《14.理想と現実》
騎士は誠実であれ。
仕えるべき主人へ絶対的な信頼を寄せるべし。
仕えるべき主人の間違いは命をかけて正すべし。
騎士道に反する行いは、見逃すべからず。
それは、王族に仕える青年騎士ジアボの教訓であった。
幼い頃から憧れたアズラエル王国の騎士としての職。彼は、人一倍の鍛錬と最大限の善行を重ね、自分自身を高め続けた。誰よりも誠実で、窮地に陥った人を命懸けで助け続ける。名誉ある仕事。
非道な行いに対しては、常に毅然とした態度で対処する騎士への羨望。
正義感溢れる16歳。
曲がったことが大嫌いなジアボにとって、王家直轄の騎士団に入団できたことは、人生のピークであった。
──これからは、悪を正す立派な騎士になる。
しかし、やる気と活力に満ち溢れていたジアボの幻想は、無常にも破壊されることになる。
「おい、新人。取り敢えずお前は、雑務からこなしてもらうぞ。そこにある書類片付けとけ」
目の前に置かれた書類は、自分がこなすべき仕事ではない。
「あっ、俺のもよろしくな」
「これもね。はい」
──新人である自分に先輩騎士は、遠慮なく仕事を押し付けてきた。
「じゃあ、俺らは下町で可愛い子達と遊んでくるから。上にバレないようにちゃんと誤魔化しとけよ、新人」
「お仕事頑張ってね〜。ばいばーい」
──せっかく騎士としての一歩を踏み出せたと思ったのに。
……この国の騎士達は、腐り切っている。
横柄な態度の騎士の先輩ばかり。
自分と同期の騎士達は、皆生気のない濁りきった瞳で黙々と言われた仕事をこなすだけ。
秩序なんてものはない。
あるのは年功序列による理不尽な上下関係と目も向けたくない騎士の現実。
ジアボにとってその場所は、自身の抱いた理想の騎士像とは大きくかけ離れた醜く、居心地の悪い空間であった。
──こんなことなら、騎士になんてなるんじゃなかった。
困った人々に手を差し伸べる優しい騎士団なんてものはなかった。
仕事を乱雑にこなし、騎士の身分を傘に着て邪智暴虐の限りを尽くすような自分勝手な者ばかり。
ジアボは仕方なく、押し付けられた仕事を黙々とこなす。
周囲に埋もれ、自分まであんな醜い姿になるのではないかとジアボは悩む。
「……騎士団にいる意味ってなんなんだろうな」
──ふと呟き、その答えがないことを知った。
「お前、急にどうした?」
「俺たちの存在意義ってなんだろうなって思って」
「でたよ。ジアボの騎士像談義。お前も懲りないやつだなぁ……。考えるだけ無駄だって」
同室の友人にそんなことを言われながらも、ジアボの悩みはとても大きなものであった。
「俺は、こんな騎士団に入る気じゃなかった。騎士ならば、もっと万民に優しく実直であるべきなのに」
──けれども、現状は一向に変わらない。
俺みたいな新人の騎士1人が騒ぎ立てたところで、上から注意を受けるだけで何も変化しない。
「あんまり思い詰めるなよ。この先ずっとここで働いていくんだぜ?」
「ずっと、か……」
「いいじゃんか、給料は潤沢に振り込まれるし、生活は平民だった頃に比べたら圧倒的に高水準になったんだし」
──確かに、手元に残る給金は本当に多い。けれども、騎士として、十分な仕事をこなしていないのにこんなにお金を手にしてしまって……果たして本当にいいのだろうか。
ジアボの心に大きな引っ掛かりを残したまま、騎士としての日々は続いていくのだった。
お読み下さり、ありがとうございました!




