反政府勢力//交渉
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──反政府勢力//交渉
ジェーン・スミスが接触してきたのはグリゴリ戦線の仕事が終わってから数日後のことだった。
「そろそろ動く必要があるな」
「動く必要、ですか?」
「ああ。分かってるだろう。私たちの目的はゲヘナに反エデン・エリュシオンの統一勢力を作ることだ。いつまでも各勢力のお使いをすることじゃない」
「それはそうですね。しかし、今から組織を?」
「もうそれができるだけのコネも力もあるだろ?」
「まあ、それなりには」
ジェーンの指摘にファティマがあいまいに頷く。
「じゃあ、最初にやるべきことは家主の許可をとることだな。ここは私たちの縄張りじゃない。フォー・ホースメンの縄張りだ」
「バーロウ大佐の許可が必要ですね」
勝手にフォー・ホースメンの支配地域で独自の組織を立ち上げれば反感を買う。許可を取るべきだろう。
「じゃあ、イーグル基地に行きますか」
「ああ。送るぞ」
ファティマたちはまずフォー・ホースメンの指導者バーロウ大佐の許可をもらうべく、イーグル基地へと向かった。
イーグル基地に入り、バーロウ大佐の執務室に通される。
「おう。ファティマとジェーンか。何の用事だ? 仕事はないぞ」
「今日は仕事を貰いに来たわけではないのです。許可をいただきたくて参りました」
「許可、ねえ。話を聞こうか」
バーロウ大佐が葉巻を咥えてそう尋ねる。
「前にお話ししていたように反エデン・エリュシオンの勢力を立ち上げます。フォー・ホースメン支配地域でそれを立ち上げることの許可をいただきたいのです」
「なるほど。そう言えばそういう話をしていたな」
ファティマの言葉にバーロウ大佐が頷く。
「だが、実際問題としてどこまでやるつもりだ? 本気でやる話を聞きたい」
バーロウ大佐は真剣な表情でそう尋ねた。
「ゲヘナ軍政府の撃滅。エデン社会主義党の打倒と新政権の樹立。そしてエリュシオンもぶっ潰しますよ。これは冗談などではなく至って本気です」
ファティマも真剣な表情でそう返す。
「なるほどね。本気か」
バーロウ大佐はゆっくりと葉巻を吹かした。
「バーゲスト・アサルトの連中はお前は出来る奴だと言っている。連中は滅多にそんな評価はしない。本当にその評価に値する人間だけにそう言う。だから、俺もその評価を信じるつもりだ」
「では?」
「待て。評価はするが、お前がゲヘナ軍政府とエデン社会主義党をぶっ潰したところで俺がどう得をするのかって話だ」
ファティマをバーロウ大佐が制してそう続ける。
「これは一種の投資だ。俺がお前に投資した分、投資家にリターンが欲しい。それを約束してくれるならば俺たちの縄張りで活動してもいい。どうだ、この話? 悪い話じゃあないだろう?」
「確かに筋が通っています。リターンは約束しましょう」
「結構だ。縄張り内で活動するだけで十分なのか?」
ファティマが頷き、バーロウ大佐が続けて尋ねる。
「できれば建物を借りたい。拠点として利用できる建物だ」
そう言うのはファティマではなくジェーン。
「いいだろう。ひとつ建物を与えてやる。ヘリポートやバンカーがある建物だ。ただし旧世界のそれだぞ。それでいいか?」
「十分だ。感謝する、大佐」
「ことを起こすときは伝えろ。お前らの企てとやらに参加してやるよ」
バーロウ大佐はそう言って二ッと笑った。
「それでは失礼します。ありがとうございました、バーロウ大佐」
「ああ。建物の住所は送っておいた。向かってみろ。改装が必要ならこっちから工兵を出してやるよ」
「お世話になります」
ファティマは丁寧にバーロウ大佐に礼を述べて退室する。
「早速向かいましょうか?」
「そうだな。見てみよう」
ファティマが尋ねるのにジェーンが頷く。
「住みやすい場所だといいですね、サマエルちゃん」
「ボクはお姉さんさえいてくれれば……」
サマエルはそう言葉を濁した。
それからファティマたちはバーロウ大佐に指示された住所に向かう。
「おお。ここですか?」
指定された住所には立派なビルがあった。
しかもただのビルではない。周辺には鉄条網を備えた塀があり、屋上にはヘリポート。建物そのものも頑丈な鉄筋コンクリートの建築物だった。
「あんたらがバーロウ大佐から連絡があった人間か?」
「ええ。その通りです」
そこでそのビルを警備していたフォー・ホースメンの兵士が寄ってくる。
「生体認証を」
「どうぞ」
「確認した。あんたらで間違いなさそうだ。バーロウ大佐からカギを預かっている。あんたらに渡しておけと。一応内部の説明をした方がいいか?」
「できればお願いしたいのですが」
「分かった。来い」
フォー・ホースメンの兵士がファティマたちをビルに案内する。
「まずエントランスだ。リモートタレットが設置してある。制御はこのビルの警備システムを管制している妖精が人間の指示で行う。命令しない限り発砲はしない」
エントランスはオフィスビルの受付カウンターが設置されているだけの殺風景なもので椅子が数個置いてある以外何もない。
これはこれでいろいろと設置できるなとファティマは思った。
「そしてここから地下のバンカーに降りられる。行くぞ」
フォー・ホースメンの兵士が地下室への扉を開く。
金属製の扉を開くと軍艦の隔壁のような扉が現れ、それもまたフォー・ホースメンの兵士が開いていった。
「ここがバンカーだ。核攻撃にも耐えられる構造だが、食い物と水は運び込んでおかないとその手のものは一切ない」
「ふむふむ」
「それからここに警備システムの端末がある。これだ」
そう言ってフォー・ホースメンの兵士はサーバーを指し示す。妖精はこの中にAI代わりに搭載されているのだ。
「警備プロトコルは自分でセットアップしてくれ。そこまで面倒は見れない」
「了解です。ここには他に何か?」
「非常用発電機と屋上のアンテナに繋がっている通信機器。非常用発電機は燃料がないと動かないからな。そして、今はここに燃料もストックされてない」
「いろいろと必要なものがありますね」
非常食や燃料。必要なものはいろいろとある。買っておく必要があるだろう。
「地下はこれぐらいで他は特に重要なものはない。上は空き部屋がたくさんで警備ボットが2台ある。旧式だがな。屋上のヘリポートにはハミングバード汎用輸送機なら自由に離着陸できる」
「分かりました。どうもありがとうございます」
「ああ。じゃあな」
ファティマがお礼を述べフォー・ホースメンの兵士は去った。
「さて。拠点があっさりと手に入りました。必要なものを買いそろえましょう」
「そうだね。お姉さんが暮らしやすいようにしないと」
「では、市場に行きましょう!」
そうしてファティマたちは市場に繰り出し、いろいろな品を購入した。
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