↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/14

その後の2人

エンミリオン王国第2王子エリックが国王陛下に勘当を言い渡され、数日。

国民の税金横領は未遂に終わり、国王陛下は、元王子エリックの取り調べにより横領を加担しようとした人物が芋づる式に発覚した。


関与したのは主に金銭面で困っている、所謂貧乏貴族と言われる面々で、その筆頭はグーデル男爵家だった。


エリックの言い分は、多くの貴族達を味方に付けることで、兄であるライアン殿下に対抗するつもりだった。

その事をエリックに提案したのが、モニカの父親、グーデル男爵だった。


この事件により、グーデル家は爵位と取り上げられ、家は取り潰し。関与した他の貴族も今までの爵位を降格させられた。


エリックと王命によりエリックとエリックの妻となったモニカは、エンミリオン王国の最東部にある小さな村へ送られた。


国王陛下の決定に周りの家臣達から、「判断が甘い」と苦言を言われた国王陛下だったが、国王陛下は、


「今回の一件、未遂だったとは言え、確かに簡単に見過ごせる件ではない。だが、奴らをただ地下牢に入れていても、ただ騒いで、喚いての繰り返し。

国外追放では他国へ迷惑を押し付けるようなもの。

だが、簡単に命を絶たせる処刑では割りに合わない。

自分が格上だと過信している者ほど、自分を格下として見られる事が己の死よりも辛い苦痛に感じる。

その環境下で苦痛に耐え何かを見出せば、それでよし。だが、それで何も見出せ無ければ、所詮その程度だったと言う事だ」


王座に深く腰掛け、国王陛下は家臣にそう言った。

だが、国王の言葉には矛盾がある。

エンミリオン王国では縁を大切にしているが、一度でも切った縁には容赦は無い。

なのに、元王子であるエリックとモニカを国からも追い出さず、大した刑にかけない。

やはり勘当したとは言え、元息子には情が湧いてしまうものなのか。


「・・・・ですが、もしあの者達が報復を企て、国民に被害が出てしまったら、」


それでも、納得がいかない、比較的若手の家臣が意を決して進言すると、国王陛下は不敵な笑みを浮かべる。


「そのような動きの影があれば、問答無用で国の反逆と見なし、相応の刑に処すまでだ。それが、例え血縁関係があったとしても、容赦などしない。その為にも、奴らを見張る必要がある・・・・儂の言いたい事は、分かるであろ」


低く威厳のある国王陛下の言葉に、含まされたある意思に気づき、家臣一同が身を引き締める。


「生は、時として、死よりも重い罰へと変わる」


国王陛下は独り言のように呟き、前を見据えるその眼には情のかけらも無い、不敵な笑みを浮かべた。




~2カ月後~


「ーーーー!!!ーーーー!!ーーーーーーーー!?」

「ーーーーー!!!ーーー、ーーーー!?ーーー、ーーー!?」

「ーーー!?ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーーーーー!!ーーー!!」

「ーーーーーー!!!!!」

「ーーー!!ーーーーー!!」

「ーーーー!!!」

「ーーー!!!」


ガチャーン!!!!



また、今夜も始まった。

少し離れた所から聞こえる騒音に、その家の老夫婦は思わず顔を顰めた。


「また、あの家の若夫婦か」

「放っておきなさいよ。どうせ、もう少ししたら静かになるんだから」


興味が薄そうにそう言いながら妻はテーブルの上の料理が食べ終わった食器を片付けていく。


ここはエンミリオン王国の最東部にある小さな村。

そこに、2カ月前にある若い夫婦が馬車に乗ってやって来た。

年々、若者が減ってきていた村だった。

それが歳は若く、美男美女の若夫婦と聞いて、村全体で歓迎した。

だが、その夫婦の第一印象はあまり良いものだとは言えなかった。


笑顔で2人を出迎えた村長に対し不機嫌な態度で上から目線で文句を言ったのには、そこにいた村人が目を疑った。

「出迎えの人数が少ない」だの、「ここまでの道のりで疲れたのに労いも無いのか」だの、「こんな貧相な村で一体何をさせる気だ」だの、明らかに友好的では無い態度に一気に怪訝の念が募った。

こんな国の最東部にある村に来るくらいだから、いくらか事情を抱えているのだと思っていたが、若夫婦の態度はあまりにも横柄だった。

他にも「家が狭くて小さい」と騒ぎ、「使用人が居ない」と喚き、村長に当たり散らし、2人は終始不機嫌な顔をしていたのを今でも覚えている。


この村では村の約8割が、木こりや果樹栽培で生計を立てている。

十数年前に国からの支援金が支給されてから、大分仕事の効率が良くなっていったが、まだまだ若手が不足しているのも事実。

だが、今回村に来た若夫婦は、ハズレだ。村のほとんどの人がそう思っている。


最初の頃は村人は皆親切だった。

だが、夫に仕事をさせても文句ばかりで、手を動かさず、注意すると逆切れ。

嫁はまるで、悲劇のヒロインのように振る舞い、自分の境遇を語る自分語りが始まる。しかし、その内容が度々変わるので、村人の間では夫婦揃って虚言癖があるのだと思われ、1ヶ月も経たずに相手にされなくなった。

