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12.贖いとして望むもの

「それで? 君はどうしたい?」


 それは、空羊とレンヴァントと、この世界ではじめて三人で会った時のこと。


 贄の王子がどういうものなのか聞かされたとき、私は選択を迫られた。




「どうって……?」


 空羊の問いに困惑する。


「うーんとね、大体の落ち姫は、贄を伴侶に望んでたよー。

 そうしたいなら彼には困らないだけの財力と身分を持たせるし……」


「伴侶!? ……レンヴァントはまだ子どもだよ?」


 そう言ってから、彼がすっかり大人の男性になっていることを思い出す。


「贄の王子は、あくまでも生贄だからね。

 君がどう扱ったって構わないんだ。そのためのサポートならするよ」


 黒い笑みを浮かべる猫姿の空羊に、私は思わず顔をしかめた。気分が悪かった。


 だが、ふと思いつく。ベチルバードで過ごしてきたときの彼の様子を思い出したのだ。




「なんでもサポートしてくれるの?」


「うん。できないこともあるけどね。

 たとえば、君には必要ないと思うけど、若返らせろ! とか言われると困るし。でも、そういうのじゃなければ大体は叶うと思うよー」


「――それじゃあ、レンヴァントを学校に通わせて」


「学校?」


 空羊とレンヴァントが同時に聞き返す。


 ふたりとも目を丸くしていて、私は思わず笑ってしまった。






 彼に自由に生きてほしかった。


 夜に眠れなくてキッチンへ向かうと、たいていレンヴァントは共有スペースに居て、小さな体で分厚く大きな本を抱えるようにして読んでいた。


 熱中しているのだろう。薄暗い部屋で、片眼鏡をかけて。


 この子は学ぶことが好きなのだ。そう思った。




 彼の父王や兄王子を見ていても思った。


 きっと、レンヴァントの世界はとても狭かった。そして悲しかったのではないか。


 求婚しているのは、優しい子だから。

 しきたり通りに、私のことを気にしてくれているのだと思う。


 旅の間じゅう、子どもとは思えぬくらい、いろいろな心配りをしてくれたときのように。





 でも、レンヴァントが犠牲になる必要はないのだ。


 私はたった十日間、こことは違う世界に行っていただけ。


 しかも都合がいいことに年末年始だった。仕事にも影響はなかったし、そもそも気づいた人さえほとんどいない。


 生贄なんかにされて、きっと今までも嫌な思いをたくさんしてきたのだと思う。だから、――だから、レンヴァントが自分で道を開くための手助けをしたい。





 空羊は、この世界にレンヴァントの身分を創り出していた。


 神鳥・ヴァン・漣。

 ヨーロッパ系のハーフという設定である。


 彼の実年齢はまだ子どもだから不安もあったが、子どもとは思えない知識量だというのは向こうで一緒に生活をして知っていた。


 だから一緒に勉強をして、きちんと留学生の枠で大学に入学した。書類関連は、空羊がちゃちゃっと何とかしてくれた。


 ドームを貸し切りにして行なわれた入学式では、保護者席で号泣してしまったくらいだ。






 きっと、これからレンヴァントはたくさんの人に出会って、笑って、学んで、恋をしていくのだと思う。


 私は顔の見えない女性を想像し、――どうしてだか寂しく思った。


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