反政府組織//ドラッグコネクション
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──反政府組織//ドラッグコネクション
「そいつはソドムに相談しなければならないな」
ジェーン・スミスはファティマたちから薬物製造のための原材料を確保することについて相談を受けて、こう答えた。
「ソドムにですか?」
「ああ。どうせソドムを頼らなければゲヘナ軍政府に薬物は売れない」
「ですね。では、彼らを頼るとしましょう。いつ相談します?」
「善は急げだ。すぐに連絡する」
ファティマの問いにジェーンがそう答えると早速彼女は連絡を取った。
「エルダーが会ってくれるそうだ。行こう」
「了解」
ジェーンが告げ、ファティマたちがタイパン四輪駆動車でソドムの拠点を目指す。
「ようこそ、ファティマさんたち。あなた方から仕事の提案があるとは思いませんでしたが、喜ばしく思いますよ」
エルダーがファティマたちをそう言って出迎えた。
「それはこちらとしてもありがたいです。既にこちらが提案している仕事の内容については御存知ですか?」
「ええ。薬物の密売ですね。そのための原材料と密売ルートが欲しいと」
「そうなります。そちらとしての提案する条件をお聞きしたいのですが」
エルダーの言葉にファティマが尋ねる。
「一定額の上納金を納めてもらえばこちらとしても面子が立ちます。それからこちらの密売ルートを敵に漏らすようなことがなければ文句はありません」
「当然の条件ですね。ですが、それだけですか?」
「ファティマさん。我々はあなたと取引しているのです。あなたはこれまで我々の仕事を達成してくれた。困難な仕事もです。そのことに私たちは感謝しているのですよ」
ファティマが首を傾げるがエルダーは苦笑いを浮かべてそう言う。
「それはありがたいですね。では、その条件でお願いしたいです。金額についてはジェーンさんと相談していただけますか。私が財布を預かっているわけではないので」
「ほう。そう言えば新しい組織なのですよね。どのような名前で?」
「デモン・レギオン。この名です」
「では、これからも良き取引が行えることを祈ります」
そう言ってエルダーはジェーンと取引の詳細を詰め始める。
ファティマたちは取引のための商談が終わるのを待ち、部屋の外で待機していた。
「お? お姉ちゃん! 何しに来たの? 遊びに来た?」
そこでイニェチェリ大隊の兵士を数名連れたデフネが姿を見せる。
「いいえ。仕事ですよ。新しい組織を立ち上げたのでその組織のための収益になる事業を立ち上げるんです。ソドムにはその事業への業務提携をしていただければと思いまして」
「へえ。じゃあ、エルダーお兄ちゃんと?」
「そうです」
「事業って具体的には何をするの?」
「薬物の密売ですよ」
「ふうん」
ファティマの言葉にデフネが首を傾げた。
「お姉ちゃんならさ。そんなことしなくても傭兵として稼げるんじゃないの?」
「それだと頼れるのが私だけになってしまいますから。それに傭兵の仕事だっていつもあるわけではないでしょう?」
「まあ、最近でこそ仕事は多いけど確かに不安定な職ではあるね」
ファティマの指摘をデフネはそう受け入れる。
「でも、お姉ちゃんが稼ぎたいならいつでも仕事を回すよ! 戦争がないなら起こせばいいだけだからね!」
「それはちょっと困るので」
デフネの申し出にファティマは苦笑い。
「ファティマ。商談がまとまった。帰るぞ」
「はい。では、またですね、デフネさん」
ジェーンが部屋から出てきてファティマたちは彼女と拠点に戻る。
「これからソドムが薬物密売に業務提携してくれる。こちらが提供するのは人材と機材による商品の生産と実際の販売、そして上納金。ソドムは原材料と密売ルートを提供してくれることになった」
「文句なしのようですが、問題は?」
「密売について全てをソドムに任せるのはよくない。こっちとしてもある程度情報を得ておきたい。そうでないとソドムの機嫌を損ねただけで全てがパーになる」
「それは確かに。我々が提供するものは向こうは代わりを見つけられますが、こちらは向こうの代わりを見つけられないのはちょっと、ですね」