やがて、2人に任せらる仕事がほとんどなくなり、若夫婦は村中から孤立してしまった。

夫の方はそんな状況に嫌気が差したのか家の中に引き籠もってしまい、酒に溺れ、今では嫁が誰にも相手されず細々と野良仕事をしている状態。

面倒見の良いと評判があった村長も匙を投げてしまい、最近では夜毎に隣近所まで響く夫婦喧嘩が近所迷惑になっている。


「そう言えば、村長が明日あの若夫婦と話をつけるとか、言っていたな・・・・」

「え、なに?何か言った?」


ふと、ある事を思い出したかのように老人が呟くと食器を洗っている妻が聞き返してくるので、


「・・・・いや、なんでもない」


深く考えるのをやめた。



「エリック!!!いい加減仕事してよ!!ここ最近ずっと私だけが働いているじゃない!?」

「うるさい!!この私に、平民と一緒に土に塗れろ言うのか!?それでも、私の妻か!?」

「なによ!?エリックと結婚したらなんの不自由もさせない、幸せにしてくれるって言ったのに!!嘘つき!!」

「なんだと!?お前まで、私を愚弄するのか!!!」

「キャ!!お皿投げないでよ!!」

「うるさい!!!」

「キャァ!!」


モニカは夫のエリックが投げる皿から逃げるように隣の寝室へと逃げ込む。ドアを閉めたと同時に、


ガチャーン!!!


ドア越しに何かがぶつかり砕ける音がした。


「・・・・・・・」


今夜もまた夫がお酒に酔って暴れる。

モニカは、悲痛に顔を歪め、寝室のベッドに倒れ込む。


「・・・・・・固い」


実家のベッドとは比べ物にならない少し厚手の毛布を敷いているだけの粗末な固い木のベッド。

ドアの向こうでエリックが物に当たりながら暴れている。


「なんで、こんな事になったのよ・・・・」


数少ない食器が壊される音を聞き、慣れない野良仕事で荒れた手を見て、モニカは目に涙を溜めた。



モニカ・グーデルは幼い頃から可愛いと言われて育ってきた。

グーデル男爵家の一人娘として両親から溺愛され、モニカの欲しい物は出来る限り与えられ、花よ蝶よと育てられたモニカ。

そして、モニカ自身も幼いながらに、自分は愛される為に生まれてきたのだと確信していた。

成長したモニカは文字通りお人形のように可愛らし容姿に育ち、良く言えば恋愛体質、悪く言えば厚顔無恥に育った。


王立学園に入学してから、見目の良い男子生徒に声をかけては、愛らしく甘え、子猫のようにすり寄った。

見た目が愛らしいだけに、大半の男達はモニカに好意を抱きモニカを受け入れた。

だが、モニカは1人の男性だけでは満たされなかった。

モニカにとって男は甘えたら優しくしてくれる一時的な恋人。

その心は蝶よりも軽く移り変わりが激しい。


もっと自分を愛して甘やかしてワガママを聞いてほしい。


タチが悪いのがモニカ自身、その事を悪い事だと思っていない事だった。

理想の殿方を求め、歳下だろうと歳上だろうと婚約者がいようと既婚者だろうと構わず声をかけ、愛想を振りまいた。

その事が度重なり、モニカは学園内でも問題視され距離を置かれるようになり、段々とクラスから孤立するようになった。

そこへ声をかけたのが元王子エリックだった。


元々、自分の見聞きした事しか信用せず、更に自分の都合のいいように脳内変換するエリックは放課後の教室に一人、寂しそうな表情の少女のモニカにエリックは気まぐれに気にかけてた。

すると、モニカは目の前に現れた美形で王子のエリックにすぐに恋をし、子猫のようにすり寄った。

エリックも愛らしく自分を褒め称えるモニカの事を可愛く思い、モニカを側に置いた。


モニカは両親にエリックの事を話すと両親はとても大喜びした。


密かにモニカが上流貴族の倅を捕まえ来れれば上等だと思っていたが、まさかの王族。このまま行けばモニカも王族入りも夢ではない。


元々、グーデル家は男爵の地位に在するが、男爵とは名ばかりの貧乏貴族。

だが、このまま第2王子のエリックと娘が結婚したら王族言う大きな後ろ盾が出来、自分達の将来の安泰は確実。揺らぎの無いものになる。


そう思ったグーデル男爵は、早速エリックに言葉巧みに取り入った。

エリックは自分の事を褒め称えるモニカの両親を気に入り、モニカの両親もエリック王子と言う後ろ盾を得たせいか、何かと他者を見下す言動が増えていった。


だが、グーデル男爵は知らなかった。

エリックは煽てれば煽てる程、持ち上げれば持ち上げる程調子に乗り、暴走が激しくなる事を。

そして、モニカは気付けなかった。

気高く優しい理想の王子様は実はプライドが異常に高く、唯我独尊で物事を考える男だったという事に。


そして、2ヶ月前の現王妃の誕生祭でのエリックの暴走。

秘密裏に動いていた税金の横領の計画の露見。

エリックがエンミリオン王国第2王子の座を追われ、グーデル男爵家の信頼は地に落ち、爵位を剥奪され、家は取り潰し。

モニカの両親は行方知れずになり、娘のモニカは国王陛下の勅命により強制的にエリックと婚姻届にサインを書かされ、夫婦となり早々に馬車に乗せられ、国の最東部の小さな村へ護送された。

