《26.逃亡の報せ》
「グレアス王太子殿下! シーラ・アルファスターが、幽閉塔より逃亡致しました!」
「なんだと⁉︎」
誰もが寝静まるような時間帯に緊急の報せがグレアス王子の耳に入った。
毒殺未遂の犯人としてシーラを幽閉、その後、とても暮らしていけるような場所じゃない魔境へシーラを追放してやろうと考えていたグレアスは取り乱した。
──あの女……大人しく、散るのを待っていればよかったものを……。
「……すぐに探索隊を手配しろ」
「そ、それが……既に探索隊を手配し、シーラ・アルファスター嬢の発見に成功したのですが……」
使用人の顔色は青く、目が泳いでいる。
ギリッと噛み締めるように使用人は、グレアス王子にとあることを伝える。
「……その、探索隊の半数が、返り討ちに遭い、シーラ・アルファスター嬢の確保に失敗いたしました!」
思いがけない内容に、グレアス王子は頭を抱える。
──返り討ちだと? 一体全体なにをやっているんだ! 相手は、ちょっと性格がキツイだけの令嬢なんだぞ!
「シーラなんかに、うちの兵士がやられたということか?」
グレアス王子は憤慨しながらも、使用人に尋ねる。
「い、いえ。情報によると複数人の協力者がいたようです。やられた者の9割程は、シーラ・アルファスター嬢のところにたどり着く間もなく、行動不能に追い込まれてしまいました」
「そんなわけあるか! シーラに味方がいたとしても、そこまで多いわけがない」
「手練れの者が多かったそうです」
「くっ……」
シーラに味方などいるわけがないとグレアス王子は考えていた。
会場でグレアス王子に楯突いた騎士は、独房内で自害したという報告も受けたし、シーラはこのまま孤独に破滅していくのが彼のシナリオであった。
……それなのに、そのシナリオは脆くも崩れ去り、あまつさえシーラに翻弄されている現状。
──認められるか……俺は認めない!
「探索隊を増員して、再度シーラを拘束しろ。手練れでもなんでも、数で押し切れば、いずれ倒せるだろ!」
イライラゲージマックスのグレアスは、ドス黒い声で使用人にそう怒鳴る。
使用人は怯えながらも、「かしこまりました」と告げ、そそくさとグレアス王子の部屋をあとにした。残されたグレアスは、静かに震える。抑えることのできない怒りを近くにあったイスを蹴り飛ばし、それでも発散しきることはできなかった。
──許せないな。俺の考えに背いて、人を侍らせて堂々と逃げようだなんて。
絶対に逃がさない。
お前を捕まえて、絶望に歪むお前の生意気な顔を拝むまで俺は諦めたりなんかしないからな!
ものすごい執念を持つグレアス王子に意見をする者は誰一人としていない。
アズラエル王国の未来は、さらに大きく傾くこととなる。しかし、それを察する人はいたとて、今更止めることはできないところまで、グレアス王子は暴走している。
……破滅するのは、シーラではなく、自分自身であるとは微塵も想像していないグレアス王子であった。




