《8.最悪な場所にて》
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「はぁ……疲れたわ」
満身創痍のシーラ。
理由は勿論、大きなストレスを浴び続けたことによる心労であった。
「大袈裟なぁ……意外とバレなかったでしょ?」
ゆらゆらと上半身を揺らしながら、少年はふやけた笑みを浮かべた。
少年の予定通り、王城の通路を突破して、シーラたちは目的地に到着した。したのだが、シーラにとっては嬉しくない場所であった。
「ねぇ、ここに来るのは正気を失っていたからなの?」
「嫌だなぁ、僕はいつだって真面目に仕事をこなしているんだよ。ちゃーんと考えていた通りの場所。間違いないって」
──絶対嘘だわ。だって、私を逃してくれるのであれば、こんな危険な場所に連れてこないはずだもの。
シーラはげんなりした面持ちで、目前にある扉を睨みつけた。
「……どうして、王族の休憩室に来てるのよ。あの調子なら、普通に逃げれたのに、よりにもよってこんなところに連れてくるなんて……」
シーラと少年の2人は、王城内でも特に警備隊製の厚い王族だけが使用するフロアにやって来ていた。
シーラは逃げようと決意した矢先のことであったため、涙目になりながら少年に恨言をぶつけていた。
──もう、これじゃあさっきのよりも脱出難易度上がっちゃってるじゃないの。
シーラと少年は運良くフロアにある一室に逃げ込むことが出来たものの、今から通路に戻って城の外へ脱出するというのは、限りなく不可能に近いことだった。
時間帯的にも、夜分遅いので、暗殺などや侵入者を警戒する騎士たちは、ピリピリしながら巡回をしている。
「はぁ……本当にどうするのよ。これ以上、誤魔化しながら歩くのは流石に無理よ」
シーラはへたり込み、絶望に打ちひしがれる。
「落ち込まないでよ。僕だって、こんなところに来るのは、危ないなぁってちょっとだけ思ったけど、言いつけは守らないとだからさぁ……」
──言いつけですって?
シーラは、少年の告げた言葉の意味を瞬時に察した。
「つまり、依頼主の要望でこの場所に来たってこと?」
シーラが尋ねると少年はコクリと頷いた。
「そうだよ。しかもこの部屋を指定してきたんだ。……まったく、これは完全にオプションだから、追加料金請求しちゃいたくなるよ」
どうやら、少年も好き好んでこの場所に連れて来たのではないらしい。シーラを連れて、出歩くなど少年にとっても大きなリスクになっていたのだ。
「依頼主は、私をここに連れてきて何がしたかったの?」
──私をここに連れてきた理由は分かった。けれども、何故この場所に私を連れてきたかったのかがピンとこない。
少年は命令通りに動いた。
依頼主からは、シーラをこの一室に連れてきて欲しいという要望のもとでこのような状況になった。
であれば、シーラを連れてきてどうしたいのかを知る必要がある。
──まさか、自分の手で始末したいからとか言わないわよね?
シーラは依頼主の名前を聞いていないことに気がついていた。
この場所に呼び出しをして、何かしようと考えている人物など限られてくる。このフロア自体出入りできる人物はほんの一握りなのだから。
……王族か、王族の誰かに使える専属の使用人か。
他貴族の立ち入りさえ、王族の許可が降りなければできないこの場所に呼ばれたことにシーラは、最悪のシチュエーションを想定していた。
「もしかして、私がこの場所に呼び出された理由は、私にとって都合の悪いものなの?」
シーラは、生唾をゴクリと飲み込む。
「いやぁ、それが僕も詳しく聞いていないんだよね」
……残念ながら、シーラの望んだ答えは手に入らなかったが。
「そう……」
「ああ、もう! そんなに怖がらないでよ。お姉さんにとってその人は味方だって言ってたんだから。悪いようにはされないと思うけどなぁ?」
気落ちしたシーラを慌てて少年は励ます。
確かに、自然にシーラの味方であると少年は告げていた。
しかしながらと、シーラは深読みする。
──……そもそも、私を擁護してくれるような人がいるなんて話が怪しいのよね。
周囲に敵だらけの日々を過ごしてきたシーラにとって、その考え方は、古くから染み付いたものであった。
常に周囲に目を光らせ、疑わしきは罰すべしという全面攻勢状態で周りに群がる人間をシーラは遠ざけ続けていた。緊迫状態を維持しながら送る日々にシーラは自分しか信じられなくなっていたのだ。
──だけど、私の味方をしてくれる人がゼロというのも違うのよね。
騎士の青年は、シーラの無実を主張してくれていた。
恐らく、あれは彼の正義感によって、反論してくれていたのかもしれないが、それでもシーラは無条件で信じてくれる人がこの世に存在するということを知った。
──仕方がないわ。腹を括ってしまいましょう。
シーラは考えるのをやめた。
アレコレ理屈を並べたところで、肝心の答えに行きつかないからである。
「私はこのまま待てばいいの?」
確認を取ると、
「うん、そう。……約束の時間まであと……数十分……から数時間くらい?」
──そんな、適当な時間指定なら、しないほうがマシじゃないの?
と、シーラは思ったが、少年の行き当たりばったりな行動を多く見てきてため、依頼人のせいではないのではないかと思って、深掘りはしなかった。
「なら、このまま部屋で待っていればいいのね」
「多分ね。念のため中から鍵をかけておいたけど、その人は部屋の鍵持ってるみたいだから、安心して寛いでていいよ」
そんなことを言いながら、少年は既に室内に置いてあるフカフカのソファの上に寝転んでいた。危機感も緊張感もどこかに置いてきたみたいである。
──1人焦ってる私が馬鹿みたいじゃない。
少年に習い、シーラもソファに腰掛けて待つことにした。
──でも、どうして私なんかを助け出そうと思ったのだろうか。
潰えない疑問を浮かべたまま、救世主かもしれないその人物を静かに待つのだった。
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