《7.度重なる心労》
《7.度重なる精神攻撃》
逃亡の手順は、実に大胆なものであった。
少年の作戦を聞き、シーラは思わず感心してしまったくらいである。
──本当に成功するのかしら?
ただ、あまりにもど直球すぎる作戦のため、成功するかの不安は常に付き纏う。
「大丈夫なの?」
不安気に尋ねるが、少年の方は全く心配いらないというように強気に答える。
「失敗するわけないよ。なんたって、僕が昨日寝る前に考えた自慢の作戦なんだから!」
──ダメだわ。不安になってきた。
余計な一言を聞き、シーラは冷や汗をかいた。
少年の提案した作戦内容。それは、城内の侍女に変装して、そのまま正門から脱出するというものであった。
作戦自体は単純であるものの、顔を見られた瞬間1発アウトという博打に近いものである。
特にシーラの顔は、国内では有名であり、まさに国民的……悪女という不名誉な称号でも持っていそうなくらい著名であった。
──侍女の服は、なんとか手に入れることができたけどあまり人目の多いところは通りたくないわね。
少年とシーラの2人は侍女の変装をしていたが、それでも不安材料は尽きない。
「あの通路は、人が多いわね」
目的地に向かう通路は、数人の侍従が忙しなく働いている。加えて、警備のためか仰々しい装備をした騎士も見回りしているようで、数人がグループとなって歩いていた。
「……よし、行っちゃおう!」
「はぁ? いやいや、無理だから。あの人たちにバレたら捕まっちゃうわよ!」
元気よく飛び出そうとする少年をシーラは静止した。
確かに少年1人であれば、なんら問題なく突破できたことだろう。しかし、私も含めてしまえば、難易度は数段跳ね上がる。
「私もいることを考慮してよ。顔見られた瞬間1発で牢獄行きよ」
「むぅ〜、確かにそうかも」
──不安すぎる。幽閉されていた時とは比較にならないくらい命の危険を感じるわ。
生命線の短縮を身を持ってシーラは感じる。
暴走しがちな少年の手綱を握りながら、作戦を遂行しなければならない。
「これは、中々難しいわね」
気づいていないようであるが、シーラは助けられた側であり、逃亡の手引きは本来少年がこなすべきことである。そんな単純なことも、命がけの逃亡劇で気を張り続けているシーラは気付かないのであった。
「今なら行けそうね」
騎士の見回りも少なくなり、侍従の姿も少なくなった頃合いを見計らい、シーラは少年に呟いた。
「おお、待った甲斐があったね」
「けれど、全く人がいないというわけではないから、慎重に行きましょう」
シーラは顔を床に向け、自身の顔が人目に晒されないように歩く。少年は下を向いて前を見ることができないシーラの手を引き、上手に誘導することが今回やっていることである。
「あら、彼女どうしたの?」
「えっと、気分が悪いみたいで……」
「あらそうなの? 確かに顔色も悪いみたいだけど」
「そうなんです。顔色が悪くて他の人に顔を見られたくないみたいで……」
すれ違いざまに他の侍女に会話を投げかけられた少年は、ペラペラと適当な話を述べていた。
シーラは、バレたらやばいという気からか、一言も発することができず、ただ俯き正体が露呈しないように努めていた。
──やばいやばいやばい! 早く解放して……。
「あっ、ごめんなさい。彼女の体調が本当に悪いみたいで……失礼します」
「あら、引き止めてしまってごめんなさいね。お大事に」
時間にして、1分にも満たない会話であったが、シーラにとってはそれが数時間にも感じられた。
「もう大丈夫だよ」
「ええ……そう」
──冷や汗が止まらないわ。寿命がゴリゴリ削られる気分よ。
結局、シーラは誰かがすれ違うたびに真っ青になり続けるのだった。
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