報復//イービス・ロジスティクス
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──報復//イービス・ロジスティクス
ファティマたちが作戦に利用するゲヘナ企業に偽装したフロント組織の有するトラックでゲヘナ軍政府支配地域に入った。
「おっと。MAGですよ。かなりの規模です」
軌道エレベーターから伸びる鉄道路線。そこを走る鉄道に無数のMBT90主力戦車やバルバロイ歩兵戦闘車が乗せられ、機動していた。
そんな鉄道が何車両もゲヘナ軍政府支配地域を走り抜けている。
「MAGが大規模な地上軍を派遣しているとは報告にあった」
「何かしらの軍事行動にでるんでしょうか?」
「わざわざ部隊だけ移動させて何もしないなんて無駄なことはしないでしょう。けど、一部では指導部が及び腰になっているとの報告も入っている」
「これまで多くの損害を出していますからね」
MAGはフォー・ホースメンによってかなりの損害を出している。これまでMAGが企てた動きはほぼ事前にフォー・ホースメンによって妨害されてきたのだから。
「それにしても本当に膨大な部隊が動いていますよ……」
ファティマは何車両も移動していくMAGの装甲戦闘車両を乗せた鉄道を眺めて不穏なものを感じていた。
そんな鉄道から離れ、ファティマたちを乗せたトラックはゲヘナ軍政府支配地域にあるイービス・ロジスティクスの社屋に併設された倉庫に入る。
「少佐殿。ようこそ」
倉庫ではイービス・ロジスティクスの社員の身分でゲヘナ軍政府支配地域で情報活動を行っているフォー・ホースメンの情報将校が出迎えた。
「状況を報告して、大尉」
「了解。まずダニエル・リステルがゲヘナにいるのは確定です。こちらの工作員が奴の姿を確認して写真を撮りました。これです」
「間違いない。これはどこで?」
「ゲヘナ軍政府中央基地です。今はそこにはいません」
ダニエル・リステルはゲヘナ軍政府中央基地という以前ファティマがデフネと進入した場所で確認されていた。
「奴のスケジュールについて把握できたものはない?」
「いくつかの予定を手に入れました。奴はインディア・フォー作戦基地でMAG部隊の将校と会議を行うようです。どうやらZEUS越しには行えない会議らしいですね。我々は叱責と見ています」
「これまでの失態に対する?」
「ええ。MAG経営陣はこれまでの失敗の原因は現場の責任だと思っています。部隊を増強しつつも経営陣は責任回避のために現場を罰するつもりでしょう」
「なるほど。それは放っておきたいぐらい丁度いいことなのだけれど」
このようなことを行えば現場の士気は落ち、作戦はさらに失敗するだろう。叱責したところでいい影響があるはずがない。
「暗殺が成功しても現場は叱責されます。しかもより強く。MAGのコントラクターたちの士気の低下は避けられないでしょう」
「なら、それでいい。インディア・フォー作戦基地の警備は?」
「かなり強固です。MAGの機械化歩兵大隊と戦車中隊が確認されています」
「正面から挑むと自殺になりそう」
敵が1000名以上の規模なのに対してグレースたちは7名しかいない。
「なのでこちらで侵入手段を確保してあります」
情報将校はそう言ってグレースの端末に情報を送信。
「インディア・フォー作戦基地のバンカーには封鎖されたトンネルがあります。そのトンネルが繋がっているのはテリオン粒子汚染で放棄された古い弾薬庫です。そこからトンネルに入ればインディア・フォー作戦基地に行けます」
「テリオン粒子汚染の程度は?」
「かなり深刻ですが防護装備があれば30分は作戦可能です」
「それしか方法はない?」
「ありませんね。残念ですが」
「やれやれ」
またテリオン粒子汚染地位域を通らなければいけないのにグレース、ファティマ、ガーゴイルがうんざりした表情を浮かべる。
「では、作戦についてもっと具体的に。暗殺後の脱出はどうするの?」
「こちらで足を準備しますが、その前にある程度MAGの追跡部隊を排除していただく必要があります。こちらのカバーが剥げることをバーロウ大佐は望んでいません」
「分かった。どうにかしましょう。合流予定地点の設定を」
グレースが情報将校と話し合って詳細を決めていく。
「オーケー。これでいい。作戦を始めましょう。防護装備はあるのよね?」
「準備してあります。使用してください」
グレースの求めに情報将校が応じる。
「みんな着替えて。現地で着替えているような余裕はないから」
「了解です」
ファティマたちはグレースの指示で防護服を装備した。
「車両も準備してあります。ご武運を」
「ありがとう」
それからイービス・ロジスティクスが準備したトラックにファティマたちが乗り込み、古い弾薬庫を目指す。
「テリオン粒子汚染ってすぐには影響は出ませんよね……?」
「よほど高濃度ではない限りはと聞いている。急性テリオン粒子中毒だと即死に近いとも聞いているが」
「うへえ」
ガーゴイルが言うのにファティマが嫌な顔をした。
「おしゃべりしない。備えて」
グレースがそう注意し、トラックは廃棄された弾薬庫に入った。
弾薬庫だった基地に警備はおらず、無人であった。テリオン粒子汚染が深刻であるという理由ならば当然でもある。
「ウォッチャー、ファティマ。周辺を確認して」
「了解」
ファティマたちはグレースに指示されて偵察妖精を展開。
上空から周辺の状況を把握した。
「問題なしです、グレースさん」
「では、始めましょう」
グレースが先頭に立ち、ファティマたちは廃棄された弾薬庫の施設内に踏み込む。
この基地の図面は潜入部隊が入手してグレースたちに渡してあるため、迷うことなく、弾薬が取り除かれ、放棄された弾薬庫の内部を速やかに前進。
「テリオン粒子汚染が酷いぞ、ここ」
「そうね。だから、素早く済ませましょう」
エキドナが観測装置を見てそう言い、グレースが急かす。
「この先にバンカーへのトンネルがある。その前に扉を爆破しないといけないけど」
「俺がやろう」
「任せた、ガーゴイル」
グレースの指示にガーゴイルが前に出て、封鎖されている扉に爆薬をセット。
「やるぞ。3カウント」
3秒のカウントの後に扉が爆破されて開き、地下のトンネルに続く道ができる。
「オーケー。なるべく急いで進みましょう。防護服も完全には私たちの身を守ってはくれないのだから」
グレースはそう言って再び先頭に立って進んでいく。
「あった。このトンネルがインディア・フォー作戦基地に繋がっている」
ファティマたちの前に闇に閉ざされたトンネルが姿を見せた。
核戦争の際のシェルターともなるトンネルからは今は闇しかうかがえない。
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