表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三毛猫な俺と魔女な母

作者: 胡桃リリス

猫の日ということで、猫の話です。よろしくお願いいたします。

 アナタは、猫を抱っこしたことはあるだろうか。

 子猫のうちなら全然全く問題ないのだが、それなりに大きくなったら、ちょっとだけ重たい。さらに、暴れられたら抱っこなどできたものではない。


 その点、この三毛猫(雄)は抱っこしやすいだろう。

 生後半年ほどだろうか。小さな子でも余裕を持って抱き上げることができる大きさと重さで、くりんとした瞳と愛らしい顔立ちは、見る者の庇護欲を強く刺激する。


 現在、彼を抱き上げているのは、カフェのテラス席に座る、十代半ばから後半になったばかりほどに見える女性だ。

 黒いとんがり帽子とマント姿は、お伽噺に出てくる魔女その人だ。

 しかし、彼女を恐れる者はそういないだろう。確かに、顔立ちは彫が少ないため周囲の者には幼く映えるし、独特ではあるが、誰もが振り返る愛らしさがあるためだ。艶やかな黒髪の天辺に、アホ毛が一本立っていて、微風に合わせて揺れている様子も可愛らしい。

 さらに、優しい性格らしく、目の前を通り過ぎながら挨拶をした子どもたちに、笑顔で手を振りかえしている。


 なるほど、この女性なら、この子猫が安心して抱かれ続けているのも納得だ。




 なんて……モノローグを考えてみたが。


「なぁ母さん」

「なぁに? みーくん」

「そろそろ離してくれると助かるんだが」

「あらダメよ。まだみーくん成分の補充ができていないんだから」


 ぎゅぅっと子猫を抱きしめる女性に、周囲の視線が老若男女問わず集まるが、男性は猫と女性の胸の方に注目が集まっている。

 この人、わかってんのかな……。


「そろそろ離して。注目され過ぎて辛い」

「あらあら、みーくんの可愛さに皆がメロメロね」


 いや、男性の半数は母さんの方にメロメロだよ。


「いや、もう暑いって!」

「あぁ~」


 無理やり身をよじって脱出し、俺は母さんの足元に着地した。


「む~、みーくんが冷たい」

「うぐっ、その目はやめてよ」


 むくれた表情の母さんに、俺は何だか悪い事をした気になってしまう。

 えぇい、駄目だ。

 暑苦しかったのは事実だし、何より母さんへの視線がわかっているのにそれを無視するのは、息子として辛いものがある。


「しょーがないなぁ。あ、ウェイトレスさん、お勘定、お願いできる?」


 近くを歩いていたウェイトレスさんを呼び止めて支払いを済ませた母さんと一緒にカフェを出た。

 マントの裾を揺らしながら歩く母さんのすぐ隣で、俺は短い四本脚をせわしなく動かしながら着いて行く。

 し、しんどい……猫ってだけでもアレなのに、子猫の体だと、こんなに辛いのか。


 普段、母さんに抱っこしてもらっていたり、肩に乗せてもらっていたから、こんなこと、今日初めて知った

 すると、母さん、足を止めかたと思うと、


「無理しちゃだめよ~」


 腹に感じた食感と、浮遊感、視界が高くなったことで、母さんに持ち上げられたことに気が付いた。

 そして、母さんの左肩に、俺はちょこんと乗せられた。

 少し横へ向けば、見慣れた目と鼻梁が見えた。


「ありがとう……」


 気を遣わせてしまったことに申し訳なく思いつつお礼を言うと、母さんは「いいわよ~」と言ってくれた。

 けれど、母さんはそれだけで止まらず、


「私も、さっきはありがとうね、みーくん」

「え?」

「私のことを見てくる男の人が多かったら、出ようって、言ったのよね?」


 うげ、見抜かれてた。

 滅茶苦茶、気を遣われていたのは、俺の方だった。


 そりゃそうか……母さんは俺より一回り以上も大人で、そう言った視線や感情にも疎い訳がなくて、受け流し方も心得ているって、どうして気が付かなかったんだろう。


 恥ずかしさと情けなさで一杯になって、母さんに顔を見られないようにそっぽを向いた。猫だから表情はわからないと思うが、どうしても見て欲しくないって思った。

 心配していたつもりが、全然逆だった。


「みーくんは優しい子だね」


 母さんの優しい声と言葉に、俺は違うと心の中で叫んだ。

 優しいのは母さんの方だ。

 俺はただ、俺の感情を押し付けていただけなんだから。


 本人には、絶対言わない。


「みーくんはだーくんと一緒で、私の事、大好きだもんね」

「ちょぉい?!」


 親父(だーくん)と一緒って、それはちょっと違うだろ!?

 びっくりして振り返ると、鼻先が母さんの鼻先とくっついた。


「私も、みーくんの事、大好きだよ」

「ぐっ……」


 ご丁寧に顔を背けられないように両手で固定され、真正面から必殺の一撃をなけかけてきたやがった。

 思春期の男の子は結構繊細なんだから、そういう恥ずかしくなっちまうのはやーめーれー!


「みーくん、照れてる~! 可愛い~!」

「って確信犯か~い!」


 に゛ぁ゛ーに゛ぁ゛ー喚く俺を、それはそれは楽しそうにモフる母さん。


 この人はいつだって、落ち込んだ俺を励まそうと、あの手この手を使ってくる。

 敵わない人だ。多分、一生頭が上がんないと思う。


 全く、騒いだら悩んでいるのも馬鹿らしくなってきた。

 俺はもう好きにしてくれと、主目的が変わってもふもふしたがる母さんに、十分ほど、脱力して付き合うことになった。


「わーい、もふもふなみーくんもかわいいぞー」

「そっか……よかったね……」


 通りゆく人の生暖かい眼差しを感じながら、俺は空を見上げた。




 あぁ、まったく、異世界に来て、色々面倒な事に巻き込まれたっていうのに。

 この人は弱いところを一切見せずに、使い魔になっちまった実の息子を守ってくれている。

 本当、この人には一生頭が上がらんわ。


「よーし! じゃあ次の街へ行くぞー!」

「お、おぉぅ……」


 身も心もボロボロになった俺を肩に乗せたまま、母さんはマントの内側から樫で出来た杖を取り出すと、横座りで乗ると、地面を軽く蹴った。


 そのまま、一気に上昇した母さんwith俺(三毛猫)は、よく晴れた青空の下、次の目的地へと飛び去ったのだった。




 なんてことを、異世界から帰ってきた後、思い出話の一つとして母さんが親父に話していた。

 そして、案の定、親父は俺を見てニヤニヤと笑いながら、「へいへ~い、母親を守るなんて立派になったじゃないか、え~?」なんて煽ってきたので、猫の姿に戻ってパンチしてやった。


「オフゥッ、やるじゃねぇかドラ息子ォ……」

「うるせー! そう言うのは俺のいない前で言えよー!」

「あらあら、だーくんもみーくんも仲良しねぇ」


 のほほんとした母さんの声が、春間近の空に舞い上がった。



お読みいただき、ありがとうございました。

猫の日だったので、何か猫のお話を描こうと思い、五年前くらいに作っていた設定集を引っ張ってきて書き上げましたが、投稿したのは23日午前0時ジャストでしたが、22日24時と考えればまだ猫の日は続いていると考え、次へ活かしたいと考えています。(何を?)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