王都で暮らしていた頃と比べるとあまりにも貧相暮らしに、真っ先に不満を露わにし、不満しか言わないエリックとモニカに村の中で着実に居場所を失って行った。


エリックの妻になったモニカ。

王立学園に在学中はエリックは美形でお金持ちで優しい理想の殿方だったのに、いざ王子の座を追われると仕事をしないただのプライドの高い酒に逃げるダメ夫と成り下がってしまった。

村人に媚を売ろうとしても、村中の殆どが既婚者か年配者。小娘と嘲笑われ、相手にされない。


一体何がいけなかったの?


王子だったエリックの正妻として大きな教会で大勢の国民に祝福を受け、王宮で何不自由の無い生活を夢見ていたモニカ。


「こんなはずじゃなかったのにぃ・・・・」


薄くて仄かにカビ臭い枕に顔を埋めたモニカ。

その時、


コンコン


寝室のドアがノックされた。


エリックだ。


「・・・・・・・・・・・・」


モニカは少し悩んだが、ここで変に抵抗すると、ますますエリックの機嫌が悪くなる。

そう思ったモニカは、溜息を吐き渋々、ベッドから降り、ドアの前に行く。

だが、モニカがドアノブに手をかける前に、ドアが開いた。


「え?」


開いたドアの前に立っていたのは、夫では無かった。

高い身長にボサボサの長髪の男がそこに立っていた。でき物だらけの顔、ニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべている。


「へ?」


目の前の状況に脳が追い付かず、モニカの身体は金縛にあったかのように動かなくなっていた。

唯一自由が利く目で、男の後ろを見ると、赤い何かが床一面に広がり、その上に誰かの脚が見えた。

そして次に目に入ったのが、男の右手に握っている大きな鈍器。

その鈍器にも赤い何かが滴っている。


「ぐふふ、僕の可愛いお人形のモニカちゃん、みぃつけた。さぁ、僕達のお家に行こうね」


そう言って、伸びてくる男の手にモニカは、


「へ?え?」


意味の無い声を口から洩らすだけで、動く事が出来なかった。



数日後、エンミリオン王国王宮である報告書と一通の手紙を受けとったライアン殿下。

内容は、この国の最東部の村に送られた元愚弟が自宅で血を流して倒れていたのを、村長が発見した。

元愚弟は鈍器のような物で、顔と下半身を強打され、顔に大きな傷が残り、強打された下半身は腰を砕かれ下半身付随となり、自力では動く事も出来ない。

現在、村の外れの小さな山小屋に移され、一人療養中の事。

家の中は争った形跡があり。寝室にも血痕有り。

妻、モニカの姿は無く、行方不明。

深夜にとある貴族の馬車が村へ入り数刻で出て行ったがどこの貴族の馬車かは不明。


そして、報告書と一緒に手渡され手紙に目を通す。

手紙の内容

『怪我をした。助けてくれ』

『モニカが居なくなったのだから王宮へ戻してくれ』

『家族なのだから助けろ』

『使用人がいなくて不便だ』

『せめて、人を雇う金を送れ』

と、言うものだった。


報告書と手紙を読んだライアン殿下は、無関心な表情で報告書を机の引き出しの中へ仕舞い、手紙はゴミ箱へ捨てた。


「ライアン様?」


無関心な表情だったライアン殿下の耳に鈴を転がすよな愛しい声が聞こえ、声の持ち主を視界に入れるとライアン殿下は、表情を和らげる。


「ビオラ」


侍女が側に控え車椅子に座っている愛おしい妻がそこに居た。


「どうかなさいましたか?」

「いや、大した事では無いよ。それよりも、身体の具合はどうだ?起きていて大丈夫なのか?」

「うふふ、大丈夫ですよ。侍女のマオも側にいてくれていますし、私もこの子も順調ですよ」

「そうか、だが、少しでも変化が有ればすぐに言うんだぞ?ビオラ1人の身体では無いんだからね?」

「はい、ありがとうございます」


愛おしく、膨れたお腹を撫でる妻の姿にライアン殿下は確かな幸せを感じた。

ライアン殿下はそっと、車椅子に座る妻の前に膝を着き、


「元気に産まれておいで。私の愛おしい子。君とビオラが笑顔でいれるように、皆が幸せであるように、私も頑張るから。君たちを守る父親になるよ」


そう言いながら、そっと、妻のお腹を優しく撫でた。


この大切な宝を守るために、私のはこの国を守る国王になろう。

どんな小さな脅威からも、必ず護ろう。

そうライアン殿下は心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。