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反政府組織//アリス

……………………


 ──反政府組織//アリス



 客を殺したという娼婦はアリスと名乗った。


「そいつなら格安で譲ってやるよ。我がままで迷惑な女だからね」


「はん。あたしはあたしの信義を守っているだけだ」


 マニーラットがうんざりしたように言うのをアリスは鼻で笑った。


「この方でいいのではないですか? 私は気に入りました」


「本気か? まあ、客を殺すぐらいがちょうどいいのかもしれないが」


「ええ。やはりそれぐらい強い方である方がいいかと」


 ファティマはアリスのそれを我がままだとは思わず、彼女の強さだと見た。


「では、この方を引き抜きましょう。ジェーンさん、マニーラットさんとの具体的な取り決めはお任せしていいですか?」


「ああ。相談してくる。その女と話しておけ」


「はい。了解です」


 ジェーンは娼館レッドラインの主であるマニーラットとアリスの引き抜きについて話し合いに向かい、ファティマたちは別室に移動する。


「で、あんたらは新しい娼館でも始めるのかい、傭兵さん?」


「いえいえ。そのようなスケールの小さな事業ではありません。ゲヘナ軍政府を打倒し、さらにはエデンとエリュシオンの既存の支配層を打倒するための事業を始めるのですよ。それにお力添えいただきたい」


「何だって? あんたらグリゴリ戦線のイカレ野郎どもか?」


「それもまた違います。彼らとは協力関係にありますが、我々はデモン・レギオンという独立した組織です」


「聞いたことない」


「最近できたばかりですので」


 アリスが訝しむのにファティマがそう説明した。


「それで、あたしに何をさせるんだい?」


「ハニートラップってご存知ですよね?」


「ああ。娼婦の中にはその手の仕事(ビズ)に手を出している奴がいるよ。あたしはやったことはないけど」


「ふむ。それをやっていただきたいのですが。できそうです?」


 ファティマがアリスにそう尋ねる。


「できるか、できないかと言われれば払われる報酬次第だね。見合った見返りがあり、事前に決められた以上のことを求められないなら、あたしはプロとしてするべきことをちゃんとやり遂げるよ」


「心強いです。やはりあなたを選んでよかった」


「褒めても何も出ないよ」


 微笑むファティマにアリスはそっけない。


「だが、ある程度仕事(ビズ)についての説明が欲しいね。どのような情報を、どんな奴から引き出すのか。その手のブリーフィングはちゃんとやってくれ」


「もちろんです。指示します。ですが、報酬は弾みますのである程度は委任できませんか? 仕事(ビズ)の都合上、こちらからの指示が届かなくなる恐れもあります」


「そうだね。報酬次第ではやろう。あんたらがどういう組織で、どういう方法でゲヘナ軍政府やらエデン社会主義党をぶちのめすのか分かればやりやすいんだが」


「後でジェーンさんを交えて説明しますね」


「頼むよ」


 アリスが他に何の技術もなく体を売らなければならないという弱い女性ではなく、自らの体を武器にしている強い女性であることをファティマは感じた。


 いかなる分野でもプロは歓迎される。


「取引が終わった。お前はこれから私たちが雇うことになる、アリス」


「話はある程度そこの傭兵から聞いたけど、詳細を聞きたい」


「拠点に戻りながら説明しよう。来い」


 ジェーンが戻って来てアリスに言い、ファティマたちはタイパン四輪駆動車に戻る。


「まず私たちはゲヘナ軍政府、その上部組織エデン社会主義党を打倒することが目的だ。そのためにゲヘナに統一勢力を組織することを目標としていた。フォー・ホースメン、ソドム、グリゴリ戦線の団結だ」


「夢物語のように聞こえるね。フォー・ホースメンは軍人で現実を見てる。ソドムの連中は金だけを見てる。そしてグリゴリ戦線はジャンキーの幻覚を見てる」


「これまではそうだった。だが、ファティマがその3つの勢力を繋ぎつつある」


「本当か?」


「ああ。そうだな、ファティマ?」


 ジェーンがそうファティマに話を振る。


「ええ。ある程度の繋がりはあります。フォー・ホースメンは私たちを支援してくれると約束してくれていますし、ソドムの方々とは懇意に。グリゴリ戦線とは共通の目標をいだいています」


「ふむ。そいつは大したものだが、そこまでの人間となると噂やらで知ってそうなものなんだが」


「どうやら私は世間でエクスキューショナーと呼ばれているそうです。こちらの方を聞いたことは?」


「エクスキューショナー? 最近噂の傭兵か?」


「私は傭兵で世間ではエクスキューショナーなんて名前が付いている。それだけです」


 アリスが驚いたように尋ねるのにファティマは淡泊に返すのみ。


「相当な凄腕の傭兵だと聞いていたが女だったとはね。派手に相手を殺すらしいね?」


「そんなことはないですよ。私は殺しを楽しみませんから」


「だといいけどね。猟奇殺人鬼とは一緒に仕事(ビズ)をやりたくはない」


 ファティマが述べるのにアリスはそう言った。


「そういうことでゲヘナの各勢力を反エデン・エリュシオンで団結させ、反旗を翻す。そのための情報収集をお前には任せたい」


「ハニートラップだと聞いてるけど相手は?」


「こちらで調査した人間に接近してほしい。お前には新しいIDを準備するので、そのIDでゲヘナ軍政府の高官とどうにか接点を持つんだ」


「簡単に言ってくれるね」


「報酬は払う。十二分に」


「なら異論はないよ。やろう」


 ジェーンの提案にアリスは即答した。


「しかし、どんな人間に近づくんだい? ハニートラップを仕掛けるなら誰でもいいというわけにはいかないよ。娼婦と寝る類の人種は限られる。この腐ったゲヘナでもね」


「ああ。ちゃんと調べておく。まず得たい情報は薬物密売の取り締まりに関する情報だ。そこから薬物密売の取り締りの穴を探す。こちらがソドムに頼らず薬物密売ができる状況を作るために」


「分かった。けど、あたしはドラッグは使わないよ」


「もちろんだ。そうしてくれ。ジャンキーはプロじゃない。一部の例外を除いて」


 アリスの言葉にジェーンが当然だとそう言う。


「これで収入を得るための事業と諜報の体制が整いましたね」


「これでまず一歩と言ったところか」


 ファティマが感想を述べるのにジェーンが頷く。


「これから本格的に反エデン・エリュシオン勢力として動くわけです。頑張りましょうね、ジェーンさん、アリスさん、キャスパリーグさん、そして何よりサマエルちゃん!」


「うん。頑張ろうね、お姉さん」


 反政府勢力デモン・レギオンが産声を上げた。


……………………

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