プロローグ〜始まりの時〜
「勇者が現れたぞ!」
魔王城にそんな連絡が届いた。
どうやら人間の王国に勇者が誕生したようだ。
さらに「今ここに人族の未来のために魔王を打ち倒し平和を手に入れると宣言する!」、となんともまあ勇者らしいセリフを王国の城で人間の王とその民たちの前で放ったそうだ。
そのため魔族側では勇者に対抗すべく現在準備に勤しんでいるらしい。
年中部屋や研究施設、離れに籠もり、必要となった時のみ仕事をする俺には関係ないこと...と言いたいが恐らくそうもいかないだろう。
俺が知っている文献と知識では勇者は絶えず成長を続け全ての魔族を討ち滅ぼすためにこちらへとやってくる。
そうなってしまっては自堕落な生活を送りながら自由にすることもできないだろう。
なにより、
「魔王様!ここにおられましたか!緊急事態につきご出席願います。」
勇者の出現に魔王がなにもしないというのは『王』として一魔族としてだめなことだろう。
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『勇者』に相対するは『魔王』、これは遠い昔から人間と魔族が築き上げてきた歴史による認識からくる言葉だろう。
人間の子供は魔王を打ち倒した勇者の物語を聞きながら育ち、魔族の子供は勇者を打ち倒した魔王の物語を聞いて育つ。
一方が平和のためと武器を掲げ一方に攻め込む時、もう一方も平和を守るため武器を取る。
勝った方は平和を手にしたと祝杯を上げ、負けた方は憎悪を内に秘め復讐に燃えさらに武器を取る。
これが人間と魔族で行われてきた歴史である。
100年に一度、人間には勇者が召喚される。
神に選ばれ神の加護を受けし人間、異世界から召喚される勇者という職業を持った人間だ。
集団で召喚されその中の一人が勇者という職業を持ち、その他の人間も人間離れした力を発揮する職業を持って召喚される。
それ故、魔王すらも打ち倒し人間を平和に導く切り札となっている。
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「此度の勇者、いかがいたしますか?」
「こちらも手を尽くして対応するしかあるまい。全ての隊長と幹部をここへ。」
「既に招集の通達は出しましたのですぐに集まるかと。」
何故争いを繰り返す、何故過ちを繰り返す、何故・・・・・。
恨まれる筋合いなど無い、平和を望むのは、人間だけでは無いのだ。
――本当に?――
「あぁ...。本当だ。」
――なら、、、頼んだよ――
そう言って手を握り、満面の笑みを向けられる。
もうその生命が消えかかっているというのに見せたその顔を、一生忘れることは無いだろう。
――君なら必ず......――
ああ、わかってる。約束を違えたりはしない。
そのために、
――君を殺したのだから