大混乱//敵地後方
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──大混乱//敵地後方
「よいっしょっと!」
ファティマたちは墜落したハミングバード汎用輸送機から這い出した。
「無事なのは私たちだけのようです」
「4名ですか」
生き残ったのはファティマ、サマエル、シシーリア、そしてインナーサークルのクラウディアの4名だけ。他のインナーサークルの構成員は全滅している。
「ここから離れた方がいいですよ。ジェリコは爆発を見て緊急即応部隊の類を動かして周辺を探るはずですから」
「そうですね。離れましょう」
ファティマが装備を整えてそう提言し、シシーリアが頷く。
そして彼女たちは敵地を自分たちの支配地域に向けて撤退を始めた。
「しかし、どうして電子励起爆薬がいきなり爆発を……?」
「嵌められましたね。合議制の派閥が私の暗殺を目論んだのでしょう」
「そこまでの対立になっているのですか?」
「人は厳しい状況になると対策ではなく、魔女狩りを始めるのものです」
ファティマが意外に思って尋ねるのにシシーリアがうんざりしたようにそう返す。
「それは困ったものです。友軍との通信は避けた方がいいですか?」
「いいえ。合議制派閥が握っている兵士は多くありません。大多数はこちらについています。問題はないでしょう。ただし、ここではジェリコに傍受される危険はありますが」
「そうですね。敵地では迂闊な通信も命取りになります。慎重に行きましょう」
シシーリアの警告でファティマはZEUSを始めとする通信装備を受信に限定した。
「位置については座標と地図から分かりますが、ここら辺の地形はさっぱりですね。そちらはどうですか?」
「こちらもこの付近での作戦の経験はありません。残念ですが」
「では、偵察妖精を飛ばしましょう」
ファティマはシシーリアにそう言って戦術級偵察妖精を展開。
上空に飛び立った偵察妖精が上空からの画像情報をファティマに送信する。
「幸運なことにここら辺をジェリコも完全に把握しているわけではなさそうです。部隊がいない無人の廃墟がかなり広がっています。そこから逃げましょう」
「了解」
ファティマが映像を確認して先導し、シシーリアたちが続く。
彼女たちは廃墟に入り、監視装置やブービートラップに警戒しながら進む。
「ここで怖いのは野犬ですね。この手の廃墟に住み着いて死体やゴミを漁って生きています。狂犬病を媒介しているほか、テリオン粒子によって汚染されているのです」
「それは面倒ですね。避けなければ」
野犬は旧世界から残る住民だ。狂犬病を媒介するほか、彼らもまたテリオン粒子による健康被害を受けている。
「もうひとつ怖いのは敵のドローンの類ですね。航空機による目を避けるために可能な限り地下か廃墟の中を移動しましょう」
ファティマはそう言って進めそうな廃墟を選び、その中を進んだ。
『こちらハルバード・ゼロ・ワンよりキロ本部。ブラボー・ツー・ワン航空基地は壊滅している。航空支援は当面不可能と思われる』
『キロ本部、了解。砲兵が支援する』
そこでサマエルが傍受したジェリコの通信が聞こえて来た。
「航空基地は無事に機能不全になったようですが、砲兵がその代わりになっているようですね。せっかくなので帰りの駄賃に砲兵を叩いていきませんか?」
「本気ですか?」
「その方が友軍との合流がスムーズになるかと。いずれ私たちを追跡する部隊が送り込まれます。その際に友軍と一緒にいなければ不味いですよ」
「それはそうですね。そうしましょう」
「では」
ファティマたちは砲兵陣地を叩くことを決めた。
「サマエルちゃん。砲兵陣地を特定できますか?」
「うん。できるよ。今、ドローンと偵察衛星から映像を持ってきた」
「ありがとうございます」
サマエルが傍受した画像情報がファティマのZEUSに送られてくる。
「この陣地ですね。かなり大規模な砲兵陣地です」
「叩けそうですか?」
「お任せあれ」
ファティマたちは敵地後方の砲兵陣地へと接近していく。
「見えてきました。砲兵陣地ですよ。これは強力な支援になっていそうです」
「ええ。航空支援が喪失した分の火力支援を担当しているのでしょう」
「敵の地上部隊も進軍しているのですよね?」
「そうです。友軍が食い止めていましたが、これだけの砲兵を相手にしては……」
砲兵陣地には榴弾砲はもちろん自走多連装ロケット砲なども展開しており、大量の火力を指定された場所へと叩き込んでいる。
通常砲兵陣地は対砲迫射撃を避けるために移動するものだが、ジェリコの砲兵はそのようなものは全く想定していないようで陣地を固定したまま砲撃を続けていた。
「どうやら周辺の警備はそこまで厳重ではないようです」
「奇襲しますか?」
「そうしなければ大事になってしまいますね。ですが、結局は派手になるのですから私が陽動を担当しましょう。私が南側から仕掛けるので、そちらは北から潜入し、砲兵陣地にある弾薬庫を爆破してもらえますか?」
「了解です」
ファティマの提示した作戦にシシーリアが同意。
「お姉さん。上空にいるドローンを使えるよ」
「攻撃は可能ですか?」
「うん」
「では、タイミングよく砲兵陣地を爆撃してください。お願いします」
「分かったよ」
「では、始めましょう」
そしてファティマたちが作戦を開始。
ファティマは大きく南に回り込み、そこから砲兵陣地に近づく。
「今です、サマエルちゃん」
「うん!」
サマエルが上空にいたファントム無人攻撃機の制御権限を上書きしてジェリコの砲兵陣地を攻撃した。
航空爆弾が投下され、砲兵陣地にあった自走多連装ロケット砲が誘爆を起こす。
『こちらキロ本部! 友軍ドローンの攻撃を受けた! 友軍誤射だ! 警告を出せ!』
砲兵の司令部が混乱を起こし、慌てた通信が飛び交う。
「サマエルちゃん。通信妨害をお願いします」
「分かったよ」
その通信をサマエルが妨害。
「これでよしです。仕掛けましょう! “赤竜”!」
ファティマは“赤竜”を展開して一気に砲兵陣地に突入した。
「クソ。通信が繋がらないぞ。どうなっている?」
「おい! あれは誰だ!?」
ジェリコの守備隊が接近するファティマに気づいた。TYPE300装甲兵員輸送車などで武装した機械化歩兵部隊だ。
「クラウンシールドを集中させ──」
「敵だ! 撃て、撃て!」
射撃がファティマに叩き込まれるがファティマはひるまずクラウンシールドを前方に集中させていく。
「──シールドインパクト!」
そして熱波と衝撃波がジェリコの守備隊と砲兵を襲った。
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