子どもの正体
(さ……らし?)
胸元にぐるぐるときつく巻かれたそれは、まるでなにかを隠しているようだった。
いやまさかな、とは思いつつ、それ以外コレを巻く用途がわからない。
だが、これだけ強く巻かれていたらさぞ呼吸も苦しいだろう。そう思い、背中に手を回して体を浮かせ、一周、二周、三周──と解いたところでふたたび動きを止めた。
「……テオ、今すぐオカミさん呼んでこい」
「はい? なにかあったんですか?」
外套を畳み終えたテオが、ジルベールの低い呼びかけに何事かと戻ってくる。
そして、図らずも目撃してしまった。所在なさげにさらしを掴んだジルベールの手元で、ふんわりと申し訳程度に浮き上がる双方の膨らみを。
もともと大きな目が、あらん限りに見開かれた。
次いで、悲鳴に似た叫び声が響き渡る。
「お、おん、おんなのこ──!?」
「いいから早く呼んでこいッ!」
「は、はいぃぃいっ!」
戦場かと疑うほどの怒声に尻を叩かれ、テオが転がりながら部屋を飛び出していく。
残されたジルベールは、そっと少年──もとい少女を、これ以上ないくらいに懇切丁寧に寝かせると、片手で目元を覆って静かに背を向けた。
「……やっちまった」
髪が短いから。体があまりにも細いから。……胸が潰されていたから。
なんて情けない言い訳は山のように出てくるが、それを口に出してしまったら負ける気がした。なんとなく、ひとりの男として。
見ていない。断じて、見てはいない。
何周かサラシを解いたところで浮き上がり始めたやわな膨らみは、すべてを悟らせるには十分だった。だから、神に誓っても、素肌は見ていない。
──はたしてそれが罪にならないかと言われたら、否定できないが。おそらくジルベールは、殴られる覚悟くらいはしていなければならないだろう。
そのうち、オカミさんが血相を変えてやってきた。
彼女は事態を悟るなり憤慨し、男ふたりを問答無用で部屋から叩き出した。相手が海賊だろうがなんだろうが、乙女の一大事だ。誰も彼女を責められない。
寒々しい廊下にぽつんと立ち尽くす、ジルベールとテオ。互いに触れてはならないと察しているため、交わしあった視線のなかには男と男の友情が生まれていた。
「……この依頼、受けるしかねえな」
「ですね。……おれ、責任持ってちゃんとあの子の面倒見ます」
「手ぇ出すなよ」
「ジルさんこそ」
「…………」
「…………」
沈黙が落ちる。普段〝女性〟からはかけ離れた世界で生きている、若干二十三歳と十七歳の青年たちには、あまりに衝撃的すぎる精神攻撃だった。
やがて体拭きから着替えまでやってくれたおカミさんに、こんこんと説教をされる未来が待っているのだが、それはまた別の話である。