商人編3
「商人がなんで、同行を?」
男冒険者はパンに野菜と肉を挟んだシンプルなものを齧りながら、質問をしてくる。
「同行して、知見を広げているの」
ミルカが答えると、「ふぅ~ん」と呟きながら、空を見上げている。
「あんた、今2人の興味なくしたでしょ?それより、あなたたちって魔法が使えるかと思ってたけど、使わないの?」
女冒険者がなにを思ったのか、想像もしていなかった質問をしてくる。俺の知識だと魔法というのは火や水をなにもないところから生み出したり、さっきの戦闘のように他の人を補助したりなど、魔道具を使わなくても呪文の詠唱でできてしまう技術を指す。技術の一種である為、一般的な街の住人のほとんどは魔法が使えない。使えるものなら使ってみたいと思うのが一般人の考えではないだろうか。
女冒険者の質問に対してミルカが少し考えて答える。
「あなたのギフトでなにか分かるのかしら?」
「――ちょっとね」
ギフトというのは誰にでも1つは持っている個性の一種とされている。分かりやすいものから、気づきにくいものまで様々あり、職業と合致しているとその界隈で名を残すことが多々ある。相性のいいギフト持ちの天才に対しては、どう頑張っても秀才では勝てないのが常識となっている。状況によっては弱点になることもある為、一般的にギフトの詮索はタブー視されている。俺の親父みたいに人の頭の上に丸が見えるだけのギフトってのもある。「小さな子供がカウンターに隠れていても気づける」と、親父は笑いながら教えてくれた。
ミルカは女冒険者のギフトが魔法が使えるかの有無が分かるものと予想したようだ。
「あいつも寝ちゃったし、ちょっと魔法を教えてあげようか?」
「ぜひ、お願いします!」
予想もしていなかった申し出だったが、俺は食い気味に返事をしてしまった。それをみて、女冒険者とミルカは笑顔で俺の顔をみた。
「それじゃ、体の話からしますね。」
女冒険者が話し始めると、俺は前傾姿勢をとった。ミルカはそんな俺をみてちょっとクスっとしていた。
「心臓という臓器が血液を体中に送っているの。これと同じように魔臓という臓器が血液を通して体中に魔力を流していると言われているわ」
心臓に魔臓……聞きなれない単語だが、とりあえずどちらも体中になにかを流しているものだと解釈した。
「それじゃ、まず体に流れている何かを感じるところからいきましょうか。自分が落ち着ける姿勢をとって」
女冒険者は仰向けに倒れて目を閉じた。
俺とミルカも同じような姿勢をとり、目を閉じる。なにかドクドクと一定のリズムで動いているものを感じる。
「なにか感じた?」
「なにかドクドクしている」
「それは血液ね。そこから更に小さいものの流れは感じない?」
小さいもの?これ以上はなにも感じない。集中しているとミルカが手を掴んできた。俺は驚きミルカの方をみると、ニコっと笑顔を向けたあと、再び目を閉じた。
ミルカの手からなにかが流れてくるのを感じる。それが体中を巡っていくのを感じる。それは紛れもなく、さっきのリズムとは違う動きをしたサラサラしているものだった。
「――なにかサラサラしたものが体中を巡っているのを感じる」
「なにか感じるわね」
ミルカは不安そうな俺とは違いハッキリと答える。なにか安心した表情をみせ、ミルカは手を離した。
「やっぱり、あなたたち才能あるわ」
女冒険者は嬉しそうな表情をつくる。
「それじゃその体中を巡っているものを……そうね、人差し指にとどめるか、集めてみて」
とどめる?集める?流れを止めればいいのか?
