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《22.改心したんじゃありません》





 アズラエル王国騎士団所属の騎士シャーリー。

 彼女は、生まれながら騎士を目指していたわけではなかった。

 彼女が王国騎士団へ入団を考えたのは、入団試験の1週間前のことである。

「あっ、なんか給金高いな。取り敢えず、潜っとこと」そんな感じの軽いノリによって、シャーリーは入団試験を難なくパスして、騎士団へ入ることになった。

 それゆえに、騎士団への思い入れもなければ、情熱なんてものも空っぽ。王国騎士団は幸いにも、内部が腐りきっていたため、シャーリーにしてみたら居心地の良い溜まり場みたいな場所であった。


 ──仕事も楽だし、サボってても怒られないし、媚びれば仕事全部勝手にやってくれる人ばっかりだし、ほーんとに最高ですね!


 発想がゴミである。

 しかしながら、自らの持ち味を生かしての堕落ライフなので、他の者にその騎士らしからぬ振る舞いを注意されるなんてこともなかった。


 ──王国の内部情報を帝国にリークして、私はゆるゆる過ごしながら、王国と帝国の両方からお金をもらう。まさに、完璧な人生。


 ……シャーリーはどうしようもないくらい人間のクズであった。


「ふんふんふん♪」


 その日もいつもと同じように、仕事を誰かに押し付け、優雅にお昼寝でもしようと考えていたシャーリー。しかし、そんなだらしない格好のシャーリーを咎める者が初めて現れた。


「あの……今は勤務時間だと思うのですが」

「……は?」


 自分よりも若く、見たこともない騎士の青年。

 シャーリーは彼が新人であると看破し、そうして安心したように昼寝に戻る。


 ──なーんだ、新入りが無駄な正義感を振りかざしているだけか。どうせ、すぐにでも現実知ることになるんだから、そんな風に優等生続けようなんて無駄なことだよ〜♪


「私はい〜んですよ〜。働きたければ、君は仕事に戻ったほうがいいんじゃない?」

「はぁ、そうします」


 怠け者のシャーリーは、真面目な青年騎士を適当に追いやり、幸せたっぷりなお昼寝を続行した。

 しかしながら、その少年は、次の日も、その次の日もシャーリーの前に現れては、小言を残していくようになる。


 ──めんど。


 他人にとやかく言われるのが嫌いなシャーリーである。

 昼寝の時間を妨げられらば、当然機嫌も損なうものだ。

 今日もまたのこのこやってきた青年騎士を傍目で捉えて、なんと自分から身体を起こし、メラメラと無駄な対抗意識を燃やしていた。


「今日は、寝てないんですね」

「君が毎日来るから、気持ちよく眠れないんです。理解したら、さっさと仕事してきてください」

「先輩は?」

「私は、他の人がやってくれるって言うので、そのご好意に甘えているんです。私の分は誰かがやってくれるんですよ!」

「最低ですね……」


 先輩騎士に対して物凄く失礼な物言いだ。

 そんな風にシャーリーは思う。

 怖いもの知らずかと、ツッコミを入れてしまいたくなるのを必死に抑えて、シャーリーはコホンと可愛らしく咳払いをした。


「とにかく、私の仕事はちゃんとやってるんです」

「他の人がでしょう?」

「そう! 他の人がです!」


 もはや自分のどうしようもなさを隠す気もないシャーリー。怠け者末期状態であった。

 けれども、新人の騎士は、そんなシャーリーの堂々としたサボり宣言を聞き、思わず吹き出した。


「なんで、笑うんですかぁ?」

「ご、ごめんなさい。ただ、貴女はあまりにも素直だったので」


 ──……変な人。普通こんなこんなこと言われたら顔引き攣らせながら離れていくでしょうに。


 シャーリーは、その青年騎士に少しだけ興味を持った。ただ正義感の強いだけではない。こんなどうしようもない者に対しても分け隔てなく接することができる。

 自分とは、全くの別人。そして、他の誰とも違う青年騎士をじっくり観察した。

 そして、シャーリーは青年に尋ねた。


「君、名前は?」


 普段のシャーリーならば、絶対にそんなことしなかっただろう。軽く媚びへつらってから、そのままニコニコしている無償スマイルを向けるだけ。

 けれどもシャーリーは、彼に対してだけはそのような適当な関係で終わらせようとはどうしても思えなかったのだ。


「俺の名前ですか?」

「そうです。因みに私はシャーリーっていいます」

「……ジアボです。今年王国騎士団に入団しました」

「へ〜、ジアボくん、ね。うんうん! 覚えましたよ! これからよろしくお願いしますね」

「……俺は別にシャーリーさんによろしくされたくないんですが」

「はーい、うるさいですよ〜、新人は先輩に従ってればいいのです!」


 ──ラッキー。面白い子、見つけちゃった!


 好奇心。

 飽きるまで、散々に振り回してやろうと考えていたシャーリーは、それからジアボとよく喋るようになった。

 ジアボの嫌々会話を続ける様子も、甘えるとタジタジになり、顔を赤らめる仕草も、シャーリーは面白がり、いつしかシャーリーの中でジアボの存在は大きなものになっていた。


 ──ああ、今日、ジアボくんはどこにいるかなぁ?


 お気に入りの新人をシャーリーは可愛がった。

 他の誰からも愛されないところも気に入っていた。堂々とした立ち回りも、子猫が威嚇しているようなものと思えれば、ウザくもなんともなく、ただちょっかいをかけたくなるくらいの愛嬌に思えた。


 ──そんなんだから、つい肩入れしちゃうんですよね。


 ジアボのまとめる隊に入ったのも、シャーリーが望んだから。

 ジアボの窮地に駆けつけて、独房から助け出したのも、シャーリーがしたかったから。




 ……追手に追われているジアボ達の危険を退けようと思ったのも、シャーリーの気まぐれにすぎない。



 ──気まぐれ……で、片付けるには、ちょっと可愛がりすぎかな? まあ、いっか!


「バインド!」


 ジアボの息絶え絶えの声を聞きながら、ジアボの魔法を避け彼らに迫る追手の前にシャーリーは立ち塞がった。


「ふふっ、随分と楽しそうなことしてるんですね! 私も混ぜて欲しいな〜」

「んなっ……⁉︎」


 瞬間、追手は動きを止めた。

 ……いや、動くことが出来なくなっていた。


「一々、手こずらせますね。ようやく追いついたのに、そんな怖い顔しないでくださいよぉ」

「く、来るなぁ! 化け物がぁ!」

「化け物だなんて心外な……こんなに可愛らしい女の子にそんな酷いことばかり言ってたら、冥土に行ってもモテませんよ?」


 追手の顔に浮かぶ恐怖を意にも介さず、シャーリーは渾身の一撃を左頬にお見舞いする。

 数メートル単位で吹き飛ぶ人影を冷徹に眺めてシャーリーは満足そうに頷いた。


「はぁ、スッキリスッキリです!」


 ──これも、全部、私の自己満足。私は私のやりたいようなことをするだけ。……隊長を助けたのだって、聖水を分けてあげたのだって、気が向いたからなんですよ。感謝してくださいね!


「シャーリー? なんでここに?」

「あ〜あ、隊長ったら、また私に助けてもらっちゃって。……今回も、私にありがとうって言うんですよ?」


 シャーリーはいつだって気分屋な女の子である。

 序列13位、「影の精霊」は本日一番の笑顔をジアボに向けた。

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