《21.舞台裏の戦慄(サイファー視点)》
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シーラとジアボが去り、4人が集合していた場所には、誰もいなくなっていた。
……そう、本来であればそうなっていたはずだ。
しかしながら、王城に忘れ物を取りに行ったはずの少年とサイファーはその場に留まり続けていた。
白い息を吐きながら、サイファーは呟く。
「んで、何がしたいんだい?」
サイファーが冷たく吐き捨てると、少年はにこやかに答える。
「シャーリーがさぁ、手伝ってって言ってたからねぇ」
「はぁ……影で潰せないような厄介な連中を相手取らされられるのか。面倒なことこの上ないね」
「ふふん、まあ僕の手にかかれば朝飯前……いや、夕飯前だって!」
少年は意気揚々とそう宣言する。
「流石、序列8位のシュトレーナ様は言うことが違いますね」
茶化すようにサイファーはそう少年の名を告げる。
それを聞いたシュトレーナは、嫌そうな顔をしてから、皮肉るように言う。
「そうだよ。だから、序列12位の分際で僕のことをあまり馬鹿にしないでよね」
「はいはい、仰せのままに」
彼らの間には、明確な上下関係が存在していた。
そして、意外にもサイファーよりもシュトレーナの方が地位的には高い。
シーラとジアボの前では、まるで兄と妹のような振る舞いをしていた2人であったが、仕事を行う上では、シュトレーナがサイファーに強く出れるのである。
「ところでサイファー、あの2人を帝国に送ったらどうするの?」
「ん、どういう意味だい?」
「……囲い込もうとしてるでしょ。僕にはそう見えるよ」
──まあ、流石に鋭いな。
「……そうだよ。隠していたわけではないよ。言うタイミングがなかったってだけさ」
剣をゆっくり抜きながら、サイファーは答える。
サイファーにとって、シーラとジアボは有用な人材。彼の目には、そう映っていた。だからこそ、リスクを冒すことになる今回の救出作戦にも参加して、2人の逃亡の手助けを行ったのだ。
──あんなに強力な特性持ちと魔力覚醒した騎士の子を手放す理由はないからね。
王国の無能王子が酷い待遇を2人に強いてくれたおかげで、簡単にこちら側に引き入れられそうだし。今回の収穫は中々大きいものだったな。
それにしても、シャーリーがあの騎士の青年にご執心して、例の聖水を使ってあげるとは思わなかったよ。シャーリーが覚醒させてまで助けたかった騎士の青年。今後の活躍にご期待って感じだね。
ホクホク顔のサイファーは、「さてと」と一息入れ、腰を低くする。
楽しそうに思案に没頭している暇はないようである。
「……何人来たぁ?」
「5人くらいかな……この様子だとシャーリーがだいぶ落としたようだね」
冷静な分析結果を黙々と告げるサイファーを尻目に、シュトレーナは前は出る。武器などはない。シュトレーナが構えるのは、その手にある小さな拳のみ。
「じゃあ、そいつら轢き潰したら終わりなんだ。簡単なことじゃん!」
シュトレーナに宿るのは、闘気などのような純粋で嫌いなものではない。ただ、力をぶつけて押し潰してしまおうする絶対的な力を兼ね備えた狂気であった。
「本当に……雑魚のくせに僕の邪魔ばっかりして、謝っても許してあげないんだからね〜」
圧倒的なスピードと繊細な動きにより、追手の5人を次々と地面に叩き落としてゆく。
「があっ⁉︎」
「うぶっぇ……」
「ぐふ……っ」
一方的な蹂躙、わずか5分間の出来事であった。
シュトレーナの周囲は、まるで台風でも通ったかのように荒れ果て、彼女の顔には、追手を殴り倒したときに飛んできた返り血がべっとりと染み付いていた。
戦闘を終えたシュトレーナは、物足りないというような顔で、サイファーの近くへと戻る。
「はぁ……味気ないなぁ。シャーリーが逃すくらいだから、もっと骨があると思ったのになぁ」
シャーリーの特性上、そこそこ敏捷性があれば取り逃がしてしまうことも多い。それこそ、逃げるだけと考えて立ち回れれば、今シュトレーナに倒された5人は十分すぎる実力を有していた。
だが、シュトレーナの前にはあまりにも非力であった。それだけのことである。
──相変わらず、化け物みたいな動きしてるわ。味方で良かったとつくづく思うよ。
無邪気な暴君にそんな感想を抱きながら、サイファーは踵を返す。
「終わったんなら、2人のところに戻ろうか」
元々サイファーにとっては、2人を安全にガレン帝国へ送り届けることを目的としていた。
つゆ払いをしていたとはいえ、2人に万が一があってはならないため、急いで合流しようと考えていた。
サイファーは、2人と合流しようと2人の向かった方向へと小走りで進むが、シュトレーナはその場で立ち止まり、サイファーに手を振った。
「……来ないの?」
「うん、実は僕、まだ別件の仕事も残っててさ。そっちのほうにも取りかからないといけないから、サイファーがついてれば、大丈夫でしょ」
「まあ、そうだけどね……」
──多忙なら仕方ないな。
護衛は多いに越したことはないが、強要はできない。
過剰戦力とも思えるシュトレーナでも、近くにいてくれれば、心強いと考えていたサイファーは思わぬ誤算に戸惑った。
何事もなく、ガレン帝国にシーラとジアボを送り届けられれば、こんな心配はしなくてもよいのだが、波風立てずきにというのには、無理があるほど事態は大きなものになってしまっている。
──けどまあ、悩んでもどうしようもないな。
サイファーは、そのままシュトレーナを置き去りに再び足を動かす。
「じゃあ、お仕事頑張ってくださいね」
それだけ言い残し、サイファーは不要な言葉を残さない。
シュトレーナも別れ際の言葉とばかりに、サイファーと反対方向に向かいながら、呟く。
「シャーリーが、影ながら・・・・見守ってるってさ……これ、一応伝言ね」
サイファーはその呟きに返事をしない。
小さく頷き、そうしてサイファーとシュトレーナの2人は、各々の目的に向けて、動き出すのだった。
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