《17.死なば諸共……(ジアボ視点)》
──何がどうなってるんだ⁉︎
あり得ない出来事。
ジアボの戸惑いは、会場にいた者達の中で人一倍に大きなものであった。
「とぼけるな! この料理に毒物が混入していたのは、お前が入れたからだろ! 愛する王太子殿下が手に入らなかったからって、殺そうとするとは……本当に愚かな女だな」
貴族の令息だろう。
会場中に響き渡るような大きな声で、彼は1人の女性を非難していた。
シーラ・アルファスター侯爵令嬢。
あの日、自分の人生の分岐点に立ったまさにその人であった。
──何故、何故彼女が責められているんだ……。
ジアボは理解できなかった。
ジアボから見れば、渦中の令息が勝手に騒ぎ出し、シーラに向かって身勝手な理由から罪をなすりつけているようにしか思えなかったからだ。
──シーラ様がグレアス王太子殿下の婚約者で、愛されないことへの恨みから毒を盛った? ……彼女がそんな愚かな行いをするはずがないだろう!
声を大にしてそう言いたかった。けれども、そこまでの度胸がジアボにはなかった。
騎士がでしゃばる場面ではない。
あの空間にとって、自分は部外者でしかないのだとジアボは無意識に身を引いていた。
──歯痒い。こんな状況なのに、助けたいのに……すぐに駆け寄ってあげられない。
もしジアボがシーラの肩を持つことがあれば、ジアボに対しても重い処罰が下るかもしれない。人生終了に至るまでのリスクすらあった。
その恐怖はジアボをその場に縛り続けていた。
「はぁ……本当に愚かだな。この会場に貴女の味方など一人もいない。なぁ、シーラ・アルファスター」
令息は得意げにそんなことを口走る。
その一言にジアボは憤りを覚えた。
勝手な憶測。
シーラの味方が社交界に少ないことなどジアボは知らなかった。だからといって、味方が1人もいないなどと糾弾するのは、まるでシーラに対して、孤立しているのだから大人しく朽ちろとでも言っているかのように聞こえてならなかった。
──何も知らないくせに。シーラ様のことお前みたいな頭の足りない貴族風情が語るな……。
ジアボのそんな感情とは裏腹に事態はどんどん悪い方向へと転がっていた。
「お前はもう終わりだ。……衛兵、この女を捕らえろ!」
令息の一声により、会場警備とは別のところにいたであろう騎士がぞろぞろとシーラの周囲に寄り集まってくる。
──あいつら、どこから湧いてきたんだよ。
事前にこのことが分かった上で待機していたとしか思えないほどの手際の良さ。間違いない。シーラはあの令息によって罠にかけられたのだとジアボは確信した。
──卑怯なのはどっちだ。寄ってたかって1人の華奢な女性を非難しやがって。許せない……。
ジアボの怒りは怒髪天をつく勢いであった。
葛藤などは失われ、すぐにでも、その場に馳せ参じ、シーラを救うために騎士の1人や2人切り捨ててしまいそうなほどに覇気が宿った瞳をしていた。
その殺気に気が付いたのは、ジアボの隊に所属している隊員のみ。その他の人は、皆、会場の中心で行われている断罪現場に視線を注いでいる。
「ちょっ、隊長……どうしたんですか」
「悪い……流石に我慢できないわ」
「えっ、あっ……ちょっと……」
部下の静止を振り切って、ジアボはシーラの方へと一歩、また一歩と足を踏み出す。
「ちょっと、シャーリー。隊長なんとかしてくれよ」
「無理……あれは止められないよ」
「ええ……そんなぁ」
コソコソとシャーリーと隊員の話し声を聞き流しながら、ジアボは今にも会場の外へと連れて行かれそうなシーラの手を掴みんでいる兵士の肩を掴んだ。
「お待ちを」
ギリギリと鉄でできた鎧が歪んでしまうほどに兵士の肩に置かれた手のひらには強大な力が加わっていた。
後戻りはできない。
ジアボは分かっていた。
自分がこのあとどんな立場になるのかも、明るい未来なんてないことも。
──辛い未来が待っていたとしても、ここでこの人を助けなかったら、俺は一生後悔することになる。それだけは死んでもお断りだ。
俺は、あの時あの場所で、この人に俺の剣を捧げると誓ったのだから。
ジアボの運命の歯車はまたしても、大きな変化をすることになった。
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