荒れ果てた小屋
(まあ、子どもだからな。国が関わってることはないと願いたいところだが)
匿名の依頼主だって、ユドルの盟約は承知の上で依頼を寄越してきたはずだ。
なんにしろきな臭い依頼に変わりはないものの、厄介な裏事情が絡んだ護衛業はユドルも専門としているところがある。これまでもこういったことは多々あった。
今回は万が一に備えて賊長であるジルベール自ら出陣したわけだが、はたして吉と出るか凶と出るか。これで誰もいなかったら、さすがにキレたい。
「いいか、者ども。事前に確認した通りだ。外の見張り組以外は俺の後に続け。相手が誰であろうと殺すなよ」
ジルベールの言葉に、周囲に控えていた仲間が頷く気配がした。
今回連れてきたのは、テオをはじめとする戦闘員数名だ。
保護対象が本当に命を狙われているのなら、肉弾戦になる可能性もある。
まあ、この廃屋からは殺意どころか人の気配すら感じられないが、警戒しておくに越したことはない。油断したところで爆発物でも仕掛けられていたら終わりだ。
「……行くぞ」
ジルベールはわずかに扉を開けて様子を窺う。目に見える範囲に人はいない。室内の雰囲気も閑散としており、とくに目立った異常はないようだ。
さらに扉を開けて、素早く体を滑り込ませる。
ぐるりと室内を観察するが、やはりとくに変なところはない。
眉間に皺を寄せ、ジルベールは片手間に頭巾を外しながら立ち上がる。
中身の入っていない酒樽がいくつか。レールから外れぶらさがるカーテンは悲惨だが、意図的にやったわけではなさそうだ。おそらく経年劣化によるものだろう。
埃の溜まり具合からしても、確実に数年単位で放置されている小屋だ。
「いませんね」
後ろから続いたテオは、室内を見回しながら眉尻を下げる。
入り口でジルベールが止まっているため、他の賊員たちは判断をしかねているようだった。ジルベールは逡巡したあと、素早く指示を出す。
「テメーら、ここら一帯を確認してこい。異常があったら知らせろ」
瞬時に賊員たちが散る一方、ひとり残ったテオは室内を探索し始めた。
自分が『テメーら』のなかに含まれていないことは、言わずもがなわかっているらしい。怪訝な表情を浮かべながら、「んー」と唸る。
「山賊かなんかが使ってたんでしょうか。酒は完全に干からびてるけど」
「ああ。なんにしろ、最近人が入った形跡はないな」
「でも、依頼書にはたしかにここって指示されてるんですよね」
近くに転がっていた空の酒樽を、テオが何気なく持ち上げたときだった。
ごとり、と鈍い音が響く。
「……離れろ、テオ」
酒樽の影から転がった革袋。なにかが入っているのか、どうやれ支えを失って倒れたらしい。重みのある音に警戒しながら、とっさに腕を掴んでテオを後ろに下がらせる。
(荷物にしちゃあ、生々しい音だったが)
大きめの革袋は、しかしそれ以上動く様子はない。短剣を構えながらもそっと近づき、ジルは慎重に袋口を開ける。
その瞬間、息を呑んだ。