「ああ。だから、並行してゲヘナ軍政府に情報戦を仕掛ける」
「情報戦ですか? それはまた難しそうなことを」
ジェーンの提言にファティマが渋い表情を浮かべた。
「そう難しいことじゃない。ことゲヘナ軍政府を相手にしたものはな。汚職軍人だらけで憲兵もまともに機能してないんだ。こういう連中にとっておきの方法がある」
「なんですか?」
「ハニートラップだ」
「ああ」
ファティマがジェーンの言葉に頷く。
「しかし、そのためには必要な人材をまたリクルートしなければ。そう、魅力があってその手の技術を有する人間です。私は無理ですからね」
「分かってる。丁度いいコネがある。ソドムで性風俗産業があるのは知ってるな?」
「それはまあ。知ってますけど」
「ってことは、だ。そこにはまさにうってつけの専門家がいるということだ」
ジェーンは性風俗産業で働いている人材を雇おうと言っている。
「しかし、それは下手に引き抜くとソドムの機嫌を損ねるのでは?」
「慎重にやる。それにソドムだって全ての娼婦と男娼を把握しているわけじゃない」
「ソドムに把握されないような人材が使えるのですか?」
「使い物になるかどうかはこっちの腕次第だ。行くぞ」
「もうですか?」
「ああ。急いで体制を整えたい」
「はいはい」
ジェーンに連れられてファティマたちは再びソドム支配地域へ。
「どこに心当たりがあるんですか?」
「こっちだ。私も無駄にゲヘナで過ごしていたわけじゃない」
ジェーンの案内でファティマたちはソドムの繁華街を進む。
「相変わらず酷い場所です」
「男たちと物好きな女は喜ぶんだがな」
半裸の女性と男性が客を誘うソドムの繁華街でファティマが眉をしかめ、ジェーンは肩をすくめてそう返す。
「この店だ。レッドラインって店」
「知り合いがいるんですか?」
「ああ」
ジェーンは古い洋風建築の建物に入り、そこにあるカウンターに向かった。カウンターにはアジア系の老女があまり歓迎するようではない表情でファティマたちを迎える。
「よう、マニーラット。仕事の話がしたい」
「いつから女を買うようになったんだい、ジェーン?」
ジェーンが老女に話しかけるのに老女マニーラットがジェーンにそう返す。
「買うには買うが、買い切りたい。こっちで雇いたいんだ。引き抜いてもいい人間を教えてほしい。金は十分に払う」
「ふうん? あんたもこの業界に入ろうってのかい?」
「ちょっと違うな。専門家が必要なだけだ」
「そうかい。じゃあ、少し待ってな」
老女はジェーンにそう言うとZEUSで部下にメッセージを送信。
「こっちに」
それから老女に案内されて娼館の一室にファティマたちが入った。
「ここにいる人間なら引き抜いてもいいよ」
老女が示す中には14歳ごろの少女から40過ぎの中年女性まで様々な女性がいた。
「ファティマ。お前が選ぶか?」
「そうですね。この方は美人だと思うのですが、どうして引き抜いていいと?」
女性たちはそれぞれ癖のある顔立ちや体形をしていたが、ひとりだけ文句なしに美人だと断言できる人物がいた。スタイルも良く、どうしてファティマはこの女性をマニーラットが手放すのか分からなかった。
「そいつは客を殺したんだよ。困ったものさ」
「なるほど。それは確かに放流する理由にはなりますね」
ファティマはマニーラットの言葉に納得した。
「しかし、まさかあなたに男を殺して楽しむ猟奇的な趣味があるとかいうわけじゃないですよね?」
そこでファティマは女性にそう尋ねる。
「失礼な奴だね。そんな趣味はないよ」
「失礼。では、どうして?」
「契約外のことを男がやろうとしたから。あんた、傭兵だろ? その強化外骨格からして」
「ええ。そんなところです」
「だったら分かるだろ。あんたは本来の契約以上のことをやって金にならなくても死ねって言われて死ぬかい?」
「それはお断りしますね」
「それと同じことをしただけ。男の方が無理やりやろうとしたから殺した」
「筋は通っています。お名前を伺っても?」
ファティマがそう頷いてから尋ねる。
「アリス。それだけだ」
女性はそう言った。
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