《16.危険な沼(ジアボ視点)》
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──シーラ様に出会ってから1年半が経った。あれから俺は、あらゆる業務、鍛錬をこなし続け、新人にしては異例となる分隊長を任せてもらえるくらいにまで成長することができた。
そして、今日は、グレアス王太子殿下の誕生パーティーがある。分隊長として初任務がこのパーティー会場の警備だ。初めてこの立場での仕事、しっかりこなしてあの人に相応しいと誇れるような騎士になるんだ。
ジアボはこの日特段気合いを入れて周辺警戒に臨んでいた。
彼の受け持つ分隊は人数僅か4人。
決して多くはないものの、分隊長という立場にまで上り詰めた実力は、彼の並々ならぬ努力の賜物であった。
──それにもしかしたら、シーラ様も会場に来てくれるかもしれない。
気合いも入っていたが、ジアボはしっかりと浮かれていた。再開できたら、挨拶の一つでもできるかもしれないという技法的観測のもと、頬が僅かに緩んだ。
「隊長? 隊長!」
「んあっ、なんだ?」
「も〜エッチいことでも考えてたんですか? なんかニヤついててキモかったですよ」
ジアボが思い耽っていると、腰に肘鉄をしてくる部下が蔑んだような目で見ていた。
「お前は、隊長に対しての礼儀を覚えろ」
「私は、隊長よりも騎士歴長いんですよ。先輩を敬って欲しいくらいです」
むすっとした顔の彼女の名は、シャーリー。
常に周囲に愛嬌を振り撒き、騎士団ではアイドル的な存在の小柄な女性。青みがかった銀色に輝く頭髪に、独特のシュシュで髪を結っており、ジアボでなければ彼女の虜になってしまうほどに八方美人っぷりである。
そして彼女はジアボの数少ない分隊の隊員であるもある。ジアボの年上の部下、騎士歴もジアボより長いというジアボにとっては中々扱いにくい相手であった。
「では先輩、お願いですから持ち場に戻ってください。気が散ります」
馴れ馴れしいシャーリーをジアボは冷たくあしらう。
思っていた反応と違うとシャーリーは感じたものの、それを顔には出さない。
そんなジアボのつれない態度をどう捉えたのか、シャーリーはさらに積極的にジアボに構う。
「え〜いいじゃないですか。こんなに可愛い年上の部下に相手してもらえてるんですから、もっと喜びましょうよ! ほら、素直になってください」
「うるさいなぁ……仕事中ですよ」
「むぅ、ちょっとくらい大目に見てくれたっていいのに」
シャーリーの甘い猫撫で声もジアボには通用していなかった。
──はぁ、早くシーラ様とお会いたい。
ジアボの意識が完全に明後日の方向を向いていたことが原因である。
ジアボの視野は曇りきっていた。
それこそ、シーラという自分自身を変えてくれた相手以外は、魅力的に思えないというくらいにとんでもなくマイナス補正を周囲にかけているのである。
「隊長、ちょっと来てください」
「ああ、分かった」
ジアボは別の隊員に呼ばれ、そちらの方へと歩みを進める。
「そういうことだから、シャーリー、ちゃんと持ち場を守れよ」
「はいはい、分かりましたよーだ」
「……不安だ」
「ちょっ、最後の言葉は余計ですよぉ〜」
ボソリと呟いた本音は、運悪くシャーリーに聞こえてしまっていた。
甘えるようなシャーリーの仕草を華麗にスルーしつつ、ジアボは呼ばれた方へと向かう。
「……全く、本当に物好きですね。あんまり深入りしすぎるといつか隊長の身まで滅ぼしかねないってこと、分かっているんですか?」
だから、トーンの数段下がったシャーリーの声がジアボに届くことはなかった。
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