第一話 召喚
視界いっぱいの謎の光を見て、それから若干の眩暈を覚えた。
そのせいだろうか。
目の前の景色の意味が分からなかった。
大量の木組みの鳥居のようなモノとその中心で祈る少年。
映画やドラマの場面の切り替えか。何かの実験か。困惑が自分を満たす。
口をついて出た言葉もそれに従ってしまった。
「ここはどこだ?」
陳腐なドラマの台詞と自嘲する、そんな余裕もない。緊急事態に巻き込まれたのだ。焦るしかあるまい。
だが目の前の少年は問いかけに応じない。
何かに祈るように強く目を閉じたまま。
「…なぁ、どこなんだ。教えてくれないか?」
…反応なし。まさか死んでいるのか。
咄嗟に肩を掴む。
びくりと痙攣する少年の身体。
「---…ん、あなた。…あぁ、そっか」
目を開け、視認する。
手を払いのけ、おれの目前に立つ。
そして、口を開いた。
「…残念なお知らせです。あなたは選ばれたしまいました」
「選ばれた…。俺が?」
何に、選ばれたのだろうか。
ここ数年くじは引いていない。特段心当たりもない。
「そうです。この世界を救ってください」
何を馬鹿なことを。これはこの少年の世迷言、子供特有の嘘なのだ。
妙な場所に来たと思ったらこの有り様。
恐らくはテレビか何かの仕掛けなのだろう。ドッキリ、というやつに違いない。
変な場所に連れて来ておれの反応を伺い弄ぼうという魂胆。いやらしい話だ。
ならば先程の選ばれた、という発言も合点がいく。
「---…おい、辞めにしないか。おれの反応を見て嘲ろう、そう考えてるのは分かってるぞ」
おれは何処かにあるカメラに向けて声を出す。
…しかしこれといった反応はない。カラフルなプレートを持った人間が出てくるわけでも、床が割れるわけでもない。
そんなおれを見て少年からは、
「あの…大丈夫でしょうか?困惑するのは分かります。けど少し落ち着いてください」
こんな事を言われる始末。これではおれの方が馬鹿馬鹿しいではないか。
このままでは埒が明かない。
一先ず話を聞こう。そうすれば何か分かるかもしれない。
「あぁ、大丈夫。落ち着いた、落ち着いたよ。その…世界を救うというのは何だ?」
「はい。では説明しますので、ついて来てください」
先程よりも少しばかり安心したような声色だった。
少年はおれを連れ外を目指す。
古びた煉瓦造りの部屋を抜け、階段を上る。その途中でもカメラや人影を探したが、見つからない。
特に話すことのないおれは改めて少年を見やる。
細い体躯を緩い茶色のローブで覆う。
…だが息の上がる気配はない。寧ろおれの方の息が切れてきた。
…鍛えているのだろうか。
そんなことを考えている間に、少年の足が止まる。
「着きました。ここで話しましょう」
少年に続きおれもバルコニーに上がる。
目下には雲が広がっていた。
「少し待って下さい。もうすぐ雲が切れます」
少年の言う通り、少しおれと少年は待った。
…雲が切れた。
目の前に広がる景色におれは息を飲んだ。
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