第三話 続行
「よし、じゃあ開けるぞ」
「はーい」
石造りの重い扉を開け外に出た。
そこはバルコニーから見えた時とは違う、至って普通のおれのよく知る森の中。
ただ居るだけで不安になる、鬱蒼とした森。
「これからどこに行くんだ?」
おれの後ろで何やら大きなリュックらしきものに荷物を詰めているルルに訊く。
「山を降りたら僕の知り合いを辿って『魔王』の情報を集めます。そして最後には何かいい感じに『魔王』を鎮めて仕舞いです」
何かいい感じかぁ...。
「本当にいいのか、それ?」
「良いんです。この旅は分かんない事だらけなんですから。こういう時は大雑把にやった方がいいって師匠も言ってました」
そういう物だろうか。
悩むおれの思考を遮るようにルルが口を開く。
「じゃあもう少し細かく言いますね。今から下山して、セータックという町の跡地に向かって物資の補給をしてから歩く。そんな感じです」
「その、セータックってのはここからどのくらいなんだ?」
「歩いて2日程です」
遠いなぁ。
電車もバスもないとこうも時間がかかるのか。
「じゃ、行きますよ」
「分かった」
下山の始まりである。
万全の対策をしたルルと着の身着のままのおれでは速度が違ったが。
悲しいものである。
山の中腹辺りで、おれの膝下には虫刺されがあった。
数えるのはやめよう。数えていい事はないからな。
思えばバイトしていた時もそうだったけ。
そんな事を考えながら今もルルの背中を追いかけていたその時である。
「ん?なぁ、ルルさん。あれって確か…」
おれの指先には先程塔で見た、城にもたれかかる巨人がいた。
ピクリとも動かず、風になびかれる髪が哀愁を漂わせている。
「あぁ、さっきの塔でシンジさんに見せたやつですね。僕たちはバベルと呼んでいます」
「バベル?」
「大勢の人の思念と肉体で構成された化物です。あのサイズだと町1個か2個分くらいですね」
ルルは淡々とあのケダモノの解説をしている。
やっぱりだ。
やっぱりおれには分からない。
「取り込めない程の人間の思念のせいで自律もままならず倒れたのでしょうね。可哀想に。さぁ行きましょう」
ルルはバベルとやらを一瞥し再び歩き出した。
おれも歩き出した。
今のおれには彼しかいないから。
3/10です。
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