報復//バーロウ大佐
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──報復//バーロウ大佐
次の日ファティマたちはバーロウ大佐に組織が立ち上がったことを知らせに向かった。出資者であるバーロウ大佐には説明する義務があるだろう。
「というわけで組織としてデモン・レギオンが立ち上がりました」
「そいつは結構だ。上手くやれよ」
ファティマが事情を説明したのにバーロウ大佐がそう返す。
「で、それでもまだ仕事を受ける気はあるか?」
「ええ。何か仕事が?」
「ある」
バーロウ大佐がそう言って仕事を提案する。
「例のMAGの精鋭部隊。ウィッチハント部隊のことは覚えてるか?」
「ええ。彼らが何か?」
「連中がうちの幹部のひとりを暗殺した」
「ありゃりゃ」
フォー・ホースメンの幹部のひとりがウィッチハント部隊によって暗殺された。バーロウ大佐は殺されたのは経理担当の兵站将校だったと語る。
「このまま暗殺を見過ごすわけにはいかない。俺たちに手を出せばそれなりに痛い目に遭うということを認識させる必要がある。分かるな?」
「報復として向こう側の幹部を暗殺するというところですか?」
「その通り。MAGの幹部を殺す」
目には目を。それが鉄則である。
「暗殺対象はMAGの将校などではない。そいつらをこき使っている経営幹部だ。将校はよく死ぬが少なくとも俺が知る限り、経営幹部の類が殺されたことはない」
「それはいいメッセージになりそうですが、経営幹部に手を出せるのですか?」
「ああ。こっちも情報を掴んでいる。ちょっとしたエデン社会主義党内の勢力争いが影響している。聞きたいか?」
「できれば」
バーロウ大佐の問いにファティマが頷く。
「エデン社会主義党はトロイカ体制を維持している。ここ数十年ずっとな。それについては知ってるよな。元々はエデンにいたのだから」
「ええ。エデン社会主義党書記長ドミトリー・アンドロポフ。エデン最高会議幹部会議長レナト・ファリナッチ。エデン閣僚会議議長アデル・ダルラン。この3名ですね」
「そうだ。その中でもドミトリーはMAGに強い繋がりがある。MAGの最高経営責任者はこいつの曾孫のソロモンだ。そしてMAGをデカくしたのはドミトリーの同志である国防大臣のギャスパー・ゼレール元帥」
ファティマが語るのをバーロウ大佐が補っていく。
「これに対して最近ジェリコのバックにレナトが付いた。そのおかげでジェリコが大きく躍進し、MAGから契約を奪って脅かしてる」
「MAGが成果を焦る理由にはなりますね」
「これだけじゃない。アデルは民間軍事会社頼りのゲヘナ統治に反対の意見を示し始め、MAGやジェリコの失態を追求し始めている。若手のアデルにとって長老のドミトリーとレナトは目の上のたんこぶだしな」
「アデルの背後には誰が? 何かしら保険がなければ消されますよ」
「国家保安委員会議長シー・ヤン上級大将。こいつがアデルを守ってる」
「秘密警察のトップがケツを持ってるわけですか」
「だから、アデルは好き放題できる。そして、これで不味くなったのはMAGとジェリコだ。連中は連日批判されてそれこそ成果を求めている」
ファティマが納得したところでバーロウ大佐がさらに状況を説明。
「で、MAGのソロモンに部下どもが急かされてゲヘナ軍政府と契約している部隊に発破をかけることになった。ウィッチハント部隊だけでなく、多くの人員と装備が動員されて、このゲヘナに派遣されている」
「それを監督しに経営幹部が?」
「ああ。間違いない。こっちが掴んだ情報だ。MAGに新設された第七事業部のダニエル・リステルという男がゲヘナに派遣された。俺たちはこいつを殺す」
バーロウ大佐から殺害目標が指示された。
「了解です。具体的な作戦についてお聞かせ願えますか?」
「この仕事にはバーゲスト・アサルトを動員する。グレースから話を聞け。あいつに任せている。上手くやれよ」
「はい」
バーロウ大佐にそう言われてファティマとサマエルはバーゲスト・アサルトとの合流のためにイーグル基地内を移動。ブリーフィングルームに入る。
「ああ。来たわね、ファティマ。歓迎する」
「どうもです。今回は暗殺ですね」
グレースがファティマを出迎え、ファティマが挨拶。
「そう、暗殺。しかし、誰が殺したかをはっきりと示さなければいけない暗殺になる。これは暗殺であるという以前に報復だから」
「ええ。フォー・ホースメンに手を出せばどうなるかを思い知らせるのですね」
誰が殺したか分からなくては報復にならない。間違いなくフォー・ホースメンの幹部をMAGが暗殺した結果としてMAGの経営幹部が報復に殺害されたということを示す必要があるのだ。
「作戦について説明するから席について」
「了解です」
グレースに促されてファティマとサマエルが席に着く。
「さて。皆が知っての通り、うちの幹部のひとりがMAGに暗殺された。ウィッチハント部隊によって。MAGはジェリコとの競争で優位に立つために戦果を求めているという情報に間違いはない」
グレースがこれまでの状況を軽く説明。
「このことへの報復のためにMAGの経営幹部を暗殺する。目標はダニエル・リステルという男。この男はMAGのテコ入れのために派遣されているのが確認された」
拡張現実にダニエル・リステルの情報が表示される。
「作戦を説明と言いたいところだけど、今のところ決定しているのはこちらが潜伏させている部隊と合流することだけよ。情報が足りないから何も決められない」
「相手は要人だ。警護は暗殺を阻止するためにスケジュールを変則的なものにして居場所を特定されないようにするだろう」
「その通りよ、ガーゴイル。まだこのダニエル・リステルのスケジュールは掴めていない。だから、作戦も立てられない。かなり柔軟に動く必要がある」
暗殺を避けるためにはスケジュールを予想されないことが重要だ。
ナチス・ドイツのヒトラーも暗殺を避けるために居場所を常に移動させていたし、イラクのフセインも似たようなことをしていた。
今回はMAGがその方法を取っている。
「そういうことで潜入部隊を合流して詳細は決定する。動員するのはガーゴイル、ウォッチャー、エキドナ、そしてファティマとサマエル。他は待機して。不味くなったらすぐ駆け付けられるように」
「了解」
そして、ファティマたちが動き始める。
「潜入部隊は合法的なゲヘナ企業に偽装した組織を利用している。イービス・ロジスティクスという会社。この会社を利用してゲヘナ軍政府支配地域で作戦行動を行う」
「そんな組織があるのですか。流石はフォー・ホースメン」
「この手の工作が特異なのは私たちよりグリゴリ戦線だけれどね」
ファティマたちはそう言ってゲヘナ軍政府支配地域へと向かう。
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