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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

顔合わせの鏡 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 お〜っと、つぶらやくん。あごのところ、そりのこしがあるよ。もしかして、急いで家を出てきたのかな?

 ひげそりって、人によってはだいぶ神経を使うよねえ。私は電動シェーバー派なんだけど、ひげが伸びるとシェーバーの刃が引っかかってしまってね。はさみであらかじめ、ちょちょいと切らないといけない。

 そのときも、鏡は必須だな。どこをどれくらい刈ればいいか。手探りだと見落とすところも多いから。

 つぶらやくんは、ちゃんと鏡を見ているかい? もちろん、と思うかもしれないけど、外に出たり、誰かと会ったりすることがないと、一度も見やることないまま、一日を終えることがあるんじゃないかな?

 しかし鏡は、もともと儀式で使われることも多い、神聖さを宿すもの。あまりに気を払わなすぎるのも、問題かもね。

 私の昔話なのだけど、耳に入れてみないかい?



 私が中学校を卒業しようかという、時分のころだ。

 教室の一部の女子が、コンパクトや手鏡を持参し、髪のお手入れをする機会をもうけるようになっていた。

 当時の男子には、少し理解しがたい行為だ。男子のほうが髪が短くて、手入れする必要性が薄いこともあるんだろう。休み時間、ここぞとばかりに自分の顔とにらめっこを始める彼女たちの気がしれなかった。


 たいてい、ブラシや毛抜きを持参している彼女たちだが、ひとりだけ。それらを持たずにしきりに自分の顔を気にしている女子がいたんだ。あごをあげたり、うつむいたり、左右に首を振ったりと、せわしない。

 最初はどこかにゴミでもついて、それを探しているのかと思った。しかし、彼女が顔のどこかに手をやったりすることなく、あくまで用心深く自分を観察しているだけだ。

 最近の席替えで、たまたま彼女の隣の席になり、見すぎない程度に様子をうかがう。

 いっちゃあ悪いが、彼女は私から見て、さほど美人とは思えない。もし自分の顔に酔いしれているのなら、ずいぶんとハードルが低いことで……などと失礼なことを考えていた。

 そうしてまた昼休みになり、彼女がまた鏡をのぞき始めたところで。


 がたり、と机が鳴った。彼女のものだけでなく、教室にあるものすべてがだ。この場にいた全員が、ぴたりと動きを止める。

 遅れて、今度は更に強い横揺れが来た。地震だ。

 ロッカーの上に置かれている、本や部活道具などが転がって落ちてしまうくらいの強さ。机に下に潜り込んだ方がいいか、どうか?

 そう身をかがみかけたところで、ふと彼女の机の上からコンパクトが落ちかけたんだ。彼女のフォローは間に合わず、こぼれ落ちるそれに、つい私は反射的に手を伸ばす。

 一瞬、鏡側がこちらを向き、私の顔を映したところで、落とすまいとコンパクトを握り込んでしまう。

 パキリと小さい音がして閉じ込んだコンパクト。地震がおさまるまでそのままだったが、開いてみると鏡の下の部分に、ひびが入ってしまっていた。さらによく見ると、ほんの爪の先ほどの小さいかけらが、なくなってしまっている。

 一緒に状態を確かめた彼女へ、真っ先に頭を下げる私。しかし彼女はコンパクトこそしげしげと見つめたものの、私からの弁償の申し出に対しては「大丈夫」と手を振ってこたえる。

 あくまで形の上での断りだろう。コンパクトの色やサイズを確かめようとする私だが、彼女はそそくさとそれをしまってしまい、代わりに私へ告げてくる。


「顔に関するケガに、十分気を付けて。下手を打つと、ひどいことになるかもしれない」と。



 顔へのケガ。ひょっとして、何か飛んできたものにぶつかったりするのかと、彼女の言葉を聞いてから、私は警戒を続けていた。

 でも、数日後の放課後。欲しいゲームの発売日ということで、学校帰りに全力疾走していた私は、ものの見事に道路で転んだ。ほとんどヘッドスライディングのようなかっこうで、手をつきながらも、顔がわずかにアスファルトをこすった。

 やや横向きに着いたせいか、鼻じゃなくて頬に来たが、傷のつき方が少し妙なんだ。

 擦り傷ならいくつも爪を束ねて、ひっかいたような傷になるはず。それが熱を帯びたところに手をやると、血の筋が一本だけ指につく。ガラスに顔を写したところ、カッターで一太刀入れられたような、傷がついている。


 その日は絆創膏でごまかした私だが、翌日にはがそうとして息を呑んだよ。

 絆創膏で隠している端をちょっとでもはがすとね。痛みと一緒に、べろりと私の皮膚が剥けているんだ。もうどこからめくっても同じで、あの傷を中心として、どこも血と皮でべっとりと汚れていた。

 睡眠に使った数時間があるのに、血はいささかも乾いた様子を見せず、真新しいものがこぼれ落ちてくる。これはかなわないと、私は一回り大きな絆創膏を用意。傷口をしっかり覆ったうえで、更に大きいガーゼ類などもカバンへ入れて登校したんだ。


 案の定、学校でも出血は止まらない。

 午前中いっぱいで、はた目にも分かるほど絆創膏に血が染み入ってしまい、はがぞうにもまた痛みとともに、肌を犠牲にしなきゃいけなかった。

 傷口が広がっている。あまりの痛さに、絆創膏のうえに絆創膏を重ねるという技まで使ったのに、どうして?

 トイレでガーゼに張り替えた私が席へ戻ると、隣の彼女が声をかけてきた。


「そのケガ、どこでやったの?」


 もとより顔のケガを心配していた彼女だ。私が素直に場所を教えると、放課後にそこまで連れて行ってほしいと申し出てきた。


 現場につくと、彼女は私の転んだあたりを入念に調べる。

 ややあって、私を手招きしてきたのを受けて見ると、アスファルトの砂利の中に、きらめくガラス片らしきものがあった。それはわずかに血を帯びている。

 彼女はあのときのコンパクトを取り出す。鏡は変わらずひびが入っていたが、あの欠けた部分を見て、私は息を呑む。


 そこには人肌と同じような、皮膚の断片に張り付いていたからだ。よく見ると小さく脈打ち、生きているように思えたよ。

 でも、それもほんのわずかな間だけ。彼女が鏡の破片に対し、コンパクトを開いて向けながら、「戻っておいで」と声をかけると、次の瞬間には皮膚が消え、代わりに破片がそこへはまっていた。直接、手で触れた様子もないのにだ。

 そして、私の顔からも痛みが引いている。おそるおそるガーゼをはがすと、その下はもちろんのこと、絆創膏の下の傷さえも、きれいさっぱりなくなっていたのさ。


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