ジェーンがそう返して侵入のための手配をする。
「どうです?」
「まだ分かりませんが、こちらとしても準備はしてきたので」
それから連絡を待つとジェーンから着信が。
「どうでした?」
『手配できた。ゲヘナ軍政府の人間に偽装できるIDを準備したぞ。アリスとキャスパリーグに感謝しておけ』
「どうも」
そして、ジェーンから身分を偽装するためのIDが送られてきた。
「どうにかなりそうです。仕事をやりましょう」
「流石です。こちらで仕込むデータは準備してあります。デフネが持っているのでデフネとともに潜入してください」
「了解」
エルダーの指示にファティマが頷く。
「じゃあ、よろしくね、お姉ちゃん」
「こちらこそ。早速ですが向かいましょう」
ファティマとサマエル、そしてデフネはタイパン四輪駆動車に乗り込み、ゲヘナ軍政府支配地域を目指す。
「このIDを使ってください。ゲヘナ軍政府の職員に偽装できます」
「オーケー」
ファティマたちはジェーンが手配したゲヘナ軍政府の軍人に身分を偽れるIDを使用してゲヘナ軍政府支配地域内に侵入。検問でも特に誰何されることなく、ファティマたちは侵入に成功した。
「この先にマイク・ワン基地ですね」
「慎重にやろう。面倒だけどさ」
ファティマが言うのにデフネはあまり気乗りしない様子でそう返す。
「さて、最後の検問、と」
ファティマたちはマイク・ワン基地に入るための検問に差し掛かり、武装したMAGの部隊がいるのを確認した。
しかし、特に誰何もされずにファティマたちはマイク・ワン基地に侵入。
「おお。随分と余裕でしたね。このまま楽な仕事になりそうです」
「ちょっと退屈かもね」
ファティマたちはタイパン四輪駆動車を駐車場に停め、車を降りるとマイク・ワン基地施設内に入った。基地内にはあまり人がいる様子はない。
「気づかれたら全部おじゃんだから慎重にね」
「了解です。しかし、無人警備システムに記録が残りますね」
「端末にアクセス出来れば情報を消せるんだけど」
「ふむ。サマエルちゃん、無人警備システムを一時的に麻痺させられませんか?」
そこでファティマがサマエルにそう提案。
「やってみるよ」
サマエルが端末へのアクセスを試みる。
「できた。妨害できるよ」
「ありがとうございます、サマエルちゃん。では」
無人警備システムの停止を確認してからファティマたちは端末を目指して前進を再開。問題の将校の端末に情報をダウンロードさせるために端末を目指す。
「この先のオフィスですね。ところで将校はどういう人間なんです?」
「憲兵監部の情報管理者。こいつに疑いがかかればゲヘナ軍政府憲兵監部もラザロも相当混乱するはず。それを含めての狙いがあるよ、エルダーお兄ちゃんには」
「なるほど。それは一石二鳥って奴ですね」
ファティマはデフネの意見に納得するとオフィスへの侵入を試みた。
「オーケー。侵入可能です。行きましょう」
オフィスの扉を開き、ファティマたちが侵入。
「後の操作は任せておいて」
デフネはそういうとオフィスにあった端末を操作して目的のデータを混入させた。それから履歴を改変し、以前からこのデータがこの端末にあったように偽装する。
「ミッションコンプリート。さ、逃げよう、お姉ちゃん」
「了解です」
ファティマたちは静かにマイク・ワン基地を去った。
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