39.フレージュビリーは再来する
すべてやり直したはずだった。でも、ここは──。
「また、またあいつが邪魔をした! この男もいまいち魅了に引っかからなかったし」
腰のあたりにしがみついていた男の身体が、あたしが立った勢いでふらりと噴水の外へ傾いでいく。ばしゃりと水しぶきがあがり、目に入る。不快だ。
男の手に今もまだ刃物が握られているのを見つける。ぼんやりとしたままの靖人から、あたしはそれを奪った。
すぐそばに子供が立っていた。邪魔だったからナイフで切りつけてやる。血がどくどくと流れて、噴水の水が赤く濁っていく。遠くのほうから、老人が慌てて走ってくる。真っ白な顔をして、すごい形相でこちらを睨んでいる。
「落ち着け、落ち着かないと……」
年は取っているが、力では叶わなそうだ。
次の瞬間、強い風が吹いた。そしてすぐとなりに誰かが落ちてきたことに気がつく。水しぶきが消え、あたしの横に誰かが立っていることに気がついた。
その女は、長い黒髪を振り乱し、目の前に倒れた子どもを見ると駆け寄って、魔法をかけはじめた。時戻しの魔法を。そして、あたしのことをきっと睨みつけてきた。
椿千風。
「……また! またあんたが邪魔をするのね?」
目の前が真っ赤になった。頭の中がいろいろなことでいっぱいになっていた。落ち着かせるために、とにかく自分に言い聞かせる。見覚えのある、忌まわしいこの世界……。目の前には大嫌いなあの女。──そうだ。
「そうだわ、まずは、知らなくちゃいけないわよね?」
あたしが嗤うと、あの女はびくりと顔を青ざめさせた。なにか知られたくないことでもあるのだろう。
"ツー・シュタット"
目の前に、タブレットのような画面が現れた。あいつの秘密を暴ける。そう思ってわくわくしていたのに……。
「な、なによこれ……」
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名前:椿 千風(25)
異世界名:落ち姫 ツィスカリーゼ
魔法スキル:
クロノヴェール(効果:時を戻す)
クリエーシオ(効果:新たなものを創り出す)
ギフト:
シュタット(効果:ステータス開示)
まじめ(効果:まじめに取り組んだことは忘れない)
その他スキル:
剣 Lv.100/100
槍 Lv.100/100
弓 Lv.100/100
四大属性魔法 Lv.100/100
光魔法 Lv.100/100
闇魔法 Lv.100/100
結界術 Lv.100/100
治癒術 Lv.100/100
未来視 不適合/100
学問 Lv.100/100
語学 Lv.100/100
魔法知識 Lv.100/100
毒耐性 Lv.1/100
料理 Lv.100/100
掃除 Lv.100/100
整理 Lv.100/100
衣類管理 Lv.100/100
裁縫 Lv.100/100
植物 Lv.100/100
来歴:………
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あいつのステータスは、ほとんどすべてが"カンスト”していた。
覗かれているのが嫌なのか、あいつは不安げに瞳を揺らしている。そのか弱そうな部分が癪に障った。手に持っていたナイフをあいつに向かってなげる。けれども当たらなかった。
これだけのレベルを極めているということは、あたしでは多分、間違いなく勝てない……。悔しかった。ぎりりとくちびるを噛む。鉄の味が口いっぱいに広がる。
「でも、……これ」
ふと、あいつが鍛えていないものに、気がついた。




