《12.簡単な逃避と難しい別れ際》
ニーフを伴い、シーラと少年の3人は、王城からの脱出を試みた。
そして、脱出は想像以上に簡単に出来てしまった。
それもそうだろう。ニーフの行動に制限を掛けられる者など、極少数でしかない。
陛下やグレアス王子ならば、王城の外へ出るニーフを引き留めるということもできただろうが、現実はそんな単純なものではない。
都合よくニーフの前に、外出を阻害するような存在が現れたりはしない。
──嘘……あんなに気を張って動いていたのが馬鹿らしく思えてくるわ。
「よし、無事に外に出られたね」
満足気に胸を張るニーフ。
もはやその可愛らしい姿でさえ、シーラには眩しいくらいに輝いていた。
「ありがとうございます。ニーフ姫殿下」
「お義姉様の身の安全を確保するためなら、これくらい何回でもやってあげるわ!」
──ああ、本当に愛らしい。私がこんな濡れ衣を頭から思いっきり被った状態でなかったら、ニーフ姫殿下の側を離れなかったでしょうね。
そう考えると、寂しい気もするわ。
3年間疎遠状態であった2人の間には、ブランクなど感じさせないくらいに信頼関係が構築されていた。
「……じゃあ、えっと」
「はい、ここでお別れ……ですわね」
理解の早いニーフは、客間での無邪気さを感じさせないくらいに大人しかった。
「へ〜、アッサリしてるね。てっきりもっと駄々こねると思ってた」
軽口を叩いた少年は既にシーラとニーフからそれなりに離れた場所にいた。
「私だってちゃんと分かっているもの。ここでお義姉様を引き留めてしまっては、お義姉様のご迷惑になってしまう……。私はお義姉様を困らせたいわけではないから」
「そんな、迷惑だなんて……」
──私を信じて、救い出してくれただけでも私にとっては本当にありがたいことだった。
「ニーフ姫殿下、迷惑だなんて悲しいこと言わないでください。ニーフ姫殿下は、私の命の恩人なのですよ?」
サラリとしたニーフの髪をシーラは優しく撫でる。
「お義姉様、私は……私は、お義姉様のことをいつまでも想い続けます! だから……お、お義姉様も、私のこと離れていても忘れないで!」
それはニーフの心からの叫びであった。
「忘れませんよ……」
シーラはニーフの言葉に間髪入れずにそう返した。
「忘れません。忘れられません……私にとってニーフ姫殿下は、忘れることのできないくらいに大切な人です」
別れは辛いものだった。
だからこそ、シーラはニーフからゆっくりと離れた。
これ以上一緒にいたら、決意が揺らいでしまうからだ。
「もしニーフ姫殿下が困難に直面したら、今度は私がニーフ姫殿下のピンチに駆け付けます」
「本当?」
「ええ、そうでなくても、いつか必ずこの恩を返すためにニーフ姫殿下に会いに行きます。絶対に」
──さようならは言わない。
今生の別れではないのだから。
「また会いましょう。今度はもっとゆっくりお話がしたいです」
悲しさがシーラの胸に込み上げてきた。
それでもシーラが涙を流すことはなかった。必死に堪えて、別れ際満面の笑みを浮かべ続けた。
「はい。いつまでも、いつまでも……お義姉様が帰ってくるのを待っていますわ」
──きっとまた会えると思う。
こうして心が繋がっている限り、相手のことを想い続けることができるのだから。
先の未来での再会を望みながら、シーラはニーフとの短く幸せな時間を終えるのであった。
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