27.「許さなイ」
日本で、ここでレンヴァントと生きていこう──。そう決意した。私にできるかはわからないけれど、彼を幸せな気持ちでいっぱいにしてあげたい。私はもう、彼の隣にいられるだけでもぽっと甘い気持ちになれるから。
「千風さん……」
レンヴァントがとろりとした瞳を私に向ける。
彼の薄い水色の目は、夜だからかいつもより少し濃く見えて、その中に真っ赤な顔をした自分の姿が映っていた。
私たちの距離が近づいたそのとき。
──レンヴァントが表情を変えて、私の腕を強く引いた。闇夜にきらめくのは刃物。
月の光がスポットライトのように落ちている。その光が溜まった中に、一歩ずつ踏み出して近づいてくる男がいた。片手にはナイフのようなもの、そしてもう片方の手は頭を押さえている。
「結婚? 結婚だト? そんなことは許さなイ」
男はぶつぶつと独り言を言いながら、近づいてくる。呼吸は荒く、苦しそうだ。
私を庇うように、レンヴァントが前に出た。その顔が月明かりに照らされて、私ははっとした。
「ヤスくん……?」
「卒業したら結婚しよウ。そう約束したじゃなイか」
靖人は呂律が回らないような、妙な喋り方で言った。
「なァ、そうだろう? チィ」
「……それを反故にしたのはあなただろう」
レンヴァントが反論する。靖人がきっと彼を睨む。
「あのときのガイジン。そうか。やっぱり浮気をしてたンだな」
「あなたの言っていることはさっきから支離滅裂だ。悪いが僕たちは帰らせてもらう」
そういうと、レンヴァントは私の肩を抱いてくるりと靖人に背を向けた。
「大丈夫です」
小声で私に言う。
「僕もまだ少しなら使えるんです。魔法。すくなくともあんな物理攻撃からはあなたを守れます」
「でも……」
気になることがあった。
私は振り返る。月光の中に立っている靖人。彼の様子は明らかにおかしかった。
片方の目はぎらぎらとした怒りに燃えている。けれどももう片方の目は不安げにさまよい、涙がほとほとと流れている。
恋心はもう消えていた。でも。
「放っておけない」
レンヴァントをまっすぐに見上げる。彼はしゅんとして、それから笑った。
「あなたらしいですね。でも、距離を取ってください」
私はうなずく。そうして、小さな声でつぶやいた。
"ツー・シュタット”
きらきらと光が舞う。私の目の前に、薄い石板のようなものが現れる。
魔法をくり返すたびに、少しずつ得られる情報が増えていった。まるでタブレットのような操作性で、スクロールすることができる。
しかも、相手のことを暴きたくないという気持ちが通じたのか、ほしい情報に飛べる"目次”もつくようになった。
けれども、私がいま一番知りたいことは、目次から飛ばなくてもすぐにわかった。
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名前:井口靖人(23)
スキル:なし
状態:魅了、心毒、混乱
【経歴】………
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