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吉報と乾杯

ビオラは、幼い時に大病を患い、その大病の遺症により両脚の自由を失ってしまった。

身体が成長しても、太腿から下の脚が動かせず、学院内でも車椅子と人の手助けで移動をしていた。

学院はビオラの博識と知識の高さ、そして、ある分野への探究心を高く評価し、学院への在学を許可していた。

だが、両脚が動かせず、移動一つ人の手を借りなければいけないビオラを『障害者』『出来損ない』『贔屓』と陰口を言う者も少なからずいた。

だが、ビオラはそんな境遇を決して悲観せず、


「確かに、私には自由に歩く脚はありません。

ですが、私には、私の事を理解して、愛してくれる大好きな両親がいます。

いろんなモノを見る事が出来る眼も、音と響きを聞き分ける耳も、香りを楽しめる鼻も、大好きな人達とお喋り出来る口も、物事を考え、思案出来る頭があります。

そして、大切な友達と触れ合える手が有ります。

困った事と言うなら、素敵な殿方とダンスが踊れない事くらいでしょうか?」


そう言い、戯けながらビオラは笑っていた。


そんなビオラがライアン殿下と出逢ったのは5年前。

ギア帝国の学院へ留学して最初の学院の夏期休暇。私がビオラをマーシャル公爵家へ招待した。

以前、手紙でリーナ叔母様にビオラの事を伝えたら、休暇中、リーナ叔母様にお茶会へ招待され、ビオラもお茶会に参加したのがキッカケだった。

王宮の庭園でリーナ叔母様とビオラと3人でお茶会をしていた所にライアン殿下が訪れ、ライアン殿下がその場でビオラに一目惚れしたのだった。

ライアン殿下はその場でビオラに交際を申し込んだ。

だが、


「一人で歩く事もままならない私が殿下の隣に立つ事は許されない事です」


ビオラは悲しい笑顔でそう告げた。


王族の申し出、しかも王妃様の前で殿下の申し出を断ったビオラ。

本来なら、王族侮辱罪により罰を下されても可笑しくは無かった。

それでも、自分の身体の事を知っているからこそ、ビオラはライアン殿下の交際を断った。


だが、ライアン殿下は諦めなかった。

お茶会でビオラに交際を断られても、何度もアプローチをし、マーシャル公爵家への夏期休暇での滞在期間を終えギア王国へ帰った後もライアン殿下はビオラに手紙を送り続けた。


もちろん、ビオラの事は直ぐに王宮中に知れ渡り、王宮内でもビオラを批判する声が出た。

特に、ライアン殿下との婚姻関係を築き、王家の恩恵を受けたい貴族達や障害に偏見のある者が反対の声を上げていた。

だが、そんな貴族達をライアン殿下は無言の圧力で黙らせ、笑顔でごり押しした。


ライアン殿下はエンミリオン王国王子としてビオラを無理矢理にでも娶る事も出来ただろうが、そうはしなかった。

ライアン殿下とビオラは手紙とひと時の逢瀬を繰り返した。

その頃には、ビオラを悪く言う輩も表立って騒ぐ者も少なくなり、一年後ビオラはライアン殿下の妻となった。


当時、車椅子の妃としてエンミリオン王国の話題になったビオラだが、聡明で明るく物怖じしないビオラは義父母である国王陛下と王妃様にも気に入られた。

王国の王子との結婚で妃殿下となったビオラをライアン殿下は寵愛し、ライアン殿下は今後側室を取らないとまで国王陛下に宣言までした。

二人の結婚から4年経ち、今ではエンミリオン王国で知らない者がいないほどのオシドリ夫婦となっている。


しかし、やはりと言うべきか、ライアン殿下はビオラの身体を気遣い、子宝の話題はあまり出て来なかった。

だが、


「貴方!!孫ですよ!!ああ、男の子かしら?女の子かしら?どちらでもきっと可愛いのでしょうね。

あ!!そうだわ、ライアン、ビオラを東の離宮に連れて来れませんか?あそこなら静かですし、王宮にも近いし、綺麗な庭園や湖があるから胎教にもきっといいわ」

「待ちなさい、アンジェリーナ。少々気を急がせ過ぎだ。

ところで、ライアン、出産予定日はいつだ?名前はもう決めたのか?」

「父上も随分気が早いですね」


お二人にとって初孫は嬉しい報告だったらしい。


「凄い喜び様だな」

「国王陛下もリーナ叔母様も子供好きですから。特にリーナ叔母様はビオラを気に入っていますから余計に嬉しいのでしょう」


王家に嫁いでも尚、名前で呼び合える親友の朗報に私も嬉しく思った。


「でも、先日の手紙には懐妊の事については何も書かれていなかったですけど?」

「私が、ビオラに口止めをしておいたんだよ」


ジュディアンナの素朴な疑問にライアン殿下は笑顔で答えた。


「今日この日のサプライズとしてね」

「ライアン殿下。妃殿下様の御懐妊おめでとう御座います」

「おいおい、大層だな。ジュディにはビオラの親友として祝って欲しいんだ。そんなに畏まる事は無い」

「ココがプライベートの場でしたら大いに奥方様に喜んで抱き着いて祝福をしますが、ココは公の場。礼儀は大切です」

「ジュディは真面目だね」


ライアン殿下はそう言いながら笑った。


「改めて、ジュディも婚約おめでとう」

「はい、ライアン兄様もビオラの懐妊、おめでとう御座います。」


ジュディアンナとライアン殿下はお互いに笑い合った。


「ハハ、兄様か。懐かしい呼び方だな。私の事を兄様、兄様と呼びながらひよこの様に後ろを付いて回っていたお転婆なジュディが、こんなに立派な淑女になるなんて、いやぁ、人生何があるかわからないな」

「お転婆って、いつの頃の話をしているんですか!」


焦ったように顔を赤らめるジュディアンナを見てライアン殿下は愉快そうに笑った。


婚約者がいる前で、昔話は恥ずかしいから、やめてほしい!!