人差し指に集める為、その先で流れを遮る栓をイメージしてみた。サラサラしたものは細かすぎるのか全てを止められないが、一部だけ集まっているのを感じた。
「少しだけだが、できてる気がする」
「私もよ」
ミルカはどうも俺より自信がありそうだ。表情も特に苦戦したように感じられなかった。
「――すごいわ。本当に初めて?」
「初めてだよ。魔法の知識なんて聞いたこともなかった」
「そうね――それじゃその状態で岩を人差し指で押してみて。徐々に力を入れていけばいいから」
言われたように、俺とミルカは人差し指を岩につけ、徐々に力を入れた。力を少しずつ加えていくと、手首に若干の痛みを感じた。
「そこまで!どこか痛みはある?」
「大丈夫だけど、手首がちょっと痛い……」
「うまくいってるようね」
俺は力を緩め、首を傾げながら手首をさすった。
「普通は手首より、先に指が痛くなるものなのよ」
なるほどと思いつつも、これがどういった意味を持つのかがいまいちピンときていなかった。
「これは身体強化っていわれる魔法よ。あと強化した部分の再生力もあがるから、冒険者の中では基本の技術といわれているわ」
『体が強化でき、更に再生力が増す』そう言われると冒険者で重要な技術というのは妙に納得できた。ただ、いくつか疑問が浮かんだ。
「冒険者の基本ってことは魔法ってみんな使えるものなのか?」
「みんなって訳ではないけど、この程度ならほとんどの冒険者が使っているわね」
街の中にいても、元冒険者の職人はタフだと思うことはあった。元々鍛えていたからというのもあるかもしれないが、こういった技術による部分も大きそうだなと感じた。
俺は再び気になることを尋ねた。
「再生力があがるなら、冒険者はポーションがいらないんじゃないか」
「確かに、再生力が高くてポーションを持たない人はいるわ。ただ、身体強化とポーションを合わせることで更に再生力をあげられるの。だから、大きなケガをした時の為に数本常備しておくのよ」
こういったやり取りをしつつ、1時間ほど魔法を教えてもらった。
――――
俺たち2人は小さな火を出せるようになっていた。
いつの間にか起きていた男冒険者が目をこすりながら、女冒険者と話をしている。
「なんだあいつら、やっぱり魔法使えたんだな」
「いえ、この1時間くらいで、あそこまで成長したのよ」
「――そうなのか?何かのスキルかもな」
「身体強化も使えるようになったから、狩りもできるんじゃないかしら?」
「そうだな、ちょっと教えとくか」
男冒険者が首を鳴らした後、俺らに声をかけてきた。
「お前ら狩りやってみるか?」
「今日は見――」
「やりましょう?――ねぇ、ニノ?」
俺の言葉を遮り、ミルカは俺に同意を求めてきた。それをみた男冒険者は「よしっ」と拳を作り、再び森を目指した。
ミルカは「いい経験じゃない」と結構乗り気なようだった。
――――
20分程、森を探索していると女冒険者がこちらに近づいてきた。
「あの辺りにいるわ。1匹だけだから、2人でやってみて」
いきなりの本番。なにか狩りの手ほどきを受けることができると思っていたが、そんなことはなかった。どうやら、少し先の木の裏にいるようだ。
「やりたいようにやってみろ」
冒険者2人は武器も構えず、俺らの後方へ移動した。完全に手を出す気はないようだ。
「ニノ!くるわよ」
俺とミルカが剣を構えたのとほぼ同時に狼が姿を表すと、すぐにこちらへ向かってきた。俺の手に力が入っているのを感じた。狼が俺の首を噛もうとしているのが、なんとなく分かった。噛まれる瞬間を狙い上体をずらすと、狼が首元を掠める。
「――さすがニノ」
ミルカの声と狼の「キャン」という苦しそうな鳴き声が背中から聞こえた。状況が分からず、声をした方を振り向くと、狼の喉元を剣で刺さしているミルカの姿があった。
「お前らやるじゃないか。見事な連携だったぞ」
「うんうん、2人共狼の動きが分かっているような動きしてたよ」
俺のはまぐれだと思う。ただ、ミルカの動きはなにか知っているような動きに思えた。もしかしたら、初めての狩りで自分のスキルに気づいたのかもしれない。
「なんで、後ろへ」
「ん?」と首を傾ける。
「なんとなくかな?」
この反応はなにかのスキルかもしれない。今は深く追求するのをやめた。
その後、冒険者から捌き方を教わり、取り分はどうするかと話になったが、魔法具商人には卸し先がないので、お断りした。その日は合計五匹'狩り街へ戻った。最後に二匹の狼と出会った際は俺らも手伝った。この時もミルカの動きにより、連携が取れていた。
街に着き、俺たちは冒険者と分かれた。別れ際「また来いよ」と声をかけてくれたので、お互い悪くなかったようだ。