表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/46

24.ある男の傲慢と悲劇と(2)

 少し服を贈っただけで、千風はみるみる綺麗になっていった。俺の横に立つ時に恥ずかしくないようにと、メイクも少しずつ勉強し出した彼女をいじらしいと思った。


 しかし、これまで大学の中ではただの風景だった椿千風という女に、ちらちらと目線を向ける者が増えてきた。


 千風は気づいていなかった。ただ日に日に綺麗になっていくだけ。ある日、いたたまれなくなって俺は言った。


「──そのままの千風がいい」


 千風は少し傷ついた顔をして、それでもへにゃりと笑った。

 一見するとまた化粧っけのない顔に戻ったように思えたが、前のように素肌で出歩くことはなくなった。俺は少し不満に思った。




 やがて千風は、バイト先にそのまま就職した。

 教授が残念がっていた。彼女ならもっと色々なことを究められただろうに、と。俺には就職をすすめたのに。


 千風の職場は家事代行サービスだったから、男に関わる機会はなく安心した。だが、両親に彼女を紹介するときは、何か言われるのだろうという気はした。


 彼らにとって、家のことをするなど卑しいことなのだから。その気持ちはわからなくはない。でも、だからと言って家事ができる女を娶りたいというのでもなかった。


 何が違うのかはわからなかった。でも、もう待てなかった。待つつもりもなかった。


 ついに卒業まで後少しとなった。

 俺は千風を手に入れると決めていた。だから、結婚しようと伝えたのだ。





 ところがクリスマスイブの夜、千風の家に着く少し前のこと。

 目の前に女が丸まるようにして倒れていた。ピンクブラウンの髪をした小柄な女だ。コスプレ衣装のような白い服を着ており、その横には、黒い猫が血を流して横たわっている。


 気味が悪かったが、一応声をかけた。


「大丈夫ですか」


 女は頭を押さえながらのろのろと立ち上がる。俺の顔を見て、一瞬頬を染めた。





 "ツー・シュタット"


 女のくちびるからこぼれたのは、なにか、聞いた事のない言語。


 ぱちぱちと瞬きをしたあと、女は「まだ使えるのね」と言い、とろりとした笑みを浮かべた。

 珍しい、赤銅色のような瞳だ。


 俺はこの手の視線には慣れていたから、千風に電話をかけつつ声をかけてくる女をかわした。彼女は料理中なのだろう。電話には出なかったが、俺は話しているふりをした。

 女の姿が消えたのを見て、千風の部屋へと向かった。


 ノックをする。おんぼろアパートのインターホンは壊れているからだ。

 ドアを開けるとふわりと漂ってくる、シチューの甘い匂い。


「ちかぜ……」


 俺は言いかけてぎょっとした。


 すぐ後ろに、あの女が立っていたのだ。

 可愛らしい部類に入るとは思うのだが、その形相は鬼のようでぎょっとする。


「ずるい。ずるい……何なのよあの女は。地味なくせに」


 ぶつぶつと呟くと、女の手が千風のほうへ伸びた。


「──交換してよ!」


 その手からぶわりと黒い風のようなものが出てきて、千風の姿が消えた。

 そして俺の意識もふっつりと落ちた。






 気がつくと俺は、その女と暮らしていた。

 家を訪ねてきた千風に暴言を浴びせた。記憶がぐちゃぐちゃになっている。


 もう、なにが夢で、なにが現実なのかわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