《19.望んだ再会》
「おーい、サイファー」
少年の呼びかけに反応して、少年の協力者であるサイファーは大きく手を振った。
毛皮の厚い温かそうな装いは、少年の真っ白な衣装とは正反対の黒色。腰にぶら下げた剣が水面からに映った月光を反射していた。
「遅いよ、レーナ」
「むぅ、これでも急いだんだよ」
少年の頭を撫でながら、サイファーはシーラに視線を配る。
「それで、君が例の……」
「はい、シーラ・アルファスターと申します。助けていただきありがとうございます」
深々と頭を下げるシーラに戸惑うサイファーは「気にしなくていいよ」と優雅に答える。
なにはともあれ、無事に少年の協力者と合流できたことにシーラは安堵していた。
──そういえば、さっきあの子、サイファーさんにレーナって呼ばれていたような。
まるで女の子の名前みたいだとシーラは感じていた。
けれども、少年をよくよく観察し……。
──まさかね。
そんなわけないかと首を横に振る。
髪は短く、一人称も僕で統一されている。
でも、確かに綺麗な顔立ちをしているなと、シーラは感じていた。女性であると言われると、そう見えなくもない。けれども、少年であると言われたほうがしっくりくる感じがする。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
シーラが少年について考えを深めている間に先に進むということで話が進んでいた。サイファーの一声により、少年も「よし行こう!」と意気込む。
そういうことならと、シーラは大人しく従ったのだが、その意見に待ったをかける声があった。
「その前に少しいいですか?」
サイファーの隣にいた人物であった。
茶色い布で全身が満遍なく覆われている謎の人物。てっきり、この人も協力者の方であるとシーラは思い込んでいたが、どうやら違うらしい。
「……まあ、いいよ。でも、あんまり時間は取れないよ。追手が来ちゃうからね」
サイファーが許可を下ろすと、謎の人物はゆっくりと身体に巻きつけた布を剥がしはじめた。
「……えっ」
布を完全に剥がし、中には王国騎士団の甲冑が顕になった。
そして、その甲冑にシーラは見覚えがある。
シーラが糾弾された際、唯一弁護してくれた1人の騎士。
──いいえ、まだそうと決まったわけでは……。
彼は死んでしまったと聞いた。生きているはずがない。私が彼を巻き込んで殺してしまったのに……なのに。
思わず、シーラは甲冑を身につけた騎士の方へと歩み寄る。
「あの……人違いであれば、聞き流して欲しいのですが……」
シーラはおそるおそる尋ねた。
「もしかして、あの時の騎士様……であってますか?」
返事はない。
顔色も窺えない。
シーラは、その様子から希望的な考えが間違いであったと考える。
──……そんな都合のいい話があるわけないか。
「その、ごめんなさい。変なことを聞いてしまって」
必死に取り繕うとするシーラは、早足で先に進もうとするが目前の騎士は、シーラの前に跪いた。
その姿はまるで、主人に絶対的な忠誠を誓う、物語の中に登場する威厳ある騎士のようであった。
「シーラ様」
「……っ! ……はい」
──間違いない。この人だわ。
決してシーラのことを軽視することはない。
礼儀正しく、忠義に熱い騎士。
王国内でこのようにシーラのことを敬う騎士などシーラは1人しか知らない。
「……ずっとお会いしたかったです」
そんな言葉を投げかけてくれた騎士を見て、シーラは心から安堵した。生きていたのだと、死んでしまったという噂は、誤りであったのだと。
「……良かった。私、貴方が死んでしまったと、聞いていたので」
思わず涙が溢れる。
啜り泣きながらも、騎士のほうからシーラは視線を外さない。
「ご心配をおかけしました。ですが、私は大丈夫です。シーラ様、ご迷惑でなければなのですが……」
騎士はとある言葉を口にした。
「私を貴女に仕える騎士にしていただけないでしょうか?」
──嬉しかった。
そんなことを言われたのは初めて……いや、2回目だ。
「勿論です」
──1年半ほど前、茶髪が印象的な若い騎士の子に同じようなことを言われた気がする。
確か名前は……。
「ありがとうございます。では、シーラ様。私のことはジアボと、そうお呼びください」
──確か、ジアボとそう名乗っていた。
シーラの中で全て繋がった。
目の前の騎士は、会場で颯爽と現れ、嫌われ者の自分を守ろうとしてくれた騎士は、過去に何気なく立ち寄った中庭で少しだけ話した若い騎士であると。
運命の巡り合わせ。
2人の再会はまさしくその言葉がよく似合うものであった。
お読み頂き、ありがとうございました!




