大混乱//勝利
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──大混乱//勝利
グリゴリ戦線の大規模な歩兵部隊が押し寄せ、ジェリコの装甲部隊は身動きが取れない。ジェリコは航空戦力も、砲兵戦力もファティマたちの攻撃によって失っており、今の彼らを支援するものは何もなかった。
「戦え! ゲヘナ軍政府の犬を殺せ!」
「傭兵どもに死を!」
グリゴリ戦線の兵士たちは熱狂の中で突撃を続ける。
その頃、ファティマたちはテクニカルでジェリコの側面に回り込んでいた。
「正面攻撃は無事に成功し、ジェリコの部隊を拘束しています。今のうちに我々は奇襲を仕掛け打撃を与えます」
「やりましょう。敵戦力の撃滅が目的ですね?」
「その通りです。生かして帰しません」
ファティマが確認するのにシシーリアがそう返す。
「攻撃開始、攻撃開始!」
テクニカルが一斉に走り出し、ジェリコの側面に突撃。
「撃て、撃て! 装甲目標から優先して排除しろ!」
「叩きのめせ!」
無反動砲を乗せたテクニカルがジェリコの装甲戦闘車両を攻撃し、アクティブ防護システムを飽和させて撃破していく。
「“赤竜”!」
ファティマも“赤竜”を展開させて次々にジェリコの装甲戦闘車両を撃破。ジェリコが装備するARM74戦車やバルバロイ歩兵戦闘車が撃破されて爆発炎上する。
「撤退だ! 撤退するぞ! 逃げろ!」
「やってられるか、こんなもの!」
そこでジェリコの士気が決壊した。
ジェリコのコントラクターたちは武器を捨て、友軍を見捨てて逃走を図る。
「逃がさないでください! 敵はここで殲滅します!」
「了解!」
シシーリアの命令が飛び、逃げるジェリコの部隊がテクニカルに追撃された。
テクニカルが後方から大口径ライフル弾や機関砲弾、対戦車榴弾を叩き込み、ジェリコの敗残兵たちが殺されていく。
「支援はないのか!? このままじゃ全滅だぞ!」
「支援はない! 死にたくなければ戦え!」
挟み撃ちにされたジェリコの抵抗は徐々に弱いものとなり、部隊は急速に壊滅していった。だが、ジェリコのコントラクターは降伏して捕虜になろうとはしない。グリゴリ戦線の捕虜になるということの意味が分かっているのだ。
「おっと。今の爆発は」
「敵が自爆したようです。捕虜になるつもりはないということでしょう」
「なんとまあ」
そう、捕虜になればグリゴリ戦線によって拷問され、残酷に処刑されるということを彼らは知っている。だから、捕虜になるよりも死を選んだ。
そのままジェリコは殲滅されていき、ついに壊滅した。
戦場にはあまりに多くのコントラクターの死体と破壊された装甲戦闘車両の残骸が転がっている。人間の焼ける臭いと硝煙の臭いが周囲に濃く立ち込めていた。
「なんとかなりましたね」
「ええ。勝利です」
ファティマが言うのにシシーリアが頷く。
「勝利だ!」
「グリゴリ戦線万歳! シシーリア様万歳!」
グリゴリ戦線も勝利を祝うが彼らもあまりにも大きな損害を出していた。2万人以上の兵士をこの戦いで失ったと思われる。
「よかったのですか? かなりの損害のようですが……」
「正面攻撃を行った部隊は二線級の部隊です。そして、さらには私たちに電子励起爆薬を準備したものと合議制派閥に所属していると睨んだ人員が組み込まれていました」
「なるほど。体のいい粛清というわけですか」
「今回は彼らのせいで作戦は失敗しかけたのです。当然といえるでしょう」
グリゴリ戦線内にいた合議制派閥の勢力はこの戦いですり潰された。敵の装甲部隊に自動小銃だけで突撃させられ、そして全滅したのだ。
もはや合議制派閥はシシーリアの脅威にならない。
「俺たちの勝利だぞ!」
「やってやった!」
グリゴリ戦線は勝利のムードに包まれたまま。
「この勝利で私の支持基盤はより強固になります。これからも私の指導体制が続くことでしょう。これ以上内輪もめをやっている暇はないのです」
「そう願いたいですね。いざゲヘナ軍政府やエデン社会主義党を打倒する際には協力していただきたいので」
「もちろん協力しますよ。任せてください」
ファティマの言葉にシシーリアが笑顔で返す。
「シシーリア。拠点に戻りましょう。ジェリコの報復の可能性があります」
「分かりました。この奪還した地域の確保をお願いします」
「ええ」
イズラエルがシシーリアの指示に頷く。
「一度拠点へ」
「はい」
ファティマたちは一度グリゴリ戦線の拠点へと戻る。
「今回の報酬です。受け取ってください」
「確かに」
まずシシーリアからファティマに報酬が支払われた。
「次の仕事の話となりますが、暫くは仕事はないと思われます。今回の損害の件でジェリコは及び腰になったでしょう。ゲヘナ軍政府もジェリコが動かないのでは動けません」
「ふむ。傭兵としては稼ぎ時を失うことになりますが同盟者としてはありがたい話ですね。あなた方も大きな損害を出しているようですし」
「ええ。そう思っていただけると助かります。これから再び兵士たちをリクルートして、訓練し、戦列に組み込まなければなりません」
「問題なさそうですか?」
「この戦いでゲヘナに暮らす大勢の市民が生活の基盤を失いました。彼らはグリゴリ戦線に兵士として加わるか、飢えて死ぬかです」
「なるほど」
グリゴリ戦線は外敵から攻撃を受ければ受けるほどその勢力が増大するわけだ。
「また今回の戦いで多くのジェリコの装備を鹵獲できました。それで足りなければソドムから購入します。そのための資金はありますから」
「何よりです。我々はまだ戦わなければならないのですから」
まだゲヘナ軍政府を打倒できていない。ゲヘナ軍政府が倒れなければエデン社会主義党を倒すことなど不可能だ。
「これからも我々の同盟が続きますことを。傭兵としても、同盟者としても私はあなたを信頼しています。もう一歩踏み込めればよりいいと思うのですが」
「あいにくですが今はそのつもりはありません。まだ私たちは戦友ということで十分ではないですか?」
「残念です」
シシーリアがファティマを手に入れようとしているのは明白である。
「では、これで失礼します」
ファティマとサマエルはフォー・ホースメン支配地域に戻った。
「疲れましたね。いろいろとあって」
「うん。少しゆっくりしたいよ」
「お腹も減りました。食事をして休みましょう」
「だね」
ファティマとサマエルは食事に向かい、ふたりでゆっくりとした時間を過ごした。
ファティマたちはこれでフォー・ホースメン、ソドム、グリゴリ戦線というゲヘナを支配する各勢力との確かな繋がりができたのだった。
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