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小さな村の宿


 村人たちはジルベールたちを快く受け入れてくれた。なかにはユドルの賊長として顔を知っている者もいるようだが、驚きこそすれ変に怯えるものはいない。

 むしろ『あのユドルの長!?』と目を輝かせて駆け寄ってくる子どももいる始末だ。

 ユドルの在り方が齎したものではあるが、仮にも海賊と名乗っている手前、威厳もなにもあったものではない。

 ジルベールはひそかに頭を抱えるが、まあ警戒されるよりはマシだろう。


 村唯一の宿屋で一部屋借り、ひとまず寝台に少年を寝かせる。

 まじまじと見た顔は、やはり目を瞠るほど綺麗なものだった。

 顔を覆う程度の短い髪は、陽の色に似たホワイトブロンド。シミひとつない白磁の肌は透き通っており、身なりさえ整えれば絶世の美少年に化けるかもしれない。

 しかし、熱にうなされ、苦悶に歪められた表情のなかには、今にも消えてしまいそうな儚さが浮かぶ。その形容しがたい儚さこそ、既視感があった。


(……やっぱり、どこかで)


 こんな印象的な人物、そう簡単に忘れるはずがない。

 けれど、思い出せそうで思い出せないもどかしさがある。

 実際には対面していないのだろうか。どこかの町ですれ違ったとか、かつての依頼人の子どもだとか、そういう──。

 頭を悩ませていると、湯を張った桶を抱えたテオが戻ってきた。


「村には医者がいないらしいです。解熱剤は分けてもらえましたけど……」


「ん。それで様子見るしかないな。船に戻りゃマルセルがいるんだが」


「ひとまず症状が落ち着くまでは、ここで休ませましょ。しっかし、ひどい輩もいるもんですね。身寄りがないとは書いてたけど、まさかこんな状態だなんて」


 まったくだ、とジルベールは渋い顔で肩を竦める。


「とりあえず、簡単にでも体は拭いてやったほうがいいだろ」


「ですね、結構汚れてますし。湯樽、ここに置いておきますよ」


 羽織っていた外套を脱ぎ去り、ジルベールは乱雑にソファに放り投げた。

 樽を寝台の傍らに置いたテオは、慣れた様子で外套を手に取り、自らも脱いで綺麗に畳み始める。こう見えて、けっこう几帳面な性格らしい。

 湯にタオルを浸してから、ジルベールは少年の服に手をかける。

 麻袋に包まれていたからか、簡素な白の被服はよれ切って土に汚れていた。糸が解れて取れかけた留め具をひとつずつ慎重に外し、起こさないようそっと前を開けたところで。


 手が、止まった。


 ──否、思考も同時に停止した。



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