確かに、私は、エリック殿下の遊び相手としてお父様に手を引かれ王宮へ行った事は何度もある。

だが、我が儘ですぐに癇癪を起こすエリック殿下よりも、いつも笑顔で好奇心旺盛で優しいライアン殿下を兄として慕っていた。

幼い私は、よくライアン殿下の後ろをついてまわり、王宮の中で隠れんぼをしたり、馬に乗せられ遠出をしたり、森の中に入って迷子になったり、高い木に登って降りられなくなったり、小舟に乗せられそのまま川に放流されかけもしたっけ・・・・・・。

なんだか、ビオラの子の将来に一抹の不安を感じた。


「ライアン殿下。これからお産まれになる御子にくれぐれも絶対に、危ない事はなさらないでください。子供はとても繊細なんです。だから好奇心で危ない所へ連れて行ったり、軽はずみな行動で御子を危険な目に合わせないで下さい」

「おいおい、流石にそれは心得ているぞ。私もビオラが悲しむ顔は見たく無いからな」

「それは、私もです。ビオラは私の大切な親友。もし、彼女に悲しい顔をさせたのなら、ライアン兄様でも、容赦はしませんので、御了承を」

「おお、怖い怖い、きちんと肝に銘じておくよ」


そう言って、笑うライアン殿下に笑みを返すと、


グイ


「あっ、」


ポス、


右腕が引かれ、ジュディアンナの身体が、ジン皇子の体に寄りかかった。


「おっと、ジュディの婚約者は随分と嫉妬深い様子で」


その様子を見て、笑みを深めるライアン殿下。


「ここまで来るのに三年もかかったんだ。いくら親戚とは言え他の男との長話はあまり気分がいいものではない」

「これは、失礼。ですが、ジュディはあくまでも妹のようなものです。それ以上でもそれ以下でもありません。間違っても、私がビオラ以外の女性に手を出す事は無いですよ」


ライアン殿下はそう言いながら笑っているが、


「・・・・・・・・・」

「ジン皇子、ライアン殿下を睨むのはやめて下さい」


無言でライアン殿下を睨むジン皇子。右腕を握っているジン皇子の手に少し力がこもる。

身体は大きいのに何だか人見知りする子供みたい。


「うふふ、何だか、昔の誰かさんを思い出すわね。ねぇ?アナタ」

「・・・・・・・・・・」


リーナ叔母様と国王陛下陛下がなんだか微笑ましい空気でこちらを見ている。

国王陛下は無言だけど。


「さあ、こんなにおめでたい吉報が届いたのだからちゃんとお祝いをしないといけないわ。ヨハネス。招待した皆さんにワインと果汁水を振る舞ってちょうだい」

「はい、王妃様」


初老の執事が恭しく国王陛下とリーナ叔母様に頭を下げ、頭を上げるとスッと、右手を上げる。

すると、ダンスホールの脇に控えていた給仕係のメイドが洗礼された動作で招待客に美しい装飾加工されたグラスを手渡し、そのグラスに真紅の赤ワインをお酒が弱い人にはオレンジ、薄いピンク色、白、薄緑色の果汁水を注いでいく。


エンミリオン王国では王家に吉報があると、特別なグラスで国の名産品であるワインと果汁水を振る舞う伝統がある。

後日、王家の吉報の報せと共に国民にもワインと果汁水、そして、祝いの菓子パンが振る舞われるだろう。


ワインと果汁水はあっという間に招待客に行き渡り、ジュディアンナの手にも美しいガラス細工がされたグラスにオレンジ色の果汁水が注がれた。


「皆、行き渡った様だな」


国王陛下が真紅の赤ワイン片手に一歩前に出る。


「皆の衆、今日、この日、我が妻アンジェリーナの誕生祭を祝ってくれ感謝する。更に、我が妻の姪、ジュディアンナのギア帝国との婚約。そして、我が初孫の吉報。儂はこの良縁を心より喜ばしく思う。

願わくば、この喜びを皆と分かち合いたい。

エンミリオン王国の光ある未来へ、乾杯!!」


国王陛下は持っていたワイングラスを高らかに掲げる。

そして、国王陛下に続くように皆も手に持つグラスを高らかに掲げる。


『乾ぱ、』


ダンスホールにいる皆が声を合わせ、乾杯をしようとしたその時、


「ちょっと待ってください!!!!!!」


突然、怒声にも似た叫びがダンスホールに響いた。


「は?」


突然の事に、その場にいた者は騒めく事も忘れて唖然とする。

全員の視線がある人物に集まり、声を上げた人物は、持っているワイングラスを握り潰さん勢い、鼻息も荒く、まるで親の仇と言わんばかりに高台を睨むエリック殿下。


皆が異様なものを見るような目でエリック殿下を見ているが、エリック殿下はそれさえも気付かず、捲し立てるように声を張り上げる。


「父上!!!母上の誕生祭と兄上の子供の事は100歩譲って良しとします!!ですが、我が愛しのモニカを蔑めたジュディアンナを祝福する事などありません!!皆、その悪女に騙されているんだ!!!ジュディアンナ!!隣国の皇族をたらし込み、己の味方に付けたつもりだがそうはいかないぞ!!!!」


ワイングラスを持っていない左手で高台に立つ私を指差すエリック殿下に、


「えええぇぇ~~~」


情けない声が出てしまった私は、絶対に悪くないと思う。


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