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ギフトの先にあるもの  作者: 和風サラダ揚げ
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商人編1

 視界がぼやける。

 周囲が暗い為、近くしか見えない。

 

 何があったか思い出せないが、全身に力が入らない。思考を巡らす気力もわいてこない。

 大人っぽい女性に魔法薬を無理矢理飲まされる。

 彼女の表情は少し暗く見えるが、どこか優しい雰囲気を醸し出している。


 ――――


「……ニノ?ニノ!」

 

 ミルカの――隣の部屋に住む幼馴染――声で目が覚める。

 昨夜は妙な夢をみた影響で頭がすっきりしない。

 俺の目をジーっと見つめるミルカ。

 

「今日は店の手伝いじゃなかったの?」


 ぼやけていた思考がゆっくりと覚醒する。


「ん……ありがとう」


 目の前に掛かっている服をそのまま着込み、急いで準備をする。


「なんか疲れてる?」


 ミルカが心配そうに下からのぞき込んでくる。

 

「ちょっと目覚めが悪かっただけだ。問題ない」

「そう?それならいいけど……」


 心配な表情のまま、ゆっくり窓の外を指さした。


「それより、急がなくていいの?」


 指の先に目を向けると、開店の準備を終え、札を裏返している親父の姿が見えた。

 その姿をみた俺は急いで、家を飛び出した。


 ――――


 店に着くと、親父は俺の頭の上に一瞬視線がいき、何かを言おうとするが、言葉を飲み込んだ。

 その後、ゆっくり俺の顔を見ながら、ニコっと笑顔を作った。

 

「お、寝坊か?」

「ごめん、親父」

「なに、今から開店だから大丈夫だ」

「親父、なにからやったらいい?」

「そうだな、棚拭きをしながら接客してくれ」

「りょうかい」

 

 暫くすると、遅れてミルカがやってきた。


「おはようございます。アルドおじさん」

「あぁ、おはよう。今日はミルカちゃんも来てくれたのか?」

「ニノが心配だから、ちょっと見学です」


 俺の親父がやってる店は生活で使う一般的な魔道具や消耗品の魔法薬、小さな魔石を取り扱っている。ミルカの父親も同じようなものを扱っているが、隣町で店を構えており、親父の店より大きい店を構えているらしい。仕入れや取扱商品で困った時など、親父はたまに隣町へ相談しにいくことがある。その影響なのか、ある時からミルカは隣の部屋で住むようになり、ずっと俺と一緒に行動をするようになっていた。


「いつもニノをありがとう、よかったらゆっくりしていってくれ。」


 ミルカは親父にいえいえと手を振り、カウンター奥の椅子に座った。

 俺が店の手伝いをする時はいつもこんな感じだ。

 いつもは店を手伝ってくれる近くの奥さんがいるが、今日は休みらしい。そういった時には俺が代わりに入っている。親父にはいつも「店を手伝いたい」と言っているが、「お前は今のうちに色々見て回った方がいい」と毎回諭される。親父は多分色々な選択肢を持って欲しいとの考えだと思うが、俺は将来的には自分の店を持ちたいと考えていた。


 ――――

 

 昼のピークが終わり、客が一度出払ったタイミングに仕入れ先の従業員が入店してきた。

 

「アルドさんいますか?」

「おやじぃ、仕入れ先の人きてるぞ」


 奥の在庫室から、親父が出てくる。


「いつもお世話になっております。ニノ、ちょっと出てくるから、店番お願いできるか」

「大丈夫だ、まかせてくれ」


 ミルカは椅子から立ち上がった。


「私もいるので、店番は気にしなくて大丈夫ですよ。いってきてください」


 親父はニコっと笑顔を作り「それじゃ、いってくる」とだけ言い残し、店を出て行った。

 この時間、来店客は疎らで夕方のピークまでは在庫の補充がメインになる。

 

 接客をミルカに任せ、在庫の補充をする為、裏で作業をしているとミルカから声がかかる。


「仕入れ先の方がきてるよ」


 カウンターの向かいに見慣れない女性が立っていた。独特の雰囲気から、生産職の方だろうとは判断できる。個人の魔道具や魔法薬の生産職は――魔技師や魔薬師と呼ばれているらしい――変わり者が多く、積極的に人と関わらない為、衣服も個性的な人が多いらしい。


「お待たせしました。どうかされましたか?」

「アルドさんはいないのね」

「親父は今、出かけてまして」

「そう……それじゃこれを渡してもらえるかしら」


 女性から三本の魔法薬を受け取った。


「これは……」

「渡してもらえれば分かるわ。それじゃ、よろしくね」

「――はい」

 

 女性から魔法薬を受け取るとすぐに店を出た。

 俺は受け取った魔法薬を奥の在庫室へ置き、接客へ戻った。

 そろそろ夕方のピークの時間だ。


 ――――


 ピークの時間。接客に奮闘していると、親父が戻って来た。

 親父は俺の顔色を確認しているようだった。

 

「大変だったろ、ちょっとミルカと一緒に裏で休んでこい」

「いや、俺はまだ――」

「ありがとう、アドルおじさん。行きましょ。ニノ」


 ミルカはまだ仕事を続けようとする俺の手を引っ張り、裏へ連れていかれた。

 扉の閉じ際に、親父は「すまない」と手で表現し、ミルカへ目配せをしているのがみえた。


 ――――

 

「ニノ!あんた、今日疲れてるでしょ?朝から顔色があんまりよくないよ」

「そうかもな……。昨夜みた夢が離れなくて、それが原因かもしれない」


 ――全身に力が入らず、気力もわかない状態で、女性から魔法薬を飲まされる夢。


 椅子に座りながら、夢の場面を思い出していると、急に魔法薬を飲まされた。

 咄嗟に口元へもってこられた為、飲んでしまった。

 ミルカの心配そうな表情と優しい雰囲気があの場面と重なってしまう。ミルカの顔をみると、こちらを観察するように凝視しているようにみえた。

 

「どう?疲れはとれた?」


 よくよくみると、机の上に置いていた魔法薬が2本になっていた。


「ぁ……この魔法薬……」


 俺は机を指さした。


「ただのポーションじゃないの?商品だろうから、支払いは私がしておくわ」


 半分程飲んでしまった。確かに疲れは取れている気がする。それに他のものより味がよかった。

 効能的にはポーションの――魔法薬の中でも、疲れがとれる薬の総称――ような気がする。

 ゆっくり立ち上ろうとするが、ミルカに静止される。


「もう少し休んでなさい」

「いや、この魔法薬はあの女性が持ってきたものなんだよ」

「――っ、体になにか違和感はある?」

「疲れがとれたから、多分ポーションだと思うけど、親父に確認しときたい」

「そうよね……。ちょっと待っていて」


 ミルカは俺の肩をポンポンと2回叩いて、表へ出て行った。


 ――――


「……ニノ?ニノ!」


 ミルカの声で目が覚める。

 昨夜の妙な夢をみた影響がすっきり抜けていた。

 俺の目をジーっと見つめるミルカ。それと親父。

 知らない内に寝てしまったようだ。


「親父、ごめん。見慣れない生産職の女性が持ってきた魔法薬を一本飲んじゃった」

「あぁ、特に体に違和感はないか……?」

「特に悪いところはなさそうだ。寧ろ、好調な気がする」

「実は新しい生産職が、ここで取り扱って欲しいと試作品のポーションを持ってきてくれてたんだよ」

「そういうことだったのか」

「体調がよくなったこと以外に、なにかないか?」

「ポーションなのに、まずくなかった」

「なるほど、売り込み通りって訳だな……。効能も他のものより若干高く見込めるらしい。あと、酔いが覚めるらしい」

「それってすごいじゃないか」


 魔法薬は基本的に味に問題あるのが通説となっている。高級品だと、おいしいらしいが、ほとんどの人はそんな高いものを日常的に飲用することができない。そして、日常的にポーションを飲む人というはちょっと所得に余裕がある為なのか、お酒を飲む人が多い。

 親父は腕を組み、ちょっと悩んだ表情をする。


「ただ、もし取り扱うにしても、まだ試験運用でお願いしたいと依頼を受けている。具体的には常連客に一日一本までだと」


 せっかくすごいのに勿体ないなと、思いながら考えていると「商人は生産職と、商品が欲しい人の橋渡しだからな」と親父の言葉が聞こえ、妙に納得してしまった。

